プレスキャンの意義

エコーガイド下CVCを実施する前に、穿刺予定部位の周辺を全域にわたって充分にswing scansweep scan長軸像で観察しておきます。これをプレスキャンといいます。プレスキャンの動画はこの記事の最後、またはこちらにあります。医療事故調・提言第1号の提言3にも指摘があるように、プレスキャンはCVCを安全に実施する上で重要視されています。
プレスキャンの意味や役割は、

  1. 目標の静脈が穿刺に適しているかどうか評価すること
  2. リスクを洗い出すこと
  3. 穿刺法・穿刺針・穿刺点の選択と決定をすること
  4. 本穿刺時のシミュレーションを行うこと

です。下見ですね。穿刺前のこのプロセスで、安全確実に実施できるかどうかを見極めます。プレスキャンの結果、その穿刺部位にリスクがあり、無理そうなら中止するか穿刺部位を変更することができます。それは決して「弱気」な態度ではなく、安全確保を図り事前にトラブルを回避したという大きい意味があります。したがってプレスキャンなしにいきなり穿刺に入ろうとするのは、緊急性がある場合以外は避けましょう。また、プレスキャンでは本穿刺をするつもりで穿刺過程をプローブを動かしながらシミュレーションします。予行演習するということですね。

エコーガイド下穿刺の手技自体は数をこなせばいずれ誰でもうまくなりますので、意外かもしれませんがそこはこの技術の中心課題ではありません。どんな経路と穿刺方法なら穿刺が確実に成功させられるかという見積もりが出せること、ここにプロの知と技と経験があります。そしてそれは事前評価=プレスキャンのクオリティで決まります。出たとこ勝負ではなく、自信をもって立てた計画どおりに実行できること、これが大切です。このプレスキャンこそがエコーガイド下穿刺のスペシャルスキルである、と言い切ります。

プレスキャンで評価する項目はけっこう多いのですが、慣れれば数分程度で実施できます。一方、安全確実に穿刺ができる自信が持てないような、なんらかのリスクが発見されれば、確信が持てるまで時間を使って検討します。

以下のようなプレスキャンのポイントを順に解説していきます。

  • 体型の評価
  • 動静脈の同定と周辺構造の評価
  • 血管内血栓の検索
  • 体表面からの距離・深度の測定
  • 血管径、呼吸性変動の評価

体型の評価

エコーガイド下CVCの難易度は、体型や肥満度にかなり左右されます。まず、体型を見て穿刺の難易度をおおまかに推測しましょう。

るいそう患者では体表面から目標静脈までの距離が短く、穿刺針先端が深く進みやすいために誘導が難しい場合があります。後壁穿刺のリスクも高く、慎重で繊細な穿刺が要求されます。

頚部_内頚静脈穿刺では後壁穿刺からの鎖骨下動脈誤穿刺、肺尖部穿刺=気胸に注意します。穿刺針は短針を使用します。穿刺方法は短軸像穿刺_sweep scan法が適しています。

鎖骨下_腋窩静脈穿刺は浮き出た鎖骨・肋骨がプローブの密着とスキャンの妨げとなり、内部の描出と穿刺針の誘導が困難になりがちです。短軸像穿刺よりも穿刺時にプローブ操作が不要な長軸像穿刺ないし斜位像穿刺のほうが適している場合があります。短軸像穿刺の場合は浅い血管の描出と穿刺針の誘導に通常よりもプローブを大きく倒す必要があるswing scan法だと難しいので、短軸像穿刺_sweep scan法が適しています。短針を使用しても気胸のリスクが上昇する場合がありますので、慎重に穿刺しましょう。

 

肥満・浮腫体型では、体表面から静脈までが遠いことで画像が不鮮明となり、描出と穿刺が困難になること、長針でないと届かない場合があることなど、確実性の低下が予想されます。その反面、短針で届くならば、後壁穿刺とそれに伴う合併症のリスクが小さくなるともいえるので、安全性はむしろ向上すると言えます。深度の評価とそれに応じた穿刺方法の選択を多面的に検討することが必要になります。

頚部_内頚静脈穿刺では短針で対応できないケースはなく、穿刺方法は短軸像穿刺swing scan法、sweep scan法どちらでも適用できます。

鎖骨下_腋窩静脈穿刺で長針でないと届かない場合は、深度が深い分、刺入点の設定や穿刺針先端の誘導に難易度が高くなります。腋窩静脈までが深すぎるのであれば、短針を使用し、鎖骨の手前で腋窩静脈と合流する橈側皮静脈からアプローチするといった裏技もあります。

