ポイント:安全なダイレータ挿入は、勢いよく挿入しない、深く挿入しない、穿刺時と同じ角度と方向で、ガイドワイヤーを頻回に動かす。透視下ならばより安全。

 

ダイレータの穿通力・危険性

ダイレータはガイドワイヤーを通して挿入し、皮膚、皮下組織、血管壁を、カテーテルが通る分だけ拡張する道具です。挿入するカテーテルの径に応じてダイレータの径にも種類があります。皮膚の抵抗が強いため、刺入点にわずかに皮切をおいて挿入する場合もありますが、潤滑コーティングが施されたダイレータでは抵抗が小さいので、皮切は必須ではありません。ただしダブルルーメン以上だとダイレータの径も大きく穿刺抵抗も大きいので、そのまま挿入するとガイドワイヤーを屈曲させるリスクが上昇することと、患者さんの苦痛が増強するので、個人的にはわずかに皮切をおくようにしています。このとき刃先は上向きにし、ダイレータやガイドワイヤーを傷つけないように注意します。潤滑コーティングは挿入前に生理食塩水などで潤滑を活性化させてから使用します。

一般的にダイレータは硬く、特にブラッドアクセスカテーテル用のものではさらに太く長いのですが、そのくせ挿入にはある程度の押し込む強さが必要であることから、組織の傷害性が強い「危険なツール」であるという認識が、まず第一に必要です。その証拠に、ダイレータにはフルーツ程度は簡単に穿通する穿通力があり、特にブラッドアクセスカテーテル用のダイレータはリンゴすら穿通します。

ダイレータのこうした特性から、強く、勢いよく、深く挿入することが危険であることは容易に理解できるでしょう。実際、ブラッドアクセスカテーテルを挿入する際、術者がダイレータを勢いよく挿入したためにガイドワイヤーが屈曲しダイレータもカテーテルも挿入できなくなった例を目撃したことがあります。このダイレータはガイドワイヤーも容易に屈曲させるので、そうなるとその後のカテーテル挿入などの処置が不能となります。抜いたガイドワイヤーとダイレータを調べると、顕著に変形・屈曲していました。

ダイレータによりガイドワイヤーが屈曲すると、ダイレータがそれ以上挿入できなくなるというだけでなく、ガイドワイヤーを屈曲させながら静脈の後壁穿刺あるいは後壁側にある動脈もろとも穿通する場合があるとされています。

静脈内であっても屈曲部で穿通する場合もありえます。この場合は圧迫止血はできないために重篤な出血性合併症になります。抗凝固・抗血小板製剤を投与中の場合はさらに危機的になります。

人体内部で屈曲している静脈(両側鎖骨下静脈、左内頚静脈→左腕頭静脈)を経由した挿入は特に血管損傷に注意が必要です。最も屈曲が少なく、血管損傷リスクが小さい経路は、上半身では右内頚静脈、下半身では右大腿静脈です。

ダイレータによる損傷事故20例を検討した報告では左無名静脈(腕頭静脈)の損傷が最多でした(Collier, Paul E. “Prevention and treatment of dilator injuries during central venous catheter placement.” Journal of Vascular Surgery: Venous and Lymphatic Disorders 7.6 (2019): 789-792.)。また、20例の術者すべてが、カテーテルを留置するにはダイレータを根元まで入れなければならないと考えていました。実際は静脈壁だけを拡張すればよいので、過度に深く挿入することは無益であり、静脈損傷のハイリスクになるだけです。このように左内頚静脈経由で透析用カテーテルを挿入するという手技には、より特別な注意が必要だということがわかります。このダイレータによる血管損傷が発生すると、致死率が高いため(この報告では85%)、絶対に発生させない知識・技術・体制構築が必要でしょう。

動脈誤穿刺に気付かず、ガイドワイヤーがすでに動脈内にあった場合も、ダイレータの挿入により血管損傷となり破滅的な出血性合併症になる可能性が高くなります。これを防ぐために、ガイドワイヤーの静脈内留置の確認、すなわちポストスキャンが重要になります。

