コンセプト

末梢静脈が確保困難なときには、やむをえずCVCやPICC挿入で解決するのが常でした。しかし、それで本当によいのかという疑問もありました。どれだけ安全対策を講じても、CVCやPICCにはそれなりのリスクがあるからです。ここでPICCを含むCVカテーテルのデメリットをあげつらってみましょう。

  • 穿刺挿入時に重篤な、場合によっては致命的な機械的合併症が発生するリスクを抱えている。
  • CRBSI(カテーテル関連血流感染)が成立した場合、致死率は高く、治療にかかる時間的金額的コストは大きい。特に鼡径からの穿刺挿入には感染リスクが大きくなる。ライン確保目的だけではリスクと釣り合わない。
  • 深部静脈血栓症のリスクがあり、それが症候性になったり、肺塞栓に進展した場合は重篤化しやすい。最悪、致命的となる。PICCではCVカテーテルよりも相対的に深部静脈血栓症のリスクは高いとされる。
  • 静脈血栓塞栓症の発生頻度は、妊娠中が非妊時より4倍高く、肺塞栓の43-60%は産褥期に発生し、先進国では母体死因の首位は肺塞栓である。左腸骨静脈は右腸骨動脈と交差し圧迫されているため、深部静脈血栓症のうち70-90%は左下肢に発生する(N ENGL J MED 359;19 2008)。このことから妊婦にCVカテーテルやPICCは留置しにくい。特に大腿静脈、それも左大腿静脈からの穿刺挿入は非常に大きいリスクとなる。
  • 管理中にラインの接続外れ、三方活栓の誤操作、事故抜去などで多量に失血するリスクがある。
  • 抜去時の大きいリスクとして空気塞栓がある。最悪、致命的となる。
  • 総じて、穿刺挿入、管理、抜去のすべての局面で大きい潜在的リスクを生じさせることになる。
  • 材料費、血管造影室の使用などにおけるコストがそれなりにかかる。
  • 患者にとっては恐怖感が強い。

CVCの実行を決断するには、このようなさまざまなリスクやデメリットを凌駕するメリットが明確でなければならないわけですが、その観点からいえば、末梢静脈確保困難だけでCVCの適応とするにはかなり躊躇するわけです。かえって大きいリスクを抱え込む可能性があります。

そこで、CVCを回避し、かつ確保しにくい末梢静脈路をなんとか確保することで、多くのリスクを低減する手法がないか、ということが課題として明瞭化してきます。ここではいくつかのアイデアを提案してみます。

上腕_尺側皮静脈からの末梢静脈路確保

静脈路確保困難例では、CVCでみられるような重篤な機械的合併症を避けたいという思いから、PICCがよく選択されます。しかし、PICCの弱点は、

  • 比較的細い静脈、すなわち血流が遅い部位から、長いカテーテルを留置することに起因する血栓症のリスクが比較的高い
  • ガイドワイヤーとカテーテルが長いので、ブラインドで挿入することには大きいリスクが伴うので、X線透視下操作は必須(と個人的には考えます)で、その手間がかかる
  • 器材のコストが問題になることがある

などがあげられます。そもそも、末梢から投与できる薬剤を投与するだけならば、長いPICCで上大静脈まで先端を持っていく必然性はないわけです。仕方なくPICCを選択せざるを得ないだけです。重篤な機械的合併症のリスクが小さいというメリットはありますが、デメリットは確実に計算できます。

それならPICCと同じ穿刺部位で、PICCより短いカテーテルを挿入すればすむのでは?つまり上腕_尺側皮静脈をエコーガイド下で穿刺し、通常の短い末梢静脈カテーテルをすればいい。それでCVCの機械的合併症のリスクの回避とPICCの血栓症やその他のリスクの回避を、同時に満たすことができるはずです。

