PICC挿入の適応

PICC(peripherally inserted central venous catheter,通称ピック)は、上肢の末梢静脈から挿入するCVカテーテルです。名称としてはカテーテルそのものを指します。体幹や大血管から離れた腕を穿刺挿入点とするため、通常のCVカテーテルと比べて穿刺時の重篤な機械的合併症が少なく感染防御の面でも優れているとされ、医療安全面で重要な位置づけにあります。上腕_尺側皮静脈からのCVCとは、上腕からのPICC挿入の手法を意味します。

PICCの挿入の適応は、7日以上の長期にわたり静脈ラインが必要となった患者で、さらに次の項目のどれかに合致した場合です。

  1. 高浸透圧溶液または極端なpHの溶液(TPN等)の投与※
  2. 壊死性・炎症性薬剤(血管作動薬、化学療法薬、抗酵素薬等)の投与※
  3. 末梢静脈路の確保が困難な場合、末梢静脈路の確保が困難になることが予測される場合
  4. 抗菌薬、抗真菌薬等の長期投与
  5. 頻繁な採血を要する病態・治療方針
  6. 解剖学的異常により通常のCVカテーテルが留置できない場合
  7. 3か月以内を予定する在宅TPN
  8. 血小板減少症・出血傾向の患者で出血リスクを極力抑えたい場合
  9. 感染防止に特別な注意を払いたい場合
  10. 頚部・鎖骨下部などからのCVライン挿入に不安感・恐怖感が強い、または拒否的な患者の場合
  11. 若年女性など美容的に特別な配慮を要する場合
  12. 熱傷・外傷などで頚部・鎖骨下部からのCVライン挿入にリスクが高い患者
  13. 心不全、頭蓋内圧亢進で仰臥位・頭低位にできない患者
  14. リハビリがメインだがCVラインも必要な患者
  15. CVラインのマルチルーメン管理は卒業しているがまだCVラインが必要な患者
  16. CVポート埋め込み適応だが、その拒否がある場合
  17. 気管切開後の内頚静脈アプローチによる感染リスクの回避を意図する場合
  18. CVPまたはScvO2測定目的
  19. 1か月未満で終了する見込みのTPN療法
  20. 自家移植または造血幹細胞の同種移植
  21. 乳がんなどの胸壁転移がある場合の中心静脈ライン確保
  22. ターミナルケアの一環
  23. 在宅中心静脈栄養

などが考えられます。

※参考:漏出性障害を生じる薬剤(田村敦志:Medicina 40: 1002. 2003 一部改)

  • 抗がん剤:発泡性薬剤(壊死起因性抗がん剤;vesicant drug)、刺激性薬剤(炎症性抗がん剤;irritant drug)※「抗がん剤の血管外漏出の予防と対応ガイド」が詳しい
  • 電解質補正用製剤:カルシウム塩、カリウム塩
  • 高浸透圧性毒性:高張性ブドウ糖(>10%)、造影剤 D-マンニトール ※浸透圧比約3(浸透圧800~1000mOsm/kgH2O)の輸液が末梢静脈から投与できる限界とされている
  • 非生理的pH(pH<4.1で血管障害が起こりやすい):フェニトイン、チオペンタール、重炭酸ナトリウム、カンレノ酸カリウム、フロセミド、ニカルジピン、アミオダロン
  • 血管収縮作用:ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ネオシネジン、エホチール
  • その他:アシクロビル、メシル酸ガベキサート※、ジアゼパム、ジゴキシン、プロポフォール、塩酸バンコマイシン

※メシル酸ガベキサート:①投与速度と重症度が相関する、②投与中や直後のみではなく、3~4週後、あるいは数か月後に発症することがある、③投与中に血管外漏出がなくても発症することがある(吉崎ら. 皮膚病診療, 27:1297, 2005)

CDCのガイドラインでは以下のように勧告されています。ミッドラインカテーテルについては日本には製品として導入されていませんのでここでは触れないことにします。その他の応用テク>末梢静脈ライン留置の項を参考にしてください。

PICC挿入の禁忌

PICCの挿入は中心静脈ラインを確立するための処置のひとつであり、患者の状態によっては緊急性のある救命的な処置となります。そのため絶対的な禁忌はありませんが、いくつか相対的な禁忌があります。

  1. 挿入部位(上肢)に感染性合併症などのリスクが大きい場合(熱傷、外傷、皮膚感染、蜂窩織炎、放射線性皮膚炎、静脈炎、高度の浮腫等)
  2. 静脈内血栓を認める部位からの挿入
  3. 活動性菌血症が持続している場合
  4. 慢性腎臓病や末期腎疾患(透析用の内シャントを造設する可能性がある場合、すでに内シャントやグラフトが造設されている場合、両側上肢ともに禁忌)
  5. 静脈径が小さい(駆血しない状態で静脈径が3~4 mm未満またはカテーテル径が静脈径の1/3以上あった場合)
  6. 乳房切除およびリンパ節郭清後
  7. 松葉杖を使用中
  8. 麻痺側上肢からの穿刺挿入

PICC挿入のリスク

PICCも中心静脈カテーテルである以上、さまざまな合併症リスクがあることも知っておく必要があります。

  • 最近の報告では通常のCVカテーテルと比べて明らかにカテーテル感染率が低いというエビデンスは得られていない
  • 血栓性静脈炎はPICCでの発生率がCVカテーテルと比べ高い(OR 2·55, 1·54–4·23, p<0·0001  The Lancet. Volume 382, Issue 9889, 27 July–2 August 2013, Pages 311-325)
  • 5FrダブルルーメンだとDVTのオッズ比は7.54、6Frトリプルルーメンだと19.50(RS Evans,  et al. Risk of symptomatic DVT associated with peripherally inserted central catheters. Chest, 138 (2010), pp. 803-810)

  • まれではあるがカテーテル離断・塞栓、心筋穿孔・心タンポナーデ、心房性不整脈、右心房内血栓、肺塞栓、動静脈ろう、血管損傷、ホルネル症候群・骨間神経損傷を含む神経損傷、腕神経叢損傷、縦隔気腫などの機械的合併症が報告されている

などを抑えておく必要があります。となると「PICCは致死的合併症を起こさないから安全な中心静脈路だ」は本当か、という疑問がでてきます。それは神話ではないですか?PICCは絶対に安全。そうした思い込みが大きいピットフォールとなって、そこに落ち込むリスクが生まれないでしょうか?事実、PICCの実施件数が増えていくにつれ、今後多くの合併症が顕在化していくだろう、と予想する研究者もいます。PICCはあくまで「中心静脈路のひとつの選択肢」であって、一長一短であり、PICCを含めて各患者のリスクを踏まえたうえで適切な器材の選択をしていく必要があること、どのような手法の選択をしてもそれをつねに安全確実に実行できるスキルを身につけること、これが基本的な取り組み姿勢であると考えます。

