「エコーガイド下穿刺が今のCVCの標準になってきているらしい。見えない血管がエコーで見えるんだったら簡単になるんだろう。我流だけどやってみるか。あれ?おかしい。けっこう難しい。全然当たらない。なんで?これだったらブラインド穿刺の方が簡単で早いんじゃないか。・・・もうエコーガイドはやめよう」ーこんな光景、しばしば展開されていませんか?せっかくのいいツールなのに・・・。

簡単そうに見えてもうまくいかないのはなぜでしょうか。これはエコーガイド下穿刺のピットフォールに落ち込んでしまったから?もしそうならエコーガイド下CVCで陥りがちなピットフォールとはなにか?その回避策は?を探っていくことがまず必要ですね。以下、短軸像穿刺を念頭に置いて解説していきます。

エコーガイド法のピットフォールとは

短軸像でエコーを当てた時、だれでもまず感じることは「よく見える」でしょう。ターゲットの静脈だけでなくその周辺構造や呼吸性の変動、体表面からの深さなどがとてもよく見えます。

しかし実は、この「よく見える」ということ、まさにそれがくせものなのです!というのも、「よく見える」ので、それだけ「簡単に刺せそう」と思ってしまうからなのです。ある講習会では参加者のひとりがこう言いました。「この内頚静脈は目をつぶっていても刺せそうだ。」まさにそれがピットフォールを端的に表現した言葉なのです。そう思ったら危ない!

つまり、簡単に刺せそうに見えるから、我流でもなんでもいいからついイージーに刺してしまうわけです。するとどうなるか。刺しても刺しても「針先」がどこらへんにあるかが見えないのです!

こころの中ではこんなふうに思っているかもしれません。「針が見えない、どこだろう?いろいろ動かしてみよう」「おかしい・・・こんなはずでは」「先端じゃなくてシャフトだったのか・・・いつの間にか深く刺している・・もしかして動脈?・・・やってしまった・・・」

このように、血管や周辺構造がよく見えても、針先とその穿刺過程が見えなければエコーガイド下穿刺にはなりません。針先をエコーで「ガイド」して血管を穿刺する技術ですから、針先の描出が大切です。しかし、これはそれほど単純ではないのです。

ただ途中のプロセスがあまり見えてなくとも、それでもなんとなく成功することもあります。でもそれは「なんちゃってエコーガイド」です。その不確実性はいずれ大きい事故の元になる予感がします。ぜひとも卒業しましょう!

見えない血管をブランインドで穿刺していた時代から、エコーで血管やその周囲がよく見えるようになった、それだけでも画期的なことだといえます。しかし、そのエコーの最大の利点こそが逆に最大の弱点と化してしまう、そんな裏腹なことがこのエコーガイド下穿刺のピットフォールなのです。その認識をまず共有したいと思います。

ピットフォールの根本原因

なぜこのようなピットフォールに陥ってしまうのでしょうか。それはある意味、自然なことかもしれません。なぜならこのエコーガイド下穿刺という技術が2つの次元から成り立っていて、そこは見えづらいところだからです。

穿刺針を刺していく過程は、体表面から針先が目標の血管に向かってななめに進んでいく「3次元的」過程です。一方、エコーで表現される画像は、人体組織のある断面を「2次元的」に表現したものに過ぎません。
この「3次元的」過程と「2次元的」過程が組み合わされてエコーガイド下穿刺の技術は成立しています。これは、3次元的にななめに徐々に深く進んでいく穿刺針先端という「点」を、見失わずに2次元画像上に表現していくことが必要であることを意味しています。

This skill set must then be paired with manual dexterity to perform the three dimensional (3D) task of placing a catheter into the target vessel while using and interpreting 2D images.(次に、このスキルセットと手動の器用さを組み合わせて、2D画像を使用および解釈しながらカテーテルを標的血管に配置する3次元(3D)タスクを実行する必要があります。)

Troianos et al. Guidelines for Performing Ultrasound Guided Vascular Cannulation: Recommendations of the American Society of Echocardiography and the Society of Cardiovascular Anesthesiologists. J Am Soc Echocardiogr 2011;24:1291-318.