 

動静脈の同定と周辺構造の評価

誤穿刺を防止するために、目標とする静脈のほか、穿刺部周辺の脈管や構造をしっかり同定します。正常解剖の基礎知識は前提ですが個体差が大きいことにも注意します。さらにanomalyやnormal variantなどがありうることを念頭に置きましょう。「位置関係からいって、この血管は絶対静脈!」というような思い込みは事故の元です。位置や形態だけでは動静脈の区別がつきにくいことも稀ではありません。刺し間違えたりすれば一大事です。
動静脈を同定する手順とポイントは、

①描出できる範囲全域でswing scansweep scan長軸像でプレスキャン
②動静脈の血管走行が正常解剖と矛盾しないか検討
③拍動しているほうが動脈、拍動がない方が静脈
④圧迫してつぶれない方が動脈、つぶれる方が静脈
⑤呼吸性変動がないほうが動脈、あるほうが静脈
⑥カラードプラで中枢から向かってくる拍動流は動脈、逆方向の定常流は静脈

必ず複数の手法で動静脈を区別するようにしましょう。また圧迫が強すぎると静脈が見えなくなり、「静脈がない!」と誤認することがありますので注意しましょう。脈管以外の重要な構造、たとえば胸壁や神経などもできるだけ同定しておきましょう。各穿刺部位・穿刺静脈の詳細は、穿刺部位以下の項で解説します。

anomaly
ごくまれ(経験上は1%以下)に、正常な動静脈の位置関係が逆転ないし交差しているanomalyに遭遇することがあります。下図は腋窩動静脈の位置逆転の例です(AV;腋窩静脈 CV;橈側皮静脈 AA;腋窩動脈)。

頚部や鼡径部でも同様のanomalyはありえます。図は右頚部での動静脈の交叉の例です。

こうしたanomalyでも静脈穿刺に適していて特にリスクがないと考えられる場合は、しっかり同定した上で穿刺することに問題はありません。ただし蛇行・交叉が強く、穿刺が難しいと感じられるならば、穿刺部位は再検討する方がよいでしょう。

腫大リンパ節
担癌患者では動静脈周囲のリンパ節の腫大がしばしば見られますが、腫大リンパ節の内部はほぼ無エコーで形態は類円形に描出されるので、脈管と非常に紛らわしい場合があり要注意です。

下図は右鎖骨下をsweep scanした画像で、A右腋窩動脈、B右腋窩静脈、CとDは腫大リンパ節です。C、Dはある断面だけ見れば脈管に見えますが、全域をscanすれば形態を変え尻すぼみに見えなくなることで管腔構造でないことがわかります。ドプラで血流の有無を確認するのも有用です。

動静脈の重なり
動脈が目標静脈の直下に位置している場合、部分的に重なりを認める場合など、動静脈の重なり程度もチェックしておきましょう。腋窩動静脈の場合でも動静脈の重なりはしばしば認められます。

重なっている場合のリスクは静脈の後壁穿刺がそのまま動脈誤穿刺のリスクとなることで、動静脈ろう、仮性動脈瘤、巨大血腫などの合併症の原因となり得ます。動静脈の重なりを認める場合、よりリスクが低くなるように穿刺法・穿刺方向・穿刺部位などを再検討します。ただし根本的には、重なりの強弱にかかわらず、つねに前壁穿刺で成功させる正確で微妙な穿刺針のコントロール技術を確立することが重要です。

動静脈の血管分枝
鎖骨下_腋窩静脈では、走行、径、深さなど解剖学的な条件は個体差が非常に大きく、特に体表から前壁までの間に、動静脈の分枝が複雑に走行しているケースもあり、穿刺のリスクになります。動静脈が複雑に絡み合っている場合はカラードプラで描出し区別することも有用です。

細い動脈分枝や静脈の枝でも、傷つけるといつの間にか深部で血腫が形成され、止血が困難になって意外に大きい出血性の合併症につながるケースも報告されています。穿刺経路上に動静脈の分枝がないかどうかあらかじめチェックしておくことはリスク回避の上で重要です。

もしこうした分枝を穿刺過程で傷つける可能性があれば、穿刺方法・穿刺部位を再検討します。たとえば、短軸像穿刺から長軸像穿刺ないし斜位像穿刺への変更を考慮するなどです。長軸・斜位では画像上の穿刺経路に分枝が見えてこなければ血管損傷のリスクはない、と判断してよいでしょう。