PICCで最も気になる有害事象は深部静脈血栓症です。これはカテーテル径が大きくなるのに比例して発生率が上昇することが示されています。この理由により、当センターではPICCはシングルルーメンキットのみがストックされています。そのため、たとえばTPN目的だけならばPICCでもよいのですが、それに抗生剤の投与があり、末梢静脈路が確保困難であったりすると、PICCではなくダブルルーメンCVカテーテルを鎖骨下_腋窩静脈ルートで留置する、という使い分けになります。シングルのPICC1本で、そこに栄養も抗生剤もカテコラミンもすべて突っ込んだりするのは、感染リスクを上昇させ、配合変化や析出によるカテーテル閉塞の原因にもなりますので賛成できません。PICCは中心静脈カテーテルの一種でありその使い分けが大事なので、機械的合併症がこわいから全部PICCに移行したほうがいい、という議論は大雑把すぎると、個人的には感じています。

穿刺部位:上腕内側

PICC挿入はもともと、前腕の体表面から見える血管を駆血帯を用いて目視下で穿刺する方式、つまり末梢静脈確保と同様の簡便な手技で挿入することが基本手技でしたが(これを古典的PICC、traditional PICCと呼んでいます)、相対的に細い(=血流速度が遅い)血管から挿入していることと上大静脈まで人工物の挿入長が長くなることによる血栓症のリスクが上昇すること、肘関節をまたぐことによる日常的・頻繁な屈曲で点滴の滴下状態が変動しやすいこと、またそれの機械的刺激による血栓形成を誘発しやすいこと、挿入部皮膚のカテーテルの移動に伴うこすれに起因する易感染性などの欠点あること、が指摘されるようになりました。

その欠点を補う手法として、肘関節より体幹寄りの上腕の静脈から穿刺挿入する方法が注目されました。これは体表面からは目視できない比較的深いところにある上腕の尺側皮静脈や上腕静脈なので、エコーガイド下で穿刺することがほぼ必須になります。これを上腕PICCと呼んでいます。上腕PICC=エコーガイド下上腕_尺側皮静脈(or 上腕静脈)穿刺ということになります。現代では上腕PICCが主流になったといっていいでしょう(ただし強いるいそうなどで例外的に上腕_尺側皮静脈が目視でき、エコーを使用せず目視下で穿刺できる場合もあるようです)。

上腕PICCの穿刺静脈の第一選択は尺側皮静脈(Basilic Vein)です。理由は、血管径は比較的太く、腋窩静脈から上大静脈まで経路に障害のない通り道になっていること、上腕動脈や正中神経といったトラブルを避けたい重要な構造物とやや距離があることからです。この手法を上腕_尺側皮静脈穿刺と表記・呼称することにします。

PICC管理マニュアル:カーディナルヘルス

尺側皮静脈には内側前腕皮神経(感覚神経)が伴走しています。この神経はエコー上同定が難しいので無視していますが、幸い穿刺時のトラウマによる神経障害は経験していません。もし神経損傷となった場合は、感覚障害が発生する可能性があります。下の解剖図を見ると誤穿刺リスクも高そうに見えますのでイヤですね。

(解剖学カラ―アトラス第5版. 2004年 医学書院)

短軸像プレスキャンで穿刺部前壁に神経を疑うようなhypoechoicで血流のない類円形像がもし認識できたら、この神経だと考えて穿刺部を再検討する、というくらいの構えでよいでしょう。

ちなみにPICC挿入時ではありませんが、献血時に左肘部前面の穿刺から内側前腕皮神経損傷となり、Tinel様徴候(病変部を軽く叩打すると末梢側へ放散するしびれ感)、前腕から掌側へ広がる知覚低下があり、手術治療でも回復しなかった事例が報告されています(高見ら. 第17回臨床解剖研究会記録 No.14 2014.2)。やはりこの神経を無視するのはよくないですね。

尺側皮静脈と尺骨神経との関係も気になるところです。尺骨神経は「上腕では上腕動脈の内側に沿って走るが、中部で内側上腕筋間中隔を貫いて後壁に向かい、下部では上腕骨の内側上顆のすぐ後ろ(尺骨神経溝)を走る。上腕では分枝を出さない(解剖学講義 南山堂 1992)」とあります。要するに上腕上部から尺骨神経溝に向かって徐々に深くなり、尺側皮静脈の穿刺部付近ではかなり深部を通っているため、誤穿刺のリスクは非常に低いと考えてよいと思います。実際、尺骨神経はなかなか同定できません。また、尺側皮静脈よりも浅いところを走っている可能性もほとんどないでしょう。前壁穿刺で成功させる限り、尺骨神経の誤穿刺のリスクは小さいといえるでしょう。

他に橈側皮静脈(Cephalic vein)や上腕静脈が穿刺静脈として検討できますが、橈側皮静脈は腋窩静脈との合流点で急角度に曲がるため、そこでガイドワイヤーがひっかかり進まないトラブルが発生しやすいことと、血管自体も比較的細いことから挿入には向かないとみなされています。ただし、尺側皮静脈の発達が非常に悪い場合、代償機転なのか橈側皮静脈が太く発達している場合も経験していますので、オプションとしては覚えておいてよいと思います。上腕静脈はどうかというと、正中神経や上腕動脈に近く、誤穿刺のリスクがある点で、第一選択としては推奨されませんが、尺側皮静脈が穿刺できない理由があれば選択肢にはなります。これは別記事、上腕_上腕静脈で解説します。

体位・機材配置

体位ですが、穿刺側上肢は内側の尺側皮静脈を穿刺しやすいように外転位でやや外旋位とします。プローブ操作に支障がない程度でよいので45°程度の外転位としています。外旋の程度は「手のひらを天井に向けてください」と指示し、その程度でよいでしょう。テープやバンドで固定する場合もあります。

上肢の拘縮などにより外転・外旋がつらい患者さんでは、肘関節をやや曲げるようにしてから前腕と台の間に枕を置いて安定させるとよいでしょう。

術者の立ち位置は右上腕穿刺の場合は右肩あたりに立って足側を向くような姿勢で行っています。上腕内側をのぞきこむような体制になりますが、手の位置・視野はさほど窮屈ではありません。この立ち位置では腕の下には平らなボードなどを置いて物品が置けるようにするのが便利です。

これがないと穿刺成功後のプローブの置き場所に困ります。プローブの置き場がないと、床にずり落ちる可能性があり、スマートではありません。ただし立ち位置は体幹と上肢の間に座って実施するスタイルもあり、その場合はこの板は邪魔になります。このあたり、個人のやりやすいほうでよいでしょう。左上腕の穿刺の場合は、右利きの術者は必然的に体幹と上肢の間に位置することになります。