ところが、超音波ビームはプローブの接地面全体から照射されているわけではなく、中心部のごく細いところ(約1mm幅と聞いたことがありますが、もっと薄いかもしれません)、その薄い幅の線からのみ照射されており、その薄い膜のようなエコービームを針が横切った時だけ、針は画像上に描出されます。となると動く針先だけを連続的に描出していくとしたら、その薄いところに動く先端をつねに入れていくプローブ操作が要求されます。とてもデリケートなわけです。そのためちょっとした大きな動きで先端がビームから外れ、画面上から消えてしまいます。こうして針先が見つけられない、連続的に描出できない、穿刺針を動かしているうちに見失いやすい、となりやすいのです。

しかも穿刺針が細いと目標血管の周辺組織の、似たような高輝度のノイズのなかに紛れてしまいやすく、識別が難しくなります。かといって逆に針が太いと、針の裏側はエコーが入らずアコースティック・シャドウになって見えなくなってしまい、目標の血管に誘導できなくなってしまいます。こうして、エコーの2次元画像上で移動する針先を、見失わずにうまく目標血管に誘導して穿刺するのは、このピットフォールとそれなりのノウハウを知った上でのトレーニングが必要になってくることがわかります。

「血管・内部構造がよく見える」ので「簡単に穿刺ができる」ように思うのは錯覚であり、その錯覚がピットフォールへと誘うわけです。

ちなみに、CVC穿刺シミュレータは管以外の構造は均質で、これは人体とは全く異なります。シミュレータでは針先はまわりの構造と比べて非常によくコントラストがつき、描出が容易です。人体は前述のとおり、繊維や筋膜など高輝度な構造や点が血管の上にたくさんあり、穿刺針の識別が難しくなって見失いやすくなっています。この違いも念頭に置いておかないと、「シミュレータではあんなにうまくできたのになんで?」ということになってしまいます。ここも一種のピットフォールでしょう。その意味では、何度も刺したやや使い古しのシミュレータの方がたくさんノイズが入っていて、トレーニングレベルはより高いものになりますので有用です。

ピットフォールの種類

このピットフォールを意識せず、我流で実施するとさらにどツボにはまっていきます。

バリエーション1プローブのすぐ近くから刺入する

だれでもつい、エコープローブのすぐ近くを刺そうとする傾向があります。刺したあと、すぐ先端を見失いはしないかという不安感があるからでしょう。しかしこのやりかたは、刺したあとすぐに先端は見えますがその後ビームから先端が抜けてしまって、画面には「シャフト」部分だけが見え続けることになります。

「針を進めているのに画面では先端がちっとも動かないな」と思うときはたいていこういう状況です。それで「針をもっと進めなきゃ」と思って刺していくと、実は先端はいつの間にかだいぶ深いところまで進んでいて、「もうこんな深くまで」と思ったときにはすでに合併症一歩手前です。たまに血管穿刺に成功しても「なんちゃって」エコーガイドです。「運が良かっただけ」という不全感が残ります。「先端を誘導する」ということが十分に意識されていないとこのような状態になります。

それでもこの方法でがんばって先端を描出し続けようとすると、エコープローブを垂直よりも手前に倒していく⇒穿刺針先端とエコービームの角度は徐々に鋭角になっていく⇒先端エコーの反射成分が徐々に低下していく⇒画像上先端が見えにくくなっていく、ということになります。これも針先を見失う原因になります。プローブと穿刺針の隙間も狭まっていくので穿刺操作自体も難しくなります。ちょっと無理のある方法ですので、あまりすすめられません。