組織のエコー輝度
穿刺針は体表から皮下の筋組織・脂肪識・結合織を通って静脈に至るわけですが、その皮下組織のエコー画像上の見え方は穿刺針先端の誘導のしやすさと関係しています。

エコー画像では、液体成分と筋組織は低輝度、脂肪識と結合織は高輝度に描出されます。穿刺針は高輝度なので筋組織内ではコントラストが強く出て位置の把握が容易になりますが、脂肪識内、結合織内では高輝度の背景にまぎれて針先が不明瞭化します。これが針先を見失う頻度の高い原因になります。このようにプレスキャンの段階で穿刺の難易度をある程度予測できますので、画像上の見え方も穿刺前に把握しておきましょう。

ちなみに穿刺用シミュレータではここまで再現できておらず、血管を模したチューブの周囲は均質に低輝度な組織で構成されており、針先の誘導は比較的容易になっています。つまり、シミュレータで習熟してもそれがすなわち人体での穿刺のスキルに等しくなるわけではないことに注意が必要です。

血管内血栓の検索

血管内部は通常、ほぼ無エコーですが、それより輝度の高いまだら状の領域が認められた場合、血栓を疑います。

血栓を穿刺した場合、血液の吸引やガイドワイヤーの挿入が通常は困難ですが、それでも無理に行うと血栓がはがれて下流へ流れていくリスクがあります。カテーテルまで挿入すればさらに血栓が拡大し重症肺塞栓のリスクを作り出すことになります。どんなに小さくとも血栓が見えたところからの穿刺挿入は原則禁忌と考えましょう。

ただしこの血栓、「エコーをぱっと当てればすぐにわかるはず」と思うかもしれませんが、意外と見つけにくい場合がありやっかいです。この地雷の探索方法を伝授します。

1. 短軸・長軸2方向で描出する
短軸像だけだとエコーのアーチファクトで血栓があるように見えることがしばしばあります。長軸像で見るとそのアーチファクトが消えて血栓が除外できる場合が多いので、プレスキャンではいつも2方向で描出する習慣をつけましょう。また小さい血栓は長軸像の方がよくわかる場合があります。

2. プローブで圧迫する
動脈と異なり、血栓閉塞していない正常な静脈はプローブで圧迫すればつぶれるように圧排されます。しかし血管内部が血栓で完全閉塞していた場合はプローブで圧迫してもつぶれないか、異常に強い力を要します。血管内部の血栓がうまく認識できなくとも、この圧迫でつぶれないという所見があれば血栓を強く疑う根拠になります。下図は圧迫でつぶれる正常な右内頚静脈です。

また、描出した断面に血栓を認めなくとも、その下流が詰まっていれば圧迫してもつぶれないことがあります。画像では静脈内に血栓がないのになぜ圧迫でつぶれないのだろう?と不思議になることがありますが、それは見えていない下流の血栓閉塞の存在を示唆します。こうした理由から血栓を除外するために、一回は必ずプローブで静脈を圧迫して確認するようにしましょう。

3. ドプラで血流を確認する
下流で血栓閉塞している場合、血管径は普通以上に大きく拡張していることがあります。つまりとても穿刺しやすそうに見えるのです。それでイージーに穿刺してみると、穿刺自体は成功しても下流の血栓閉塞でのためにガイドワイヤーが進まないという事態が発生することがあります。そこで初めてトラップにはまったことが自覚されます。変に拡張している静脈はイージーな穿刺を誘うトラップかもしれませんので注意してください。

この場合、圧迫での確認に加えて、ドプラで血流を確認することが有用です。異常に拡張した静脈を見た場合、ドプラで地雷を発見しましょう。プレスキャンでそれを見抜いて、最適な穿刺部位を選択するようにしましょう。

血栓とまぎらわしい構造物に静脈弁があります。一見、浮遊している血栓のようにも見えますが、薄く対称的に付着した板状・棒状のもので、下流側が開いていれば静脈弁です。鎖骨下_腋窩静脈穿刺上腕_尺側皮静脈穿刺の場合にはしばしば静脈弁が認められます。

なお、静脈弁の付近からの穿刺は、穿刺時やガイドワイヤー挿入時にトラブルが発生する懸念があるので、できるだけ避けましょう。

 

左腋窩静脈内に見える静脈弁(高輝度な線状体)

 