機材配置はエコーの画面は右上腕穿刺では患者さんの腰のあたりに置くのが良いでしょう。

別途モニター画面を左上肢側に置いてもいいですが手元と画面が一直線化できない欠点はあります。左上腕穿刺の場合は手元と画面がなるべく直線化するように右肩あたりに画面を置きます。

血管の同定とプレスキャン

上腕の尺側皮静脈はかなり内側を走行しており、エコーでの描出の仕方や血管の同定には慣れが必要になってきます。

その方法として、まず最初に上腕動脈とその周辺構造を同定します。肘関節より少し上で拍動が強い上腕動脈を指で触知し、その真上にプローブをあてて、上腕動脈を最初に同定します。画像上でも拍動が確認できます。ドプラで確認してもいいです。ここから肩の方へ向けてsweep scanしていきます。通常、上腕動脈の両側に圧迫でつぶれる上腕静脈があります。この動脈と静脈2本で作られる「隠れミッキー」を探してください!でもときどき片耳のミッキーもいますので注意してください。

その近辺に正中神経があります。正中神経は、短軸像では低輝度な類円形な領域が集まって、根菜の「レンコン」の様に見えます。脈管にも似て見えますが、圧迫でつぶれないこと、ドプラでは血流がないことで同定できます。正中神経は絶対に誤穿刺してはいけないので、必ず同定しましょう。ただし、動静脈との位置関係はバリエーションが多く、また複雑に蛇行しながら絡み合っていることも多く、総合的に同定するようにしてください。

そこから内側方向にプローブをずらすと、圧迫でつぶれるやや太めの静脈が見えますので、これを尺側皮静脈と同定します。それから、ドプラで非拍動流であることを確認する、sweep scanで走行・径・深度を観察する、静脈径を測定する、穿刺挿入に適した静脈と穿刺部位であることを確認する、体表から目標静脈中心までの深さを測定する、神経と思われる構造物がないか、といった観点でプレスキャンを行います。駆血して評価してもよいですが、いったん駆血すると、静脈は圧迫してもつぶれにくくなり、動静脈の区別が難しくなることに注意します。

上腕尺側皮静脈は、いくら探しても見えない、あるけどとても細い、駆血しても細い、など、穿刺挿入に向かない場合も時々ありますので、その場合は早めにあきらめましょう。

通常、尺側皮静脈と上腕動静脈・正中神経とはかなり離れていますので、尺側皮静脈を狙う限り正中神経と上腕動脈の誤穿刺の可能性は小さいです。ただし、尺骨神経が尺側皮静脈の近くを走行している部位もあり、その誤穿刺には注意します。特に、意図してもしなくても後壁を貫通させた場合、尺側神経損傷のリスクが発生しますので、前壁穿刺で成功させることを目標としましょう。可能であれば正中神経と同様に尺骨神経も同定しておきましょう。正中神経と同じようなレンコンを見つけます。

上腕尺側皮静脈は同定できたとして、上腕のどのあたりの部位から穿刺するのがいいでしょうか。上腕の静脈は合流したり分岐したり変則的で、そのたびに静脈径が変化します。ねらい目としては合流した直後の太くなっている部分、体表よりあまり深くない部分、屈曲が強くない部分、固定の分を入れてもカテーテルが肘関節と干渉しにくい部分です。

さらに仮に1回目で失敗しても2回目に穿刺ができそうな候補も見つけておくと安心です。
尺側皮静脈は上腕の上部、腋窩に近いところで上腕静脈と合流し腋窩静脈となります。ここから静脈径がさらに太くなるので、ここをねらうという考えもありますが、正中神経との距離感、感染リスクの高い腋窩との距離感に注意してください。

(グレイ解剖学 原著第版 塩田ら訳 2011. エルゼビア・ジャパン)

穿刺針・器材

上腕からアーガイルPICCキットを挿入する場合を例にとると、このキットでは長い親水コーティングのガイドワイヤーを挿入しますが、血管穿刺にキット中の外套式針を使った場合、外套(カニューレ)の留置が成功しないとガイドワイヤーが挿入できないので、そこがひとつの悩ましいポイントになります。

出典:Cardinal Health

上腕の尺側皮静脈は、①静脈径が比較的小さい、②浅いところを走行している場合でも穿刺角度は体表面の皮静脈より大きくなる、③解剖学的に血管と周辺組織との固定が弱く位置が変わりやすいため、穿刺時に逃げやすい、④エコーガイド下では外套部分の描出悪く誘導が難しいなど、外套式針では穿刺が難しい要素が多くあります。そのため、穿刺が成功し血液の逆流を認めたあと、外套式針の外套を血管内に押し込むときに外套で血管後壁を穿通してしまったり、外套が折れてガイドワイヤーが通らなくなったり、外套が血管内に挿入できず抜けてしまうなどの失敗が多くなってしまう欠点があります。

これらのトラブルを回避するために、個人的には付属の外套式針は使用せず、金属針で穿刺する目的で、COVIDIEN SMACプラス マイクロニードルタイプ シングルルーメンのフルキットを使用して、その中の短針金属針(22G)とYサイトを穿刺に使用しています。

この穿刺針を使用することで、穿刺針の描出と誘導が良好となり、外套を血管内に留置する手順が不要になるメリットが生まれます。穿刺成功後、YサイトからCVカテーテルキット附属の金属コイル製のガイドワイヤーを挿入します。金属針からPICCキットの親水コーティングのガイドワイヤーは挿入できないことに注意してください。無理に挿入すると針の先端でガイドワイヤーが削れたり離断したり大きなトラブルのもとになります。

ところで穿刺針の把持の仕方はどのようにするべきでしょうか。内頚静脈穿刺や腋窩静脈穿刺のように、プランジャー(押し子)を把持する方式は、浅い血管では不安定になりやすく微妙な穿刺が難しいため、ペンホルダーがよいでしょう。ペンホルダーだと小指側を患者の腕につけて安定させることができるので、微細な穿刺が可能になります。

コヴィディエンのCVキットを使用した穿刺では、ペンホルダー式にはシリンジを付ける方式とつけない方式の2種類を区別しています。

シリンジなしの場合、駆血により静脈内圧が高くなっているため、穿刺が成功すると血液が自然に逆流してくるので成功したことがすぐにわかり、次の手順に移りやすくなります。というのも、上腕尺側静脈は比較的静脈径が小さいため、画面上穿刺が成功したように見えても、前壁がたわんでいて完全には成功していない場合が多いので、血液の吸引・逆流を早く確認したいからなのです。デメリットは、駆血していると血液がだらだら逆流して来て、周辺が血まみれになることです。