バリエーション2プローブを立てた状態から動かさない

短軸像で穿刺する場合、穿刺針先端は3次元的に移動していきますが、その針の移動にあわせたプローブの動きがなければ、あるいは動かし方が小さすぎれば、先端はエコービームとクロスせず画像には現れません。これでは体表面から目標までの穿刺プロセスは当然「ブラインド」になり、エコー「ガイド」の条件を満たしません。それで、針先が見えない⇒今どこに針先があるのかわからない⇒いつの間にか後壁穿刺になっている⇒いつの間にか合併症が発生している、ということになりやすいのです。

プローブを動かしながら反対の手で針を進めるということを同時にコンビネーション良くやるのは、はじめはたしかにやりづらいかもしれませんが、そこがトレーニングのポイントになります。

プローブを固定したままの状態で、針先を描出せずに穿刺をすることの危なさは、https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMvcm1406114 の動画を参照していただければおわかりいただけると思います。この動画と当サイトの鎖骨下_腋窩静脈穿刺:動画とをぜひ比較してみてください。

出典:N Engl J Med 2018; 379:e1 DOI: 10.1056/NEJMvcm1406114

バリエーション3針先を早く見つけようとしてやたらに激しくプローブを動かしてしまう

穿刺針先端は高輝度な点としてエコー画面上に映りますが、実はエコーで見ると人体組織内部には似たような高輝度な構造物がたくさんあることに気づきます。腱、繊維組織などです。穿刺針先端はこの中に紛れやすく、さらにエコープローブを激しく動かすと画面が目まぐるしく変化して、ますます針先は認識しにくくなります。針先が実は見えていたが、見過ごしてしまうということも起きます。結果それで闇雲な穿刺になってしまうのです。

簡単にできると最初に思い込んでしまって、いざやってみるとそうでもないという場合、こんなふうに焦りやすいので注意してください。

バリエーション4針がなかなか進められない

45°の立てた穿刺角度で、頚部や鎖骨下に針を刺していくのは、たしかに勇気のいるテクニックです。そのため、つい手がすくんでしまい、先端は認識できてもそこから針を進めていく勇気が出ない、いつまでもjiggleしたまま同じ場所にとどまっている、ということになるのももっともなことでしょう。しかし、短針を使用する限り、たとえ後壁穿刺になったとしても重篤な合併症を引き起こすリスクは非常に小さいのです(穿刺針と持ち方 参照)。それから、穿刺に時間をかけすぎると穿刺針周囲の出血やおそらく脂肪の液化などが起きて、穿刺針と周囲組織との摩擦がだんだん小さくなり、jiggleしても針の動きが見えなくなってくるので、誘導が難しくなってきます。慎重さも大事ですが、すばやく行うこともとても重要なスキルです。それを養うために、人体で実践する前にシミュレータで十分に、そして大胆にトレーニングを積んでおくことが大切です。シミュレータでは何をやっても合併症にはなりませんから。たくさんシミュレータで失敗しましょう!

 

バリエーション5エコー画面ばかり見て刺入点を見ない

最初はだれでもエコーでの針先の描出は難しいものですが、それゆえに懸命に見つけようとして視線は画面にくぎ付けになり、手元の注意がおろそかになりがちです。それで、画面を凝視しているうちにいつの間にか深く刺してしまうということがよく起きます。これも合併症や不成功の温床になります。

これは短軸像穿刺だけでなく、長軸像穿刺斜位像穿刺でも起こりがちなことです。

はじめのうちは、画面だけでなく手元も頻繁に見て、針がどのへんまで進んでいるかを、プローブの角度と穿刺針の刺入震度から推定しながら行うことが上達への近道です。

 

バリエーション6デフォルトとして長い穿刺針を使う

ランドマーク法時代の習慣からか、「CVCでは長い針を使うものだ」という思い込みがありませんか?どこから刺してもCVCでは長い針でないと血管まで届かないと思っていませんか?