この手法の手順を解説します。

  1. 上腕_尺側皮静脈は局所麻酔などの痛み刺激で容易にspasmとなり血管径が小さくなりやすいので、それのかわりに体表面に塗布する局所麻酔剤の「エムラクリーム」を使います。プレスキャンでだいたいの穿刺部位を選定した後、たっぷり(1本5gを全部)上腕の内側の穿刺部位周辺に塗布します。塗布する範囲は固定具の針をかける部位も含めて10×5cmくらいです。塗布した後、大きめのドレシング材(サージットなど)で覆っておきます。食品用フィルムラップなどでもよいようです。これで麻酔剤が浸透するまで2時間置いておくと、穿刺時の痛みがほとんど取れ、スパスムも予防できます。痛みは完全にとれることもありますが、残念ながら9割くらいまでしかとれないことが多いです。また2時間待つことに手間がかかるのが難点です。この前処置をしないとすると、無麻酔で穿刺するか、麻酔の注射で静脈がスパるのを覚悟して実施するか、どちらかになります。
  2. 2時間後、刺入部位に残ったエムラクリームを除去し、本穿刺の準備をします。X線透視は不要で通常の末梢静脈ライン確保と同じように病棟処置室や患者のベッド上でも実施可能です。再度プレスキャンを行います。体位は、上肢の血管を拡張する目的で、少しヘッドアップした体位が適していますが仰臥位でも可能です。腕の下にクッションを置くなどして穿刺に適した体勢をつくります。上腕_尺側皮静脈の走行、径、深さは個体差が大きいので、最適な穿刺部位をsweep scanで慎重に調査し決定します。あまり深い位置でなく、静脈径が太い部位を狙うようにしています。刺入点を決定したら体表面に目安のマーキングをします。上腕_尺側皮静脈が細すぎて穿刺挿入に不適な場合は上腕静脈に変更する場合もあります。上腕静脈は通常2本あり上腕動脈の両脇を伴走しています。細く、動脈や正中神経がかぶっていたりすることが多いので穿刺ポイントの決定は難しくリスクもあります。もし上腕静脈をターゲットするならば、正中神経を確実に同定し、その誤穿刺を避けなければいけません。ということは、正中神経のエコーでの見え方に目が慣れている必要があります。ここは上腕での穿刺に特有の注意点です。いずれにしても駆血後でも直径が3mm未満の場合は避けたほうがよいでしょう。
  3. 感染防御は、末梢血管確保なのでMBPまでは必要なく、皮膚消毒(クロルヘキシジン製剤など)、滅菌手袋、穴あきドレープ、滅菌超音波カバーで行います。
  4. 上腕_尺側皮静脈の穿刺はPICC挿入時と同様に短軸像 sweep scan法が適しています。駆血は行うほうがよいでしょう。駆血帯はチューブ式よりバンド式の方が締め外しが容易です(この操作はナースにやってもらいます)。術者のポジションやエコーの配置はPICCの穿刺と同様ですが、個人のやりやすい位置でよいでしょう。この血管の穿刺・挿入は技術的に難易度が高い点がいくつかあります。上腕_尺側皮静脈は周辺組織との結合がゆるく、穿刺針を刺していくと血管も押されて沈んでいきます。その過程で血管攣縮が起こりターゲットが小さくなります。ハートサインを確認し前壁穿刺で成功させるように心がけますが、穿刺が成功した後、皮膚と皮下組織の弾力で針が押し戻され血管から抜けてしまい、ガイドワイヤーが挿入できなくなるエラーと、血管径がもともと小さいことに加え、さらに血管攣縮で血管が小さくなり、容易に穿刺針が後壁に接するか後壁を貫通してしまい、ガイドワイヤーが挿入できないエラーが発生しやすいです。これを防止するためには、前壁穿刺が成功し血液の逆流が得られたところからさらに針を進めて確実に血管内に針を留置します。そのとき、穿刺角度が同じだと容易に後壁穿刺になってしまうので、なるべく針を寝かせるように、また、穿刺針先端がつねに血管内腔にとどまるようにエコーで監視しつつ進めます。穿刺針の根元まで挿入されるぐらい押し込みます。
  5. 穿刺成功後、フリーロックやJループと接続し、ヘパリン生食または生食でロックします。
  6. フィルムドレシングを貼付します。