対してシリンジありの場合、いったんプローブを置いてシリンジに陰圧をかけないと穿刺が成功したかどうか確実にはわかりません。穿刺が成功していなかった場合、プローブを持ち直して修正しなければなりませんが、このリカバーが難しくなる欠点があります。いったんプローブを外してしまうと針先と血管の関係がよくわからなくなるのです。このようなわけでPICC挿入の場合、金属針を使うならば個人的にはシリンジなし穿刺をおすすめします。

穿刺中の注意点としては、穿刺時に手先がしびれる、電撃痛があるなど、神経損傷の所見があったらすぐに申告するようにあらかじめ患者に指示し、実際に発生すれば抜針し中断します。意識障害患者や鎮静下の患者では神経損傷の自己申告ができないので一層の注意が必要になります。覚醒した時に麻痺症状が発覚した、というような事故は避けたいです。

上腕_尺側皮静脈穿刺:手順

上腕の尺側皮静脈は一般的に体表面からかなり浅い位置にあるので、穿刺方法は短軸像sweep scan法が適しています。

プレスキャン実施後、CVカテーテルキットを併用した場合の手順は以下のようになります。

(1)駆血する(消毒・ドレーピング後、穿刺直前に介助の助手が行う。駆血帯はチューブ式のものよりバンド式のほうが駆血と解除がやりやすい。体位は少し腕が下がるくらいの方が血管の拡張が図れる場合があるので、半座位に近いヘッドアップの体位にしてもよい。)

(2)シングルCVキット(SMACプラス)フルキット中の短針金属針22G 34mmで穿刺(シリンジなし穿刺)。前述のようにシリンジをつけずに穿刺すると、逆血が自然に返ってくることで穿刺が成功し穿刺針先端が血管内であることがわかる。シリンジをつけて穿刺すると、シリンジに陰圧をかけるまで穿刺が成功しているかどうかわかりにくく、陰圧をかける操作で針がぶれて抜けてしまうデメリットがある。

この血管の穿刺は技術的に難易度が高い点がいくつかある。上腕_尺側皮静脈は血管径がもともと小さいことに加え、周辺組織との結合がゆるく、穿刺針を刺していくと血管も押されて沈んでいき、さらにその穿刺針の刺激で血管攣縮が起こりターゲットが小さくなるので穿刺には非常に繊細な技術が必要になる。ハートサインを確認し前壁穿刺で成功させるように心がけるが、穿刺は成功しても血管径が小さくなったことで容易に穿刺針が後壁に接するか後壁を貫通してしまい、ガイドワイヤーが挿入できなくなるエラーが発生しやすい。また、穿刺が成功した後、皮膚と皮下組織の弾力で針が押し戻され血管から抜けてガイドワイヤーが挿入できなくなるエラーも起きやすい。

これらを防止するためには、前壁穿刺が成功し血液の逆流が得られたところですぐにガイドワイヤーを入れようとしないで、さらに針を血管内に深く進めて確実に留置するようにしたほうがよい。そのとき、穿刺角度が同じままで針を進めると、容易に後壁穿刺になってしまうので、最初のバックフローを確認してからは、なるべく針を寝かせるように角度調整し、また、穿刺針先端がつねに血管内腔にとどまるようにエコーで監視しながら深く進める。通常、穿刺針の根元まで挿入されるぐらい押し込む。この過程である程度時間を要するので、シリンジなし穿刺の場合逆流血がどうしてもだらだらと持続し、穿刺部付近はけっこうな血だまりになってしまうが、実際には少量なので許容範囲としてよい。むしろ、外出血の量を見て焦ってしまい、すぐにガイドワイヤーを入れようとすると、スムーズに挿入できずに失敗しやすい。

(3)穿刺針先端が静脈内腔の中心部から動かないように、確実に体表面と固定しつつ、CVキット中の金属コイルのガイドワイヤーをYサイトから挿入する。X線透視で挿入経路、深さを確認する。さらにあわせてポストスキャンを行って確実に静脈内であることを確認する。

(4)紛らわしい点がなければ駆血解除する(介助の助手が行う)。

(5)金属コイルガイドワイヤーを留置したまま短針金属針を抜去する。

(6)シングルCVキット中のダイレータでダイレーションする。3~5cm程度挿入する。この過程もX線透視下で行い、ガイドワイヤーが屈曲しないように監視する。

(7)金属コイルガイドワイヤーの端を必ずつかんだままCVカテーテル挿入し、 X線透視で経路、位置を確認する。

(8)CVカテーテルは全長を挿入する。上腕からだと先端は鎖骨下静脈手前くらいに先端が位置することが多い。金属コイルのガイドワイヤーを抜去する。

(9)CVカテーテルのエア抜きと生食ないしヘパリン生食でフラッシュする。ここまでが第一段階。

(10)次にアーガイルPICCキットを出して、親水コーティングガイドワイヤーを十分生食で湿らせたのち、シングルCVカテーテルに挿入する。ガイドワイヤー先端が右房に達しないように、 X線透視で走行、位置を確認しながら行う。このガイドワイヤーは細いのでX線透視下でも確認しにくい場合があることに注意する(どんどん進めてしまうと気づかないうちに右房・右室に到達してしまう。または内頚静脈方向その他に迷入してしまう)。

(11)PICCキットのガイドワイヤーを残してCVカテーテル抜去する。このときも、ガイドワイヤーが浅くなったり深くなったりしないように、X線透視で監視しながら行う。

(12)PICC(シングルルーメン)を挿入する。PICCと親水コーティングガイドワイヤーは生食で十分湿らせておかないと滑りが悪くなり、途中でスタックしてしまいやすい。PICCを挿入していく過程を X線透視で走行、位置を確認する。先端は、呼気時で気管分岐部になるように調節する。上腕からだと挿入長は35cm前後になることが多いが、刺入点によってかなり変わってくる。

(13)ガイドワイヤー抜去

(14)ニードルレスシステム装着、生食ないしヘパリン生食でフラッシュ

(15)固定具で皮膚とカテーテルを縫合固定(アーガイルPICC専用の固定具か、4FrPICCならばシングルCVキットの固定具も流用できる。カテーテルと皮膚を直接縫合固定するのは、ルーメンの狭小化やカテーテルの切断リスクがあるため推奨しない。あるいは縫合固定はせず、ドレシング・テーピングで固定するという選択肢もある)

(16)ドレシング 透湿性のある透明フィルムドレシングが適している。自施設ではテガダーム i.v.コンフォートを使用している。

PICC挿入でCVカテーテルキットを併用することでエコーガイド下穿刺のやりやすさはだいぶ向上し、失敗や多数回穿刺を避ける意味はあると感じています。コストアップのデメリットが懸念されますが、当センター採用のこのPICCキットはフルキットではないため、ドレープその他の物品を個別に出していくと、累計でかなりコストが上がってしまいます。思い切ってフルキットのシングルCVキットを併用しても同じくらいのコストになってしまいますので、実際はリーズナブルと考えています。