距離・深度の測定

体表面から目標静脈中心までの距離は体型と密接な関係があるので、個体差が大きいことはいうまでもありません。

下図は右腋窩静脈の深度のバリエーションで、静脈の中心までaは17mm程度で中肉中背の方。bはるいそう患者で10mmほどしかありません。鎖骨下穿刺では血管位置が浅いと短針を使用していても気胸のリスクが上昇するため、その深度情報は重要です。

cは肥満により26mmとかなり深い位置にある方です。短針では届かない可能性がありますので、穿刺針や穿刺方法についての検討が必要になります。しかし短軸像穿刺で長針を使用した場合は、この体型でも胸腔を穿刺してしまうリスクが発生してしまうので、ジレンマになります。穿刺針の選択については、デバイスの項で解説します。

内頚静脈は一般的に体表面からは浅く、前面は低輝度の鎖乳突筋でおおわれています。そのためエコーガイド下穿刺は比較的容易です。

PICCの場合の穿刺部位(上腕の内側)も個体差は大きく、皮下直下の非常に浅いところに尺側皮静脈がある場合や、上腕尺側皮静脈としては中心まで10mmを越えるかなり深い位置の場合もあります。上腕尺側皮静脈は周囲組織との固定性がゆるく穿刺時に動きやすいので、浅すぎても深すぎても難易度は上昇します。PICCにおいてもこの深度の情報はとても重要です。

深度情報は特に短軸像穿刺の場合、刺入点の決定に大きく影響します。かならず測定するようにしましょう。

血管径、呼吸性変動の評価

エコーガイド下穿刺では、前壁だけを穿刺しカテーテルを留置することを目標にしますが、目標静脈の血管径が、脱水状態のため虚脱している場合があります。

また、呼吸性変動が著しい場合(下図右a;呼気位、b;吸気で完全に虚脱)もあります。

下は呼吸性変動が非常に大きい右腋窩静脈の2例です。吸気で完全に虚脱し、静脈内腔が見えなくなります。

 

これらの状態では前壁のみを穿刺することは非常に難しくなります。仮に穿刺が成功してもガイドワイヤーが挿入されるまでの間に針が抜けてしまうか、針先が動いて後壁穿刺となる可能性が高くなります。こういう場合、血管の拡張を図る体位を工夫したり、輸液負荷で血管径を拡張したり、別の穿刺部位に変更するなどでリスクを低減させることが必要になります。あるいはCVC自体を中止または延期するということも選択肢に入れなくてはなりません。

ただ鎖骨下穿刺では鎖骨下静脈は鎖骨と線維性に結合しており虚脱しにくいので、腋窩静脈も鎖骨にぐっと近づけると意外と虚脱や呼吸性変動が小さくなり、穿刺が容易になる場合があります。プレスキャンで詳細に検討しましょう。

呼吸性変動が大きい右腋窩静脈

プローブを鎖骨に近づけると呼吸性変動がだいぶ小さくなる

なんとか前壁穿刺できるスペースが空いて、穿刺成功

 

プレスキャンで血管の状態を評価し、このような計画の変更を行うということは、リスクを実施前に評価・予知して合併症を回避したことになります。これはすなわち、仮に中止となったとしても、エコーガイドが安全なCVCの実施に寄与したことになります。ランドマーク法ではこうした事前情報はなく、「とりあえず刺してみる」でしかなかったことと比較すれば、その安全性の高さは明白です。

PICCでは尺側皮静脈の径をプレスキャンで評価しますが、個体差は大きく、駆血したとしても3mm程度しかない場合もあります。3mmはカテーテルの穿刺挿入の限界と考えられます。エコー画面では血管径は大きく拡大されていますが、定規で3mm幅を見てみれば納得されると思います。

この段階で穿刺挿入に不適と判断すれば中止または変更することでリスクを回避できます。ただし、意外に上腕の部位によって静脈径や深度には変化があり、また合流や分岐もあって血管径の変化が大きいので、念入りにプレスキャンすることで、良い穿刺点が発見できるかもしれません。

プレスキャンのポイント:まとめ

  • るいそうまたは肥満・全身浮腫があるか
  • anomaly、リンパ節腫脹、動静脈分枝などがないか
  • 皮下組織の見え方はどうか
  • 深度は何mmか
  • 動静脈がしっかり同定できるか
  • 動静脈に重なりはあるか
  • 血管内に血栓はないか
  • 血管閉塞はないか
  • 血管虚脱、呼吸性変動は大きくないか

プレスキャン 動画

実際例の動画でスキャン法を供覧します。エコーはSonoSite S-Nerve リニアプローブL25x/13-6です。