コンセプト

鎖骨下_腋窩静脈穿刺は、短針で穿刺する限り胸腔を穿刺して気胸を作る可能性は非常に低く、しかも東洋人であればほとんどの例で長針ではなく短針で成功する確実性の高い手法であることは鎖骨下_腋窩静脈の記事で解説した通りです。

問題は、短針では届きそうもない高度肥満、高度浮腫の患者さんで、鎖骨下穿刺を第一選択とした場合にどうするかということです。その場合、長軸像穿刺用ニードルガイドも届かない可能性が高いので、その方法は最初に除外されます。

選択肢は

  1. 短針をかなり押し込むようにして力技で腋窩静脈を穿刺する
  2. 長針を使用して短軸像で腋窩静脈を穿刺する
  3. 長針を使用してフリーハンド長軸像で腋窩静脈を穿刺する
  4. 穿刺部位を変更する

などが考えられます。とはいえ、それぞれ一長一短で、どれも強くお勧めできる手法ではないです。そこで、もうひとつの手法、短針使用_短軸像 swing or sweep scan法による橈側(とうそく)皮静脈穿刺を提案します。

橈側皮静脈は、上腕の上部では三角筋胸筋溝(三角筋と大胸筋の間の溝)を通り、 鎖骨外側端の下方で深静脈となり、腋窩静脈に注ぎます。腋窩静脈が鎖骨下静脈に名前を変える直前あるいは直後に合流する走行をとっており、多くの場合、合流するポイントは鎖骨より外側で、エコーでもたいていそこまで描出できます。

血管造影写真では下図のように橈側皮静脈と腋窩静脈が合流して鎖骨下静脈となっていることがわかります。また、皮静脈といえども、この鎖骨手前の合流部付近では深静脈であり、静脈径も太くなっています。体表面に近いところから腋窩静脈に注いでいるため、その深度は当然腋窩静脈よりは浅くなります。

下図は高度肥満患者の右鎖骨下のエコーですが、腋窩静脈の中心は体表から約30mmとかなり深く、短針では届きそうもありません。長針ならば到達すると思われますが、今度は気胸のリスクが発生してしまいます。

ところが体表面から橈側皮静脈の中心までの距離は20mmほどで、黄色い破線あたりのエコー画像になります。比較的浅いところを走行しているのがわかります。そしてエコーで描出できるということは、そこを穿刺することも可能であることを示しています。実際、短針で穿刺が可能でした。短針でこの部位から穿刺挿入ができるのであれば、長針使用による気胸のリスク回避につながります。このように、腋窩静脈との合流部付近の橈側皮静脈は、個体差はありますがCVカテーテルの穿刺挿入に適した条件を備えている場合が多いのです。この方法は高度肥満・高度浮腫患者で鎖骨下穿刺を選択する場合の、オルタナティブな手法となります。

肥満例ではありませんが、下の動画は橈側皮静脈が描出される様子です。右腋窩静脈の短軸像で、プローブを鎖骨に向かってsweepしていくと、画面の左上から橈側皮静脈が現れ、腋窩静脈に接近し鎖骨のすぐ手前で合流する様子が描出できます。画面に橈側皮静脈が現れ腋窩静脈と合流するまでのどこかで、多くの例で橈側皮静脈を穿刺することが可能です。

このように鎖骨下_橈側皮静脈穿刺が、ひとつの手法として確立するならば、適応は肥満・浮腫例に限定されないはずです。たとえば、下図のように腋窩静脈中心まで15mmとかなり浅い、るいそう患者の場合、胸腔までの距離も当然短いため、短針でも気胸のリスクが高くなります。このとき、橈側皮静脈は腋窩静脈よりは浅いので、胸腔からは遠くなり、気胸リスクが低減できるのではないか、と考えられるわけです。

この場合、橈側皮静脈はかなり浅いので(図では中心まで約9mm)、上腕_尺側皮静脈穿刺のように短軸像 sweep scan法で穿刺するのが適しています。

橈側皮静脈は、上腕部ではもともとPICCの挿入でも選択されることがある血管ですから、鎖骨下_橈側皮静脈からのCVCが不向きである理由はありません。あえていうならば、血管径が非常に狭小である場合やエコーで明瞭に同定できない場合は適用できないこと、腋窩静脈に合流する角度がやや急峻なので、ガイドワイヤーの挿入はX線透視下で行うことが強く推奨されるという注意点があることでしょう。

また、腋窩静脈が短軸像で描出されても、橈側皮静脈は長軸像になることもよくあるので、描出・穿刺軸はよく検討しましょう。

エコーガイド下_鎖骨下_橈側皮静脈穿刺の長所と短所

長所

  • 高度肥満・高度浮腫患者の鎖骨下穿刺に長針を使用しなくともよく、気胸リスクが低減する。
  • るいそう患者でも気胸リスクが低減する。

短所

  • 血管径が狭小の場合、適応できない。
  • エコーで明瞭に同定できないと穿刺できない。
  • 腋窩静脈との合流部の角度が急峻なため、ガイドワイヤーの挿入が難しい場合が想定され、X線透視下操作が強く推奨される。