PICCキット内の外套式針(カニューラ針)でうまく穿刺とガイドワイヤー挿入ができるのであれば、それはそれで問題ありません。ただ、静脈まで深い場合、穿刺針の長さが足りない場合があります。そうした予想があれば、穿刺針は51mmの長いサーフローなどを別に用意して使用するのもありでしょう。外套式針を使用した場合、外套を血管内に留置後、直接親水コーティングのガイドワイヤーを挿入する手順になります。

ところでアーガイルPICCキットの親水コーティングのガイドワイヤーは常時水で濡らしておかないと滑りが悪くなり、カテーテルの挿入が困難になる場合がありますので注意しましょう。特に血液の付着により抵抗が増します。ではガイドワイヤーにカテーテルを進めていくうちに抵抗が強くなり進まなくなってきたらどうしますか?いったんカテーテルをガイドワイヤーから抜いて湿らせますか?PICCはガイドワイヤーもカテーテルも長く抜き差しが大変なので、できるだけやり直したくないですね。そこで、簡単で効果的な方法があります。ガイドワイヤーを途中まで入れた状態で、カテーテルの遠位端の接続部からシリンジでカテーテル内に生食水を少量注入します。ガイドワイヤーが入っていてもわずかな隙間を通して生食がカテーテル内に満ちてきます。するとガイドワイヤーの滑りが復活して挿入が容易になるのです。この技を知らないとカテーテルがスタックしたままどうにもならなくなり、無理に進めようとしてカテーテルが破損する可能性もあるため要注意です。PICC挿入時はたいていこの操作を行っています。ただし、小さいシリンジで強く生食を押し込むと、圧が高くなりすぎてカテーテルが破損する可能性がありますので注意してください(小さいシリンジは容易に高圧注入になります)。

挿入点は上腕の中央部付近だとカテーテルの固定、ドレシング、ラインのとりまわしに難渋することはありません。ただし、上肢や上肢帯の運動でPICCのカテーテル先端位置はかなり動くといわれ(最大7cm)、血管壁・右房壁のびらんや穿通防止のため、挿入後は上肢の大きい動き、たとえばラジオ体操やキャッチボールのような動きはなるべく避けるように患者に指示しましょう。

上腕PICCでのカテーテル挿入長は、穿刺ポイントや左右での違いで変動はありますが、長いガイドワイヤーとカテーテルを使用する処置なので、カテーテル位置異常や迷入を防ぎ最適なポイントを決めるにはX線透視下操作が必要なことは自明です。しかしX線透視を使用しないことを標準とする施設もあります。この「PICC挿入処置においてX線透視を使用するか否か論争」は以前からあり、次のパラグラフで議論したいと思います。

透視下 VS 非透視下

CVCもそうですが特にPICC挿入に関しては、「血管造影室でX線透視下で実施するべき処置」と考えるのか、「非透視下でベッドサイドでも実施していい処置」と考えるか、この二つの流派に分かれるようです。非透視派は、X線被爆を軽減し患者移動の手間がはぶけるメリットを主張します。PICC挿入の際の線量は詳細には調査していませんが、心カテやCTよりずっと小さいことは疑う余地はありません。ごく短時間、合計10~30秒照射するだけです。若年女性・妊婦では生殖腺をプロテクターでカバーすればよい。この照射は微々たる問題ではないでしょうか(CVCでは最後の胸部レントゲン写真を含めて3mGy程度の線量でした。参考(概数):胸部正面0.06mGy~、腹部正面2.6mGy、腰椎側面5.6mGy、腹部CT25mGy、頭部CT50mGy、CAG800mGy、PCI3000mGy)。また移動の手間といいますが、そもそも入院患者はCT室、一般撮影室、生理検査室、リハ室、手術室etc.と必要に応じてかつ頻繁に院内を移動するのが普通です。入院患者とは病院内を移動しながら治療・療養するものなのです。ですからPICC挿入のために血管造影室に移動するということが特別な誰かの負担になると主張するのは無理なのです。単に移動がめんどくさい・・・。その言い訳でしかないように聞こえてしまうわけです。

また一方、非透視下ではカテーテル位置異常や迷入をどのように回避するか、という難問があります。特にPICCではガイドワイヤーもカテーテルも長いので、これらは重大な合併症につながりやすいため無視できません。とはいっても透視下でガイドワイヤーを進めていくと、何の抵抗もなく簡単に内頚静脈方向に進んでしまうことがよくあります。これを非透視下で防止する、ないしリアルタイムに修正するということが可能なのかどうか・・・。

迷入回避のために非透視下で可能な手法のひとつは、エコーを使う方法です。ガイドワイヤーを進めた後、エコーで穿刺部の静脈内にガイドワイヤーがあり、頚部_内頚静脈などにガイドワイヤーがないことを確認する方法です。この方法は一定の有効性がありポストスキャンとして標準的な手順でもあります。しかしいくつかの難点があります。

  • PICCはガイドワイヤーが長いことに加え、エコーで描出できる範囲が非常に限定されているため細い分枝への迷入とそれに伴う血管損傷は防げない。
  • ガイドワイヤーを進めたときのリアルタイムの情報ではないため、迷入を防止するというよりも迷入を早期に発見する方法であり、そのときにはすでになんらかの有害事象(不整脈、血管損傷など)が発生してしまっている可能性がある。
  • 穿刺用エコーは清潔操作で使用しているので、それをガイドワイヤー確認で使用すると不潔になり、再トライしようとした際に再使用が難しくなる。
  • ガイドワイヤー確認用エコーを別に用意することも可能だが、エコーを2用意する必要がある(患者のベッドサイドに2台置くスペースがある?)。またその場合もう一方のエコーは助手が操作することになるため、助手の協力が常に必要になる(複数術者でしか実施できないことは煩雑ではないのか?)。
  • 仰臥位で経胸壁に右房をエコーで描出するのは体型や性別によっては困難な場合がある。かといってPICC処置中に右側臥位をとらせることも非常に煩雑である。
  • 内頚静脈などいくつかの部位でガイドワイヤーの非存在をエコーだけで証明するには、かなり時間を要する。
  • ガイドワイヤーは上大静脈方向に進んでいることが確認できても、カテーテル先端位置を正確・精密に決定することができない。特にPICCは10cm程度の範囲で上肢の刺入点のばらつきが発生し、その分先端位置・挿入長もばらつく(自験例では30-41cmの範囲)。
  • エコーでも迷入は完全には発見できない(ある報告ではガイドワイヤーの挿入後に内頚静脈をエコーで観察して迷入を防止する処置を行ったが、事後のX-pで発見されたカテーテル位置異常が17/952=1.79%あり、6例は内頚静脈内にあった。7例は鎖骨下静脈内でコイリング、2例は右房に深く留置、2例は対側鎖骨下静脈内にあった。Nakamuta, S, et al. Real-time ultrasound-guided placement of peripherally inserted central venous catheter without fluoroscopy. J Vasc Access 2018; 19(6): 609–614.)
  • ガイドワイヤーがもし内頚静脈内に迷入していることが発見されたとして、それをエコーだけで確実に修正することは困難である。できたとしても相当な時間を要することになるはずである。