ダイレータ挿入時に血管にはどのような負荷がかかっているでしょうか。ダイレータの挿入時にリアルタイムでエコーを長軸像で描出してみます。


ガイドワイヤーが挿入されていてもダイレータの挿入により静脈壁は強く圧排され屈曲変形します。それぐらい、ダイレータの挿入は血管に対して侵襲的で負荷を与えます。
このときダイレータを勢いよく挿入すると、ガイドワイヤーが血管内に入っていたとしてもダイレータが血管外にずれる方向に力が加わり、ガイドワイヤーは屈曲しながら血管壁を引き裂くような外力となり、最終的に修復困難な血管損傷から出血性合併症に進展する可能性があります。

The mechanism is such that as the catheter, or dilatator, is advanced; the wire starts to “bow” and push up against the vessel wall and potentially causing a linear laceration which can be much larger (and catastrophic) than a simple puncture.(Kornbau, Craig, et al. “Central line complications.” International Journal of Critical Illness and Injury Science 5.3 (2015): 170.)

これらの傷害のメカニズムの候補は、ガイドワイヤーが血管壁に対してトラップされ、その後のダイレータまたはカテーテルの挿入が傷害を引き起こすことです。 カテーテルまたはダイレータを進めるにつれ、 ワイヤーは「曲がり」始め、血管壁を押し上げ、単純な穿刺よりもはるかに大きく(そして壊滅的)になる可能性のある線形裂傷を引き起こす可能性があります。

そして、

  • 抵抗を感じたら絶対に進めないこと
  • 血管壁を拡張する深さ以上には挿入しないこと
  • ダイレータが血管壁に押し付けられないよう、X線透視下の挿入はマストであること
  • カテーテルが挿入された後は、少量の造影剤を流し確実に静脈内に留置されていることを確認すること
  • ちょっとでも不審な点があったら造影剤で確認するようにその使用の閾値を下げておくこと
  • 血管損傷が発生したときにダイレータやカテーテルを単純に抜去すると破滅的な出血性合併症になるので、対策を立てること

などの記載が上記の論文にはあります。ダイレータは愛護的にゆっくりと無理なく挿入していきましょう。

このダイレータ挿入時に発生しがちな機械的合併症の発生機序について、最近他の術者の手技を見ていて再認識しました。そのときは右内頚静脈からカフ型透析用カテーテル「パリンドローム プレシジョン」を留置しようとしていました。

Medtronic

カテーテルが太いので(14.5Fr)、ガイドワイヤー挿入後に12Frダイレータ、14Frダイレータとダイレータを徐々に太くして最後に16Frダイレータとシース・イントロデューサーが一体化したカニューラを挿入して、ダイレータを抜いた後シースにカテーテルを通して留置する方式です。X線透視下で実施していたのですがなぜか12Frダイレータがどうしても挿入できません。コシのあるガイドワイヤーに入れ替えてみたり悪戦苦闘していました。たしかにブラッドアクセスカテーテルなど太いカテーテルを留置するとき、ダイレータの挿入にはかなり力を必要とする場合がありますが、それにしてもそんなに入らないものか?と思っていると、かなり強く術者が一気にダイレータ押し込んだため、ダイレータが皮下に進んでしまい、ガイドワイヤーがだいぶ引き戻されて皮下でとぐろを巻いてしまったのが透視画面で見えました。上記のダイレータによる血管損傷の機序を彷彿とさせる状態でした。このとき術者の手元を見て気付いたのですが、内頚静脈を穿刺したときの角度とダイレータを挿入しようとしているときの角度が全然違っているのです。穿刺時は45度かそれ以上立てて穿刺していたので(図1)、ガイドワイヤーも同じく45度で挿入されています(図2)。ところがダイレータ挿入時は30度以下に寝かせて挿入しようとしていたのです(図3)。ダイレータはガイドワイヤーの挿入方向・挿入角度と同じにしなければなりません。そうでないと、ダイレータはガイドワイヤーを巻き込みつつ血管外に進んでしまう恐れがあるわけです(図4)。ここが問題だったとわかりました。ガイドワイヤーのコシのせいではなかったのです。