デバイスの項や鎖骨下_腋窩静脈穿刺の項で解説しますが、実は鎖骨下_腋窩静脈穿刺でも、エコーガイドなら短い穿刺針(例:COVIDIEN SMACプラスキットでは34mm)でほほとんどの場合血管まで到達し穿刺は成功します!しかも45度の穿刺角度なら、根元まで刺しても胸腔にはまず届かない長さです。つまり気胸のリスクも非常に小さいのです。短すぎず長すぎず、絶妙なサイズです。

ということは内頚静脈や大腿静脈でもほとんど短針で穿刺可能であることを示唆します。ですから、エコーガイド下CVCで使用する穿刺針は穿刺部位がどこであろうと短い針がデフォルトである、と思ってください。「CVでは長針を使わなければならない」というのはそれまでの習慣か思い込みでしかなく、少なくともエコーガイド下穿刺にはあてはまりません。

一方、長針とはCOVIDIEN SMACプラスキットでは67mmの針のことです。各メーカーで長針の長さにはバリエーションはありますが、だいたいこのくらいの長さ以上のものを長針と呼んでいいでしょう。

長針で困ることは、シャフトを先端だと思い込んだときには、短針使用時よりも先端はすでにかなり深く進んでしまっていることになりやすいことです。当然これで合併症のリスクが跳ね上がります。またどうしても刺す動きが大きくなり、微妙な描出やコントロールが難しいのです。

穿刺成功後のガイドワイヤー挿入時には、針がちょっとでも動かないように皮膚と固定する必要がありますが、穿刺針が長いとその細い針自体をつかんで皮膚と固定しなければならなくなり、それはけっこう難しい操作になります。

長針は肥満により血管まで深いとか、長軸穿刺用ニードルガイドを使うとかで、どうしても長針が必要な場合にだけ使うようにしたほうがいいでしょう。長針はそれ自体がリスクだという認識が必要です。

針についてはデバイスのカテゴリ中の「穿刺針と持ち方」の記事で、短針穿刺針の使用に関する自験例のデータを提示しましたので参考にしてください。

バリエーション7穿刺針をいろいろな方向・深さについ動かしてしまう

針先がよくわからないのは針先の位置のせいだ、という思い込みから、こうした闇雲な針の動かしかたをしてしまいます。この動きでは針先とシャフトを正確に見極めることは不可能で、その結果針先を正確に血管に向けて誘導していくこともできません。内部組織に思わぬ傷害を及ぼす可能性もあり、合併症のもとになります。針の刺入角度と刺入方向は基本的に途中で変更しないように、プレスキャンで十分にシミュレーションしておくこと、自分の狙い通りに計画的に穿刺することが大切です。

これらのピットフォール、注意点をしっかり認識することが、「なんちゃってエコーガイド」から卒業する第一歩になります。

ピットフォールの回避

ピットフォールのメカニズムがわかれば、その回避策も見えてきます。
合併症のリスクになるのは、つまり危ないのは穿刺針の先端部分だけです。シャフトは危なくありません。その先端がエコーで見え、目標の静脈に向かって先端を移動させていくそのダイナミックな過程を見失わなければ危険はないわけです。考えとしては単純です。

つまりエコーガイド下穿刺の最重要ポイント、それは「穿刺針先端の描出と誘導」です!それによって安全で確実な穿刺が実現します。いつも、「先端はどこだ」と思いながらすすめていきましょう。そこをしっかり押さえてください。

このコンセプトで実施されるエコーガイド下穿刺は、短軸像穿刺swing scan法短軸像穿刺sweep scan法長軸像穿刺斜位像穿刺、の4種あります。これらの具体的な実践テクニックをこのカテゴリ内で動画も交えて詳しく解説します。これらの方法を会得して、ピットフォールを回避してください。

なお、短軸像スキャンにおける、“swing scan” 、“sweep scan” というタームは現杏林大学麻酔科教授の徳嶺譲芳先生が2008年から使用している用語で、とてもわかりやすいのでこのサイトでも使用していくことにします。これはプローブの持ち方とスキャン法で解説します。