ほかにも、

  • 非透視下ということは患者のベッドサイドで実施することをになるが、PICC挿入においては清潔度が足りないのでは?
  • ベッドサイドで実施してもカテーテル挿入後にはやはりX-pを撮影することになるので、X線被爆がなくなるわけではない。
  • カテーテル位置異常が発見された場合は修正を試みたあと再度X-pを撮影することになるが、ブラインドで正確に修正することが可能か?そもそもカテーテルの出し入れで修正するとしたら、非常に不潔な操作にならないか?可能な修正は数cm引き抜くことくらいだが、そうなると中心静脈カテーテルでなくなる可能性が発生する。

などの疑問点があります。しかしこのような問題は、血管造影室においてX線透視下で実施することで「すべて」解決してしまいます。わずかなX線被爆とわずかな移動を代償としますが、非常に大きいメリットが発生し、患者安全に大きく貢献するわけです。

血管造影室の部屋数、スタッフ数、全検査・処置数という体制的な要因により、CVCやPICC挿入のために血管造影室を利用するのが難しいという医療機関があるということもたしかに聞いてはいます。その場合、「たかがCV」で血管造影室なんか使わせられない、という低い意識の文化が継承されていないか点検が必要でしょう。死亡に至るような重篤な合併症が起こりうる医療処置で、X線透視がそれを防止する有力なシステムであることが理解できれば、それを利用する最大限の工夫があっていいはずです。意識改革が必要です。

参考までに日本コヴィディエン株式会社 PICCキット(セルジンガータイプ、標準タイプ)の添付文書中、【使用上の注意】1.重要な基本的注意 では、

  • カテーテルを右心房又は右心室に挿入あるいは留置しないこと。また、ガイドワイヤについても、右心室に挿入しないこと。[不整脈や心タンポナーデ等を発生させるおそれがあるため。]
  • カテーテルやガイドワイヤの挿入はエックス線撮影下で行うことを推奨する。

と記載されています。こうしたわけで、わたしは透視派です。ちなみに大阪大学 井上善文先生(PICC: 末梢挿入式中心静脈カテーテル管理の理論と実際)、東北大学 西條文人先生(末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICC)管理マニュアル、杏林大学 德嶺譲芳先生(必ずうまくいく!PICC)も出版物の記述から「透視派」であります。

ある例です。下図は一般病棟処置室(=非透視下)で左肘から挿入されたPICCですが、左内頚静脈に迷入しています。この処置のプロセスを考えると、左肘からガイドワイヤーを挿入した際、左内頚静脈をかなり上まで上向し、もしかすると頭蓋内まで侵入した可能性もあるわけです。見えていない頭蓋内の比較的細い血管や静脈洞を傷つけて血栓が形成されたら?横静脈洞血栓症から脳梗塞になったら?その結果、最悪のケース、死亡したら?……取り越し苦労かもしれませんが、そうした悪い想像もできる状況に患者が追い込まれてしまったのかもしれません。何事も起きなかったとしたら・・・それは単にラッキーだったというだけでしょう。運に左右される治療をいつか自分が受けたいかどうか。わたしは自問せざるを得ません。

この撮影のあと、一般病棟で10cm引き抜いたあとに撮影した写真です。

カテーテル先端位置は左鎖骨下静脈内にあります。ということはこのカテーテルは末梢静脈路としては使用できますが、中心静脈カテーテルとしては使用できないということになります。かといって一度引き抜いたカテーテルは感染対策上押し込むということはできません。やり直しです。初めから血管造影室で実施すればこのリスクと二度手間は生じなかったわけですが。

下図はPICCではありませんが、、ランドマーク法_右鎖骨下穿刺から非透視下でガイドワイヤーを35cm挿入したあとS状静脈洞を経て横静脈洞に誤挿入され抜けなくなった事例が報告されています(Trimble, Aaron, et al.  “Wire Placement into the Dural Venous Sinuses during Central Venous Catheter Placement.” American journal of respiratory and critical care medicine 198.1 (2018): e1-e2.)

幸い、神経学的な有害事象は発生しなかったようですが、脳外科医が「かなりの手動力を使用して」除去したと記述されています。非透視下で、しかも挿入深度が正確に把握できないガイドワイヤーを静脈内に進めていくことが、いかにリスキーかということです。

さらに、このPICC挿入とX線透視の問題は、流派論争を越えてある問題を浮きぼりにしてしまいます。PICCナースといわれるPICC挿入のトレーニング経て資格を得たJNP(Japan Nurse Practitioner)は、PICC挿入を透視下で行うべきか否かという問題です。透視下で行うとしてもPICCナース単独で実施することには問題があります。Web医事新報 No.4829 (2016年11月12日発行) P.61には「無資格者の胸部X線撮影が『医師の指示』等により可の場合はあるか?」という質問に対して間石成人氏(色川法律事務所東京事務所弁護士)が回答しています。

(1)無資格者,准看護師によるX線撮影の 可否
診療放射線技師法は,医師,歯科医師または診療放射線技師でなければ放射線を人体に対して照射する(撮影を含む)業をしてはならない,と定めており(第24条),医師の具体的指示があっても,無資格者に撮影は認められていません。また,法令で認められた「診療の補助」にはあたりませんので,診療放射線技師の資格を有しない看護師や准看護師も撮影はできません。違反行為には刑事罰も定められています(1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金。同法第31条)。

これは国家資格の問題で、PICCナースが安全適切にX線装置を操作できるかどうかのスキルとは別問題であり、厳密に順守しなければならない事項です。したがって、PICCナースがPICC挿入処置を実施する方法は以下の3パターンになります。

  1. 患者のベッドサイドや処置室で非透視下で実施する。
  2. 血管造影室で実施しX線照射の指示は医師が出し、医師または診療放射線技師がX線装置を操作する。
  3. PICCナースは診療放射線技師の資格を取得したのち、血管造影室で実施する。X線照射は自己判断で実施してよい(実際の操作は診療放射線技師が行ってもよい)。