このように、勢いよくダイレータを挿入しなくても、穿刺時と角度を変えてダイレータを挿入しようとするとうまく挿入できないということがあるわけです。そのうち暴力的に挿入して大きい血管損傷が発生する、というのが想定されるまずいシナリオです。この背景には太いダイレータだと立てた角度で挿入すると血管を突き破りそうでこわいから、なるべく寝かせて静脈にスムーズに滑り込ませたい、という気持ちがあるのだと思います。あるいは、Collierらの報告のように、「ダイレータは根元まで入れなければならない。そういうものだ」という誤謬があるために、浅い角度でないとスムーズに根元まで入らないから、という考えがあるからではないでしょうか。実はその考えこそが逆に大きい血管損傷を引き起こす原因、ピットフォールになるということです。透析用カテーテルキットの、長く太く硬いダイレータでは、こうした危ない方法が行われやすいので、十分意識して注意することが大切です。静脈の前壁部分だけが拡張されればよいので、それほど深くダイレータは挿入しなくてよいのです。穿刺角度と同じ45度で挿入しても、深く挿入しなければ、またX線透視下操作であれば、大丈夫です。このケースではなんとかダイレータが挿入されて機械的合併症なく終了したのでほっとしました。

ダイレータの挿入方法

上記の注意点をふまえて、適切なダイレータの挿入方法を解説していきます。ダイレータを挿入する際は、ガイドワイヤーの刺入点を左手中指で圧迫しガイドワイヤーの抜けと出血を抑えつつ、母指でガイドワイヤーの遠位端を上から体表面に抑えるようにしてループ状にして、まずガイドワイヤーを固定します。母指と示指とでガイドワイヤーをつまんで固定しダイレータを通していこうとすると、手に無理な力が加わり釣りそうになりますので、やめたほうがいいと思います。ダイレータの進め方は、遠位端を右手でつかんで先端からガイドワイヤーに通し、ダイレータ自体で挿入をコントロールするように進めます。少し進んだら左手母指のガイドワイヤーの押さえを少し中枢側に移動させ、またダイレータを少し進め・・・というアルゴリズム動作を繰り返しながら挿入していきます。これは循環器内科で心カテを行うときに、シース挿入時などで行っている基本的手技です。

ガイドワイヤーの屈曲から発生する血管損傷などの重大合併症を防ぐための操作としては、ダイレータの挿入過程で頻回にガイドワイヤーをダイレータの中で前後に出し入れしてスムーズに動くことを確認するのが有効です。ガイドワイヤーが屈曲するとスムーズな出し入れはできなくなるので、前後に動かすことで屈曲したかどうか早期に認識できるからです。

ダイレータは組織傷害性が高いツールなので、ゆっくり確実に非暴力的に挿入していくことをこころがけなければいけません。しかし、非透視下ではそれも限界があり、しかもこの過程が「ブラインド」になってしまいます。ブラインドの過程はいうまでもなくすべてハイリスクです。過去、ダイレータの操作により致命的な合併症を起こしたと推測される事例が多くあります。危険なダイレータ操作をブラインド操作するのは非常にリスクの高い処置になり、できる限り避けたいわけです。だからX線透視下操作はCVCでは標準的に行うべき手順であり、非常に重要です。X線透視によりこの過程を可視化し、注意するポイントは、

  • ダイレータの挿入方向が血管の走行に一致しているか
  • ダイレータの挿入角度が血管穿刺時の角度と一致しているか
  • ダイレータの挿入過程でガイドワイヤーが屈曲していないかどうか
  • ガイドワイヤーがたわんで、ダイレータが血管外に逸れそうになっていないか
  • ダイレータが深く入りすぎて血管壁を傷害していないかどうか

などです。これらのことをリアルタイムに確認でき、安全性が確保されます。とはいえ、、ICU入室患者やERでの緊急患者は血管造影室で実施することができないので、その分リスクが上昇することを踏まえたうえで実施しなければなりません。ここが緊急・重症患者のCVのちょっと痛いところです。

