上腕PICCでは第一選択は尺側皮静脈になりますが、上腕尺側皮静脈がもともと穿刺挿入には向かないほど細すぎる場合、穿刺に失敗し血腫の圧迫や血管外の血液の漏出による不鮮明化などで穿刺ポイントがなくなってしまった場合などがあります。

そのような場合は穿刺点を変更しなければならず、選択肢のひとつとして上腕の上腕静脈があります。ただし上腕静脈の解剖は個人差と部位による変化が大きく、通常動脈をはさんで2本あるところが1本しかないとか、1本から2本に分かれているとか、正中神経や上腕動脈が上腕前面にかぶさっていて刺入ポイントが限定されていたり、蛇行が強いなど、解剖学的に多彩であることに注意してください。

上腕静脈の同定方法ですが、まず肘窩あたりで拍動している上腕動脈の真上にプローブをあてて上腕動脈を同定し、その両側に圧迫してつぶれる血管が発見できればそれが上腕静脈です。それを見失わないように体幹方向にsweep scanし、走行、静脈径、動脈や神経との位置関係、合流・分岐などを観察し、適した穿刺ポイントを探します。細く見えても駆血してみると意外に拡張してくることもあるので、1回は駆血して評価しましょう。また、少しヘッドアップして上肢を少し下げる位置で評価するとかなり拡張する場合があります。

穿刺点の上腕_上腕静脈付近は上腕動脈や正中神経と近く、合併症リスク(動脈誤穿刺、神経損傷)が相対的に高いと考えられるため、細すぎる場合、1本しかない場合、正中神経や上腕動脈を避けるのが難しい解剖学的条件の場合は選択しない方が無難です。PICCの最大の利点である「機械的合併症の発生率が小さい」点が相殺されてしまわないようしましょう。ただし、プローブの当て方によっては、動脈や神経をうまく避けるルートが見出せるかもしれませんので、難しいと思っても時間をかけて評価してみましょう。

エコーガイド下でPICCを実施した218件の調査では、挿入時の動脈誤穿刺は4件(1.8%)、神経損傷および刺激は1件(0.5%)あり、それらはすべて上腕静脈アプローチだったということです(国島ら. 日本NP学会誌 2018 vol.2 No.1 8-16)。上腕PICCといっても、尺側皮静脈アプローチと上腕静脈アプローチでは、やはりその機械的合併症のリスクに差があるということは、銘記しておく必要があるでしょう。動脈誤穿刺は早く気づいて圧迫すればそれほど問題にはなりません(上腕動脈は心カテでもアプローチします)が、気づくのが遅れると巨大血腫⇒コンパートメント症候群、仮性動脈瘤、動静脈ろうなど、重篤化する可能性があります。正中神経誤穿刺では永続的な運動・感覚障害が後遺することもありうるでしょう。重篤な合併症リスクがない、というのがPICCの最大の売りですが、その宣伝文句を真に受けるとひどいしっぺ返しを喰らう可能性がありますので注意してください。個人的な経験からの感想ですが、鎖骨下_腋窩静脈穿刺よりもPICCのほうが慎重さを要求され、こわいです。

正中神経の誤穿刺を避けるためにはプレスキャンで正中神経の同定が不可欠です。正中神経は、短軸像では低輝度な類円形な領域が集まって、根菜の「レンコン」の様に見えます。脈管にもよく似て見えますがドプラでは血流がないことが確認できます。見慣れないと判別できないので、そういう目でいつも見るようにしてください。穿刺時に正中神経を誤穿刺した場合は手指にしびれや電撃痛が生じますので、あらかじめ患者にはそうした症状が出たらすぐ教えてくださいと伝えましょう(自ら申告しなくとも実際は相当痛そうにするのですぐわかると思いますが)。神経誤穿刺を疑ったらすぐに抜針して中止してください。その後慎重な経過観察や脳神経内科のフォローを要する場合があります。

なお、エコーで正中神経を同定できる経験やスキルがなければ、上腕_上腕静脈穿刺は選択肢に入れるべきではありません。

適応、穿刺方法、体位、機材配置、プレスキャン、穿刺針・器材、手順などは上腕・尺側皮静脈穿刺と全く同じです。穿刺方法も同様に短軸像穿刺sweep scan法が適しています。