ポイント:IC(インフォームドコンセント;説明と同意)は同意の形成、マナーの問題、医療記録、紛争対策という意味だけでなく、CVCのパフォーマンス向上を促進するひとつの仕掛けである。

説明書・同意書 書式例

CVCのICでは、各施設ごとの所定の様式の書面を用いて、十分に説明し、本人や家族の納得を得るように努めましょう、ということになっています。最近では特に係争回避の観点から、しっかり説明し納得が得られたというところまでカルテに記載することが求められています。例外的には、どうしてもCVCが必要だけれども、本人の意識状態が低下している場合や理解力が不十分であるような場合には、家族や近親者・関係者のみに説明し同意を得ることになります。また蘇生時など緊急性が高い場合は事後承諾も許容されると思われますが、事後でも書面で同意書をとりましょう。佐久医療センターで使用している説明書・同意書を参考までに提示します。

informed consent

説明と同意のポリシー

医療事故調提言第1号 「中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―」では

提言2

中心静脈カテーテル挿入時には、その必要性及び患者個別のリスクを書面で説明する。特にハイリスク患者で、死亡する危険を考慮しても挿入が必要と判断される場合は、その旨を十分に説明し、患者あるいは家族の納得を得ることが重要である。

と記述されています。ICに所定の書式を用いるとしても、患者ごとに特異なリスクを評価し、そこにフォーカスしつつ説明し同意を得ることを求めています。

ICの目的は、「患者の自己決定権の保証」です。

従来の医師・歯科医師の権威(パターナリズム)に基づいた医療を改め、患者の選択権・自由意志を最大限尊重するという理念に基づく。一方、重過失がある場合の責任追及や、裁判を受ける権利までを制限するものではない(Wikipedia)

そのため、残念ながらICがあったとしても事故発生時の免責要件になるわけではありません。

ごくまれな害反応で患者が死亡したとします。その害反応について説明してあり、そのうえで治療を行ったとします。治療に過誤はなかったにもかかわらず、折悪しく害反応が起こって、適切な対応にもかかわらず死亡した場合は、責任は問われないと思います。ただし、これは日本以外の国の話です。インフォームド・コンセントにのっとっていたとか、最善を尽くしたとかは、日本の司法界では考慮されず、結果がすべてです。(谷田憲俊 インフォームド・コンセントーその誤解・曲解・正解 医薬ビジランスセンター 2006)

さらに「医療訴訟と専門情報」(高瀬浩造 他編 判例タイムズ社 2004)には以下のような記述があります。

  • 医療従事者あるいは医療機関には、「医療行為を受けた患者に発生したいかなる事象に対しても何がしかの責任を有する」という認識が必要。
  • それが患者にとって満足できるものか、満足できないものか、それによって訴訟が起きるか起きないかという、話としてはそういうこと。
  • 結局、裁判になってしまうケースは、患者さんが納得できない、この言葉で尽きてしまう・・・逆に言うと納得させてほしいという願望の表れでもある。
  • どんな説明をしたら患者さんが納得してくれるかという医師のトレーニングが、これまではあまりなされていない。
  • 何をもって医師としての能力があるかは、インフォームド・コンセントが正確に実施できるかどうかだ。

これらの記述内容の是非はともかく、法律家の観点からもICの重要性が強調されています。外部者の提言にも耳を傾ける必要がありそうです。と同時に残念ながら、日本の医療者は法的に守られることを期待するな、という認識を持つ必要がありそうです。

納得のあるなしが係争回避に直結するならば、できるだけていねいに事前説明することは当然重要です。係争云々を抜きにしたとしても、ていねいなICによって患者満足も向上することに疑う余地はありません。ただ若干懸念していることは、たしかにていねいな説明をするというのは正論ですが、「ていねい」とはリスクの詳述ともリンクしています。リスクを説明すればするほど患者と家族は怯え、決断できなくなるおそれがあるわけです。この正論と実際のジレンマが問題です。個人的な解決法は、最低限の丁寧な説明を基本として、その患者家族の関心度、心的傾向、患者の重症度などを勘案し、必要に応じて説明の度合いを深めていくようにしています。説明の不足と過剰を両方防止する意図です。

ICの別な機能

また、別な角度からICについて考察します。ICは上述のような患者と家族の納得、医療者の説明責任のためだけなのかというと、それ以上の隠された役割ないし効果があるとわたしは考えております。というのも、ていねいなICは患者と信頼関係を築き、患者のキャラクターを把握し、リラックスさせることで、処置前によい準備状態が生まれ、それにより以下のようなよい効果が期待できるからです。

  • 処置中の指示に素直に従ってくれるようになる
  • 不穏な体動、いらつき、緊張感が減弱する
  • 筋肉が弛緩し血管が拡張する
  • 緊張が解け、局所麻酔が効きやすくなる
  • 紛らわしい訴えが減少する
  • 身体の違和感が発生した場合に率直に申告してくれる

このような方向に患者をコントロールすることができ、処置がたいへんやりやすくなるわけです。これらの効果が今度は術者側にフィードバックされ良い影響力をもたらします。つまり、