ダイレータの挿入深度は、鎖骨下からのアプローチではダイレータ先端が鎖骨をくぐるところまで確認できれば、それ以上深く挿入する必要はありません。内頚静脈穿刺ではもっと浅くてもいいでしょう。このとき注意しているとダイレータ先端のテーパー部分から本体部分が静脈内に入ったときの血管壁が拡張された手ごたえが感じられます。その手ごたえがあったところが必要十分な深度です。

下の動画は右内頚静脈から挿入した透析用カテーテルのダイレータです。太い分穿刺抵抗が大きいですが、挿入方向、挿入角度を確かめながら、また、ガイドワイヤーがたわまない方向に角度を修正しながら安全に透視下で挿入できます。ダイレータの挿入は穿刺角度、穿刺方向と同じで行います。

なお、COVIDIEN SMAC プラス マイクロニードルタイプでは、ダイレータに目盛りがふってあり、深度の確認ができます。X線透視下で見ながら挿入していると、通常5cmより深く挿入する必要性がないことが確認できます。ダイレータは根元まで入れる。入れなければならない。それは誤謬です。

ダイレータを抜去後は多量に外出血しやすく、あるいは内出血から血腫形成しやすいので、無用な出血を抑えるために刺入点を圧迫しながら抜去します。抜去するときもダイレータを一気に引き抜いてしまうと、ガイドワイヤーもつられて一緒に抜けてしまう恐れがあるため、ダイレータを少し抜いたらガイドワイヤーを少し押し込む、という動作を繰り返しながら抜いていきます。ダイレータが体表から抜けたら、ガイドワイヤーが抜けないように挿入点を押さえて、ダイレータ―を抜去するのと同時にループを作って、最後に母指でガイドワイヤーを押さえてから完全に抜去すると、そのあとのカテーテル挿入がワンアクションでできますのでスマートです。ダイレータ抜去後は血管壁が拡張されているために当然外出血しやすくなってしまいますが、このように抜去部を圧迫することでその外出血も抑制できます。細かいことかもしれませんが、こうした操作で術野には「一滴も」出血させずに処置が可能になります。感染リスク抑制の面で好ましいことは無論のこと、血まみれよりも低侵襲に見えるのは間違いなく、エキスパートっぽくないですか?自己満ですか・・・。ダイレータを抜去したあとは先端が屈曲変形していないこと=ガイドワイヤーと血管壁に負荷がかかっていないこと、を確認しておくとなお安心です。

最終的にカテーテルまで挿入してガイドワイヤーを抜去した際、抜去したガイドワイヤーも屈曲変形していないかどうか点検することもトラブルの予測という上では重要な確認方法になります。ガイドワイヤーが屈曲変形していれば、どこかの過程でガイドワイヤーに負荷がかかったことを示しており、なんらかのトラブルの可能性が浮上します。それを確認した段階で可能性のある機械的合併症を想起し対策を検討することができます。後手に回らないで先回りすること、トラブルが発生する前から対策すること、トラブルシューティングの基本です。

なお、細径のガイドワイヤーにダイレータを通すのを容易にするインサータが、COVIDIEN SMAC プラス マイクロニードルタイプ フルキットでは付属しています。マイクロニードルタイプのガイドワイヤーは細く、ダイレータにもカテーテルにも通しにくいのは事実ですので、便利です!(介助の看護師の目が気になって、意地を張ってなるべく使わないようにしていますが)

=MEMO=

カテーテルを誤挿入=心筋梗塞の男性死亡-○○病院  (2009.8.26時事通信)

  • ○○病院で、心筋梗塞(こうそく)で入院していた70代の男性患者に対し、静脈に入れるべきカテーテルを誤って動脈に挿入、2日後に患者が死亡していたことが25日、分かった。同病院は●●県警などに事故を届け出た。
  • 同病院医療安全管理室によると、患者は今月中旬、心臓の大動脈弁を人工弁に置き換える手術を受けた。5日後に栄養を直接投与するため頸(けい)静脈からカテーテルを挿入する際、誤って頸動脈に挿入。先端が人工弁の中に入り、心不全を起こした。直ちに人工心肺を取り付けるなど緊急処置をしたが、患者は2日後に死亡した。