1はここまでの議論から賛成できない方法です。2だとPICCナース単独では処置できず医師の立ち合いと指示が常時必要となります。となると診療の補助というJNPのコンセプトからは整合しない懸念があります。医師は照射の指示を診療放射線技師には出すがその場に立ち会わなくてもよい、という弾力的な運用が認められるかどうかが分かれ目でしょう。3はPICCナースが単独で実施できる方法で問題がクリアされますが、3~4年の専門教育機関での教育とその後の国家試験の合格が要件となり、ハードルが高すぎて現実的とはいえません。つまり、どの方法も問題を抱えており、スッキリとした解決法はないように思います。診療放射線技師法第24条がいつか改正され、診療放射線技師の資格がなくてもPICCナースの資格があればX線照射を行えるようになる・・・という可能性は、残念ですがないでしょう。本邦においては現在、このPICC挿入とX線照射とPICCナースの関係には大きなジレンマを抱えており、明確で公的な指針が出された話は聞きません。これらのことは少なくとも知っておかなければなりません。

穿刺時動画

短軸像sweep scan法_右上腕_尺側皮静脈穿刺の実際例のエコー動画をご覧ください。

条件は、エコーはSonoSite S-Nerve、プローブはリニアプローブL25x/13-6、カテーテルキットはCOVIDIEN SMACプラスとArgyle PICCキット、穿刺針は短針金属針、エコープローブカバーはPullUp™ Probe Cover Kit 1です。

なお、短軸像穿刺時に、フリーハンドの穿刺でなく、短軸像穿刺用のニードルガイドを使用することについては、そのスタイルで慣れて確実性・安全性が確保できるのであれば問題ありません。ただし、短軸穿刺用ニードルガイドは、体表面から血管穿刺までブラインドになる部分が大きく、しっかり穿刺針を「誘導」して穿刺するというコンセプトには合致しません。さらに、穿刺成功後、穿刺針の角度を変えて、より深く確実に穿刺針ないし外套を静脈内に留置するという手法をとることができません。いきおい、後壁まで貫通させて引き抜いたところのバックフローを見てガイドワイヤーを挿入する方法を選択することになり、その是非には議論のあるところです。個人的にはあまり美しいとは思えません。まず貫通法で慣れてから前壁法をマスターすればよいという意見もありますが、貫通法をマスターすればそれに満足してしまうことは容易に想像できます。

PICC挿入の注意点

PICCの注意点はいくつかあります。第一には血栓症のリスクが相対的に高いと言われている点です。PICCでは挿入部の血管径が細いために血栓症のリスクは通常のCVカテーテルより高く(OR 2.55; Lancet. Vol 382 July 27 2013)、静脈炎の発生頻度も高くなるといわれています。血流量は静脈の半径の4乗に比例しているので、径の変化は血流量を大きく変化させ、前腕からの挿入(古典的PICC)ではより血液が停滞しやすく血栓ができやすいと考えられます。

さらに前腕からの挿入では、肘関節をまたぐことになり、そこでの屈曲がさらに血液の停滞を招くことになります。また、マルチルーメンのPICCだとカテーテル径が増す分、血管径が小さくなるのと同じ効果になり、同様に血栓形成のリスクが高まる懸念があります。PICCは長期留置となりやすいので、こうした血栓形成のリスクも計算し適応を検討する必要があります。

静脈 直径(mm) 血流量(mL/min)
上半身 上大静脈 18~22 1,800~2000
内頚静脈 10~22 500~1400
鎖骨下静脈 7~12 350~800
中手静脈 2~5 8~10
下半身 下大静脈 27~36 1,200~2000
大腿静脈 8~16 700~1,100

出典:ICUブック 第4版 PL Marino 稲田英一 監訳  メディカル・サイエンス・インターナショナル 2015年 p15

個人的にはPICCは、使用カテーテルはシングルルーメンに限定し、穿刺サイトは上腕に限定するのが比較的安全と思います。

Argyle PICC キットでは上腕PICC用は45cmタイプのものを選択します。スルーザカニューラキットもありますが、カニューラの外径が太いので、やはりセルジンガーキットを推奨します。シングルのカテーテル外径は4Frと3Frがありますが、4Frを使用しています。

PICCの最大の弱点ともいえる血栓形成の対策をほどこしたのがArgyle PICCキット Ⅱで、カテーテルの外側と内側にSEC ONE COAT™というポリエチレングリルコール、シリコーン、脂肪族炭化水素の3つの側鎖からなる合成高分子でコーティングしてあります。この合成高分子のコーティングは血栓の原因となる3因子を抑制し抗血栓性を発現させるといいます。

出典:Cardinal Health

PICCの最大の弱点、懸念点は血栓形成のリスクが相対的に高いということなので、それが克服できるとすれば非常に使いやすくなります。SEC ONE COATのカテーテルは、コスト面の問題はあるにしても期待できる器材で、データの蓄積が待たれます。

第二に穿刺手技についての注意点があります。上腕尺側皮静脈自体はは周辺組織との結合が緩く、穿刺時にキョロキョロ非常に動きやすい特徴があります。駆血するとそれがいっそう増強します。そのため、穿刺針先端が前壁に達し陥凹が確認でき、そこから血管穿刺をしようしても、最終段階で逃げられてしまうことがよくあります。なので、最後の最後まで静脈前壁の頂点から確実に穿刺するように微調整しないといけません。精度としては1mm以下の調節が必要になります。穿刺技術としては通常のCVCより高度と言えます。

さらに問題なのは、最初の穿刺にもしも失敗したとするとどうなるかということです。上腕を駆血しているために静脈ではあっても圧が高くなっており、穿刺失敗後はしばしば血管外の周辺組織に多量に出血することになります。この血腫により静脈が圧排され狭小化し、加えて血管周囲の血液によってエコー画像上、血管腔が不鮮明化します。さらに、静脈は一度侵襲が加わると急速にスパズムが生じて内腔が狭小化してしまうことがよくあります。出血を抑える生体防御反応でしょう。失敗していなくとも穿刺している最中からでさえ、スパズムになることもあります。

こうなると同じ部位では静脈が見当たらなくなり2度目の穿刺が無理になります。穿刺部位をずらして再試行することを狙いますが、位置をずらしてもスパズムの波及によりよい穿刺ポイントが見いだせず、再試行が非常に困難になる場合もまれではありません。つまり、上腕ー尺側皮静脈穿刺は基本的に「ワンチャンス」という覚悟を持たなければならないということです。このプレッシャーはけっこうきついです。

おまけに、このスパスムは精神的な緊張や局所麻酔の刺激でも生じます。そのため、プレスキャンでは十分な血管径があったのに、局所麻酔後、いざ穿刺しようとしたときに「あれ?」となってしまうことがよくあります。これも穿刺が難しくなる原因です。そのためPICC挿入では、あらかじめエムラクリームなどで痛み刺激を極力緩和したり、精神的緊張緩和に努めるトークなどの気遣いが通常のCVCよりも重要になってきます。術者の負荷が大きい処置です。

致命的な合併症が発生しない「安全なCVC」という文脈でとらえられるPICCですが、実はこうした微妙な技術的課題を抱えており、決して安易な気持ちでは選択できないことを強調したいと思います。