この手法の特徴を整理します。

  • CVカテーテルやPICCではなく、「末梢静脈カテーテル」扱いであるために、CVCやPICCの説明書・同意書は不要である。
  • CVCは血管造影室で実施することが推奨されるが、この方法では患者のベッドサイドや病棟処置室で実施可能である。
  • CVCを血管造影室で実施することによる患者の心理的な負担感、不安感が消失する。
  • 血管外漏出、閉塞、感染などの問題が発生するまで長期留置に堪える。留置期間はPICCと同様に考えることができる。
  • 末梢静脈が確保しにくくなってくると、失敗する回数、差し替える回数が増加し、それによる繰り返しの痛み刺激が患者の負担となるが、この方法では差し替えの頻度が少なくなり、その負担が軽減される。
  • 担当看護師側にとっては、何度も差し替えることでり返しの痛み刺激を与えてしまうというストレスから解放され、静脈路確保のための時間的コストが軽減される。
  • CVカテーテル、PICCよりもカテーテルの長さが非常に短いため、深部静脈血栓症のリスクは相対的にかなり小さいとみなすことができる。
  • CVカテーテル挿入時の機械的合併症のリスクが非常に小さい。ただし神経損傷動脈穿刺、血種のリスクはある。これはPICC穿刺挿入時のリスクと同等である。
  • 末梢静脈ラインの範疇であるが、通常の末梢静脈ラインより長期留置が可能で、CVカテーテルやPICCよりもリスクが小さい静脈ライン確保の方法、という位置づけになる。これにより「末梢か、CV/PICCか」といったジレンマが解消される。
  • エコーガイド下穿刺sweep scan法に習熟していないと実施できず、またそれでも1回の穿刺で成功させないと静脈がspasticになり2度目の穿刺が困難になるためそのプレッシャーが強く、術者の負担やトレーニング量は大きい。
  • 消毒とドレシング交換はCVラインと同程度の頻度にする方が望ましい。
  • 留置するカテーテルは血管への負担軽減のため長く柔らかい器材が望ましい。
  • 海外ではすでにミッドラインカテーテルの挿入手技として分類されているが、本邦では専用の器材が市販されていない。それゆえ、この手法が広まる土壌がない。
  • 通常のCVカテーテルをこの手法に流用することについて、メーカー1社に問い合わせたところ、行わないよう勧告された経験がある。

当センターではある特定の器材を使用し、医師2名ですでに100例近くこの手法を実施しておりますが、目立つ有害事象の発生がなく、長期留置(長いと数週間以上)に堪えられる成績が得られています。2020年6月現在、当センターで研究調査中です。

内頚静脈、腋窩静脈からの末梢静脈路確保

上腕_尺側皮静脈穿刺による末梢静脈ライン確保はリスクも少なくよい方法ですが、血管径が細い場合や、血管が動いて穿刺しにくい場合などがあり、技術的には必ずしも容易とは言い難い面もあります。

「四肢の末梢静脈が確保できない+CVカテーテルまでは必要ない+上腕_尺側皮静脈が確保できない」、という条件になった場合、ほかにどういった選択肢があるでしょうか。エコーガイド下でなければ外頚静脈の確保が選択できます。エコーガイド下穿刺で実施するとしたら、内頚静脈、腋窩静脈が選択肢にあげられます。

これらの場合、血管径が太いことから先端の壁当たりのリスクは小さくなるので、長め(51mm)のサーフローなどの一般的な静脈留置針で安定した留置が可能です。ただし一般的にカニューラ針(外套式針)は、外套を押し込む操作中にトラブルが発生しやすく、技術的には若干難易度は上がります。またCVカテーテルではなく「ただの末梢静脈路」という扱いになりますので、造影剤検査も可能です。

これからは「末梢静脈路が確保できない」ことがすなわち「CVCカテーテル or PICC挿入の適応」ではありません。このような工夫で静脈ライン問題にともなうリスクを低減できる余地がまだまだ残されているのです。