  • 患者がリラックスすると術者の側もリラックスできるようになる。
  • リラックスすることで集中力が向上し、CVCのパフォーマンスが上昇する。

ということです。要するに、手続き上のこと、患者満足のこと、係争予防のことだけでなく、最終的には術者の自己コントロールとそれによるCVC手技のパフォーマンス向上という効果を生み出すわけです、それが結果として有害事象の防止につながっていくことになります。

すべてよい結果になるとしたら、「説明と同意」「納得」は、医療安全向上のための手順・スキルであるということ、すなわち、医療行為の一部であることがわかります。面倒なだけの手続きでもなく、術者個人の親切心に依存した行為でもありません。「たかがCVでしょ。ぱっとやって問題なければいったい何が問題?そんな時間かけて説明するヒマなんかない」という声も聞こえてきそうですが、ICは技術の一部!と断言します。

CVC説明ファイル

ICの仕方に関しては、一般の方はCVCという処置になじみがうすく、言葉による説明だけではピンとこないので、図や写真などで視覚的に説明を補助するほうがより理解しやすくなると思います。わたしはパワーポイントで作成した説明ファイルをiPadで見せながら初回の方にはわかりやすく説明するようにしています。参考までにそのファイルをupします。

 

ic ppt file

ic_ppt_file2

 

このとき、効果的に説明するポイントは、

  • CVCの目的、治療上の必要性はなにか
  • CVカテーテルとはどのような医療器具か
  • どこから挿入するか
  • どこで処置するか
  • いつ実施するか
  • どういう手順で処置するか
  • 誰が処置するか
  • どのようなリスクがどの程度あるか
  • 合併症が発生したらどうなるか
  • 入れた後はどうなるか
  • なにか不安な点があるか

などを挙げることができます。簡単にいえば、自分が患者の立場だったら何が知りたいかという観点から説明することがよい説明の仕方、かもしれません。処置に対する不安感を払拭することが大事です。

あわせて、診療記録などの文書だけでは把握できないリスクも術前診察という形で見ておきましょう。実際の体型や穿刺予定部位の視診、精神状態、性格、最適な体位が取れるかどうか、どの程度の時間じっとしていられるかなど、記録されていない患者の状態がいろいろあることに気づくでしょう。この情報もパフォーマンス向上やリスク低減に役立ちます。

ただし、詳細な説明が逆に不安感をかきたてることになったり、説明が煩わしそうで長時間の説明でむしろイライラするように見えたり、体調が悪く長時間の説明に耐えられないような場合は、それ相応に説明を簡略化するようにしています。一律な事務手続きで形式的に説明は済ませたとするより、「納得」「患者満足」のほうが重要です。

最後に付け加えるなら、説明と同意のプロセスは適応とも関連しています。CVCの説明書を作成する過程で、CVCの必要性、安全な方法、代替手段、患者特有のリスク、合併症等について整理し、患者と家族にわかりやすく説明する準備をするわけですが、考えているうちに「今気づいたけどはこんな大きいリスクがあったか」とか、「やっぱりそこまでする必要があるんだろうか」というような疑問もしばしば浮き出てきます。それで「CVCはやっぱりやめよう」とか「代替手段を考えよう」というふうに改めて検討し計画を見直す機会となるわけです。患者や家族からの質問や指摘によっても、あらたな事実に気づくことさえあります。CVCの有害事象を抑制するためには適応を厳密化し、総数を抑えることがひとつの確実な手段であることは「適応の評価」で記述しましたが、このような見直しをすることで有害事象を間接的に低減させる機能を持つことになります。しっかりとした説明と同意取得のプロセスは、医療安全・患者安全の質向上に寄与する、ということがいえるでしょう。

=MEMO=

患者の不満、「医師の説明」が影響大、日医総研調査

「待ち時間」相関低く、「満足」9割近く レポート2015年1月29日(木) 配信 池田宏之(m3.com編集部)

 医療への満足度に影響する一番大きな要因は「医師による説明」で、一般的に良く聞かれる「待ち時間」は、あまり相関がないことも分かった。

医療過誤報道が満足度に影響

 調査は、2014年8月に、ランダム抽出した全国の20歳以上の成人1122人に対して実施。個別面接による調査で、実施主体が日本医師会であることを隠して実施した。平均年齢は53.3歳で、性別は男性46.4%、女性53.6%。職業は確認していない。

 総合的に見て受けた医療に不満を持っていた人だけに限ると、「待ち時間」が44.4%、「医師の説明」が43.4%、「治療費」が41.4%となった。不満な項目と受けた医療の満足の相関関係を分析したところ、最も医療の満足度に影響を与えていたのは、「医師の説明」で、相関係数は0.7近くなった。一方で、良く指摘される「待ち時間」は相関係数が0.4強となった。「治療費」は0.6弱。

 江口氏は、「待ち時間が長くても、医師が説明してくれれば、満足度は高くなる可能性がある」と話していて、報告書は医師が患者に十分に説明を実施する医学教育の強化や、余裕を持った患者への説明が可能となる環境整備の重要性も指摘している。

出典:m3.com 医療維新・ニュース  より抜粋