エコーガイド下_上腕_尺側皮静脈穿刺:アーガイルPICCキット挿入のポイント

感染防御

  • ガイドワイヤーとカテーテルが長いので十分広い清潔野を確保する。特に患者の指先がはみだしやすいので、ドレープの大きさや枚数を工夫する。

駆血

  • 駆血しなくても血管径が大きければ穿刺は可能だが、通常は駆血したほうがよい。
  • 駆血しなければ穿刺時の血管のたわみは当然大きくなり、後壁穿刺のリスクが上昇するため、技術的には難易度が上昇する。
  • 駆血すれば前壁穿刺で成功しやすくなる。ただし血管内圧の上昇により血管がきょろきょろ逃げやすくなる。
  • 駆血すれば血管が細い場合は血管径が拡張し穿刺の確実性が上昇する。
  • 長時間の駆血は患者の苦痛が大きくなり血栓リスクも増えるので避ける。駆血は穿刺直前で助手にしてもらう。穿刺が成功しガイドワイヤーが挿入された段階で助手に駆血を解除してもらう。
  • 駆血するのであれば下肢拳上などの体位は特に関係ないので安静仰臥位でよい。
  • 穿刺挿入に失敗した場合、駆血していると血液の血管外漏出の度合いが強くなり、静脈が描出不良となって再試行が困難になりやすいというデメリットがある。

穿刺針

  • カニューラ針(外套式針)はエコーの描出が不良であり、針の誘導が難しく、穿刺成功後も内筒とカニューラの段差のところ抵抗が強く、カニューラの適正な挿入は技術的に難しい。比較的大きい角度で穿刺するため、カニューラ挿入時にkinkしやすく、カニューラで後壁を穿通しやすいことにも注意する
  • 金属針はエコーの描出性が良く、シングルのCVカテーテルキットの金属針を使用して穿刺し、CVカテーテルを挿入してからPICCキットのガイドワイヤーでPICCに入れ替えるのもひとつの方法。
  • 静脈まで深い場合でカニューラ針を使用するときは、長い穿刺針(ex,サーフロー51mm)が適する。

血管穿刺

  • 静脈径は精神的緊張の影響や麻酔の痛み刺激や麻酔薬自体の刺激の影響を受けやすく、局所麻酔後の本穿刺の時にプレスキャンの時よりも狭小化してしまうケースが多いことに注意する。
  • 一般的に静脈位置が浅い場合が多く、sweep scan法をまず試みる。
  • 失敗すると血腫やspasmで狭小化するため穿刺1回での成功を目標にする。
  • 上肢の静脈は周囲との結合が弱く、特に駆血すると予想外に逃げやすく穿刺が難しいので、血管の頂点を確実に狙って穿刺するコツがいる。
  • 手先がしびれるなど、神経損傷の所見があったらすぐに申告するように患者に指示し、実際に発生すれば中断する。

ガイドワイヤー挿入

  • ガイドワイヤーが長く、挿入長が把握しにくいため極力X線透視下操作で実施することが望ましい。
  • ガイドワイヤーが細いため、X線透視下でも判別が難しいときがあり、慣れが必要。
  • ガイドワイヤーは長いため操作しにくく不潔になりやすい。二人で行う方が容易。
  • カテーテルの挿入をスムーズにするため、親水コーティングのガイドワイヤーは十分水で濡らしながらおこなう。
  • 抵抗なく進むこと、血管の走行に一致して進んでいくことにつねに注意をはらう。
  • 親水コーティングのガイドワイヤーは血管外にもあまり抵抗なく組織間でも進んで行ってしまうことがあるので、そのことを充分念頭に置いて慎重に挿入する。抵抗があるのに無理にガイドワイヤーを進めるのは禁忌である。
  • 透視下で先端がひっかかって進まない状態であれば、少し抜くと同時にわずかに回転させて先端方向を変えてから進める。強引に進めると血管穿通の原因となる。

ダイレータ挿入

  • ガイドワイヤーの潤滑維持のため、付着した血液をふき取り、生食ガーゼで湿らせながらダイレータを挿入する。
  • ガイドワイヤーがkinkした状態でダイレータを進めると血管損傷の原因となるので、慎重に挿入する。
  • ダイレータの挿入もできるだけX線透視下で実施する。

カテーテル挿入

  • ガイドワイヤーの潤滑維持のため、付着した血液をふき取り、生食ガーゼで湿らせながらカテーテルを挿入する。
  • 途中で摩擦が大きくなり進まなくなったときは、カテーテルの遠位端からシリンジで生食やヘパリン生食をシリンジで注入すると潤滑が復活する。
  • 適正位置までカテーテルを進めた後、ガイドワイヤーを抜去するが、そのまま引き抜くと跳ねて床に落ちるので、スライダーに格納するようにして抜去する。
  • ガイドワイヤー挿入後はニードルレスシステムなどを装着する。

固定

  • 専用の固定具を使う、CVカテーテルキットの固定具を流用する、非縫合の固定具を使用する、固定はしない、など施設によりさまざまな考えがある。
  • カテーテルに直接糸を巻きつけて固定するのは離断するリスクがあるため推奨しない。

FAQ

Q: アーガイルPICCの種類と使い分けについて教えてください。

A: アーガイルPICCキットのセルジンガ―タイプは4Fr(外径1.3mm)、3Fr(外径1.0mm)、4.5Fr(外径1.5mm)のダブルルーメンがあり、それぞれ45cmと60cmがあります。自施設では4Fr・45cmのみ使用しています。PICCの最大の懸念点は血栓形成で、DVT/PEのリスクが相対的に高いことです。その観点からは血管径との関係も含め、なるべく細いものがよいことになりますが、3Frキットは非常に細く、その分扱いがデリケートなので、エキスパート以外の多数の術者が使用する前提だと、不満がでる恐れがあります。ただ両方定数化することが可能であれば、それもひとつの考えかもしれません。ダブルルーメンは血栓リスクの上昇が懸念され、また、ダブルルーメンCVカテーテルが必要な病態ならば、PICCではなく鎖骨下_腋窩静脈穿刺でダブルルーメンCVカテーテルを挿入するほうが適していると考えています。60cmのPICCの使用目的は、前腕からの古典的PICCの場合か、大腿静脈からの挿入かと思われますが、どちらも実施することはないため、ストックしていません。なお、スルーザカニュラタイプのPICCキットもありますが、使用したことはなく、あまりうまくいく気もしません。SEC ONE COATのアーガイルPICCキットⅡも同様のラインナップですが(セルジンガ―タイプのみ)、この器材はもしかするとダブルルーメンでも血栓形成のリスクが小さくなるかもしれません。現在使用していませんがその知見が蓄積した場合は再検討するつもりです。