ポイント:カテーテル抜去時のリスクについて認識する。カテーテル抜去時の空気塞栓はほぼ純粋な「医原性事故」になりうるので、最大限の予防策を講じなければならない。

 

空気塞栓防止が最重要

カテーテルの抜去に伴う事故のリスクについてはあまり知られていない傾向があり、ピットフォールとして認識しておかなければなりません。最も大きいリスクは空気が静脈内から心臓・肺に流入する空気塞栓です。非陽圧換気下では吸気時に胸腔は陰圧となり、静脈血が胸腔に引き込まれます。その際胸腔に近い静脈の一部が大気圧にさらされると、空気が急激に静脈内に引き込まれてしまいます。 “ICU Book”(Marino PL)には「14ゲージカテーテルにわずか4mmHgの圧力勾配があるだけでも、1秒間に90mlもの空気が血液中に入り、わずか1秒にして致死的な空気塞栓を生じることがある」とあります。太いカテーテルはなおさらですが、細いカテーテルでも流入時間が長ければ相当に危険です。静脈穿刺時にも針が大気圧に開放されればこのリスクはありますが、カテーテル抜去時にも実はあります。そのため、これによる事故が頻発しています。下図は穿刺挿入時に発生した空気塞栓のCT画像ですが、右室に多量の空気が貯留しているのがわかります。

(Teichgräber, Ulf KM, and Thomas Benter. “Air embolism after the insertion of a central venous catheter.” New England Journal of Medicine 350.19 (2004): e17.)

大量の空気が肺動脈に引き込まれれば、肺循環を阻害し低酸素血症になるとともに、左室からのoutputが低下し循環不全から心停止に至ります。心房中隔欠損や卵円孔開存があるとエアが体循環に流れ、奇異性脳空気塞栓などを発症させる場合があります。いったん静脈内に引き込まれた空気がretrogradeに内頚静脈経由で頭蓋内の静脈に流入し、脳の静脈潅流を阻害することで脳梗塞となる逆行性空気塞栓を発症することもあります。

抜去時に空気塞栓発生のリスクが高い状況とは、

  • カテーテル抜去部がろう孔化している場合(短期の留置でもろう孔化しうる)
  • 太いカテーテル(ブラッドアクセスカテーテルなど)を抜去した場合
  • 座位で抜去した場合
  • 抜去後圧迫を全くしなかった場合、または不完全であった場合
  • 抜去後ガーゼなど通気性のあるドレシングのみの場合
  • 抜去後すぐに歩かせるなど安静にしなかった場合
  • 呼吸不全かつ非陽圧換気下で呼吸努力が強い場合
  • 不穏・安静保持困難など抜去部を保護できないとき
  • 抜去時に深呼吸をした場合

などです。ここから導かれる安全なカーテル抜去の方法とは、

  1. 臥位またはTrendelenburg体位で抜去する
  2. 抜去時は会話をさせない、または息止めをさせる
  3. 抜去後は数分間圧迫する
  4. 通気性のないドレシング剤を貼付する
  5. しばらく安静臥位を保持する

ということになります。ただし、息止めをさせた場合、時間がかかって苦しくなると突然大きく深呼吸する可能性があり、そうなると強く空気が引き込まれるリスクになるので、要注意です。

もしも空気塞栓の発症を強く疑う状況になった場合、その対処法は、CVCの合併症;リスク予知分析(PRA)についてのカテゴリから空気塞栓の項をご覧ください。

出典:日本医療機能評価機構 医療安全情報 No.113 2016年4月

カテーテル遺残防止とカテーテル遺残時の対応

また、抜去したカテーテルはすぐ捨てず、先端に離断がないかどうか、すなわち体内に遺残物がないかどうか点検することも大切です。

事故(自己)抜去された場合は、血管外漏出、軟部組織の傷害、血腫、出血、離断、遺残などのトラブルがないか、バイタルサインに異常がないか、身体・抜去カテーテルをよく観察し、画像診断が必要であれば実施します。カテーテルに直接糸をかけて皮膚と縫合固定する固定の仕方は、強い外力が加わると糸でカテーテルが切断され、血管内に遺残するリスクが高いと考えられ避ける方がよいでしょう。ただし、カテーテルの固定用ホールで皮膚と固定した場合は除きます。

カテーテルが中心静脈、肺動脈、内頚静脈などに遺残した場合、循環器内科や放射線科にコンサルトし、catching wireなどを用いて、取り去ります。血管内の操作で抜去できないときは外科的な摘出を検討します。

 

カテーテル位置異常・迷入・感染等で抜去する際の注意

カテーテル位置異常や動脈カニュレーションのトラブルがあった場合、そのカテーテルをただちに抜去するかどうかは慎重に検討しないといけません。動脈に挿入されていたカテーテルが、挿入中は出血しない状態で安定していても、抜いたと同時に大量に出血することがありうるからです。「動脈カニュレーションになってる!やばい!すぐ抜かなきゃ!」とパニクッて抜いてしまうと、それが決定的な破滅的行為になります。透析用カテーテルなど太いカテーテルの場合はなおさらです。こうした外出血はコントロール困難です。

動脈を貫通してカテーテルが静脈内に留置されている場合や、静脈を貫通し胸腔内に留置されている場合は、胸部正面単純レントゲン写真などの画像検査では正常に留置されているよう見えることがあり、迷入が認識できないときがあります。このとき何の警戒心もなく抜去してしまうと同様にコントロール不能の多量出血となるリスクがあります。カテーテルは「抜いたら安心」ではなく、「抜くときも慎重に」「抜くのもリスク」です。

長期留置されたカテーテルは血栓で血管の壁と癒着している場合もあります。この場合、抜去しようとすると強い抵抗がありますが、これを強引に抜去しようとすると、血管や右房壁を損傷する可能性があり、そうなると血管外に出血し心タンポナーデ、縦隔血腫、血胸などの重篤な出血性合併症を最終的に引き起こす可能性があります。抜去時に抵抗があれば無理な力を加えず、画像検査を行い場合によっては外科的に摘出するなど慎重な対応が必要になります。

カテーテル感染を疑って抜去した場合、コンタミネーションを防ぐために清潔操作でカテーテル先端を切離し、所定の培養容器に密閉して培養検査に提出します。このとき、同時にカテーテルから採血した血液も培養に提出すると、そのあとの感染対策には有用です。

=MEMO=

透析治療の患者死亡=カテーテル抜き、血管に空気 (2013.7.10 時事通信)

  • ○○病院で今年1月、入院して透析治療を受けた市内の無職男性=当時(83)=が治療で使用したカテーテルを抜き取られた後、意識を失い、別の搬送先の病院で約1カ月後に死亡していたことが10日、分かった。
  • カテーテルを抜く際に血管に空気が入ったためといい、病院側は男性の遺族に経過を説明して謝罪し、約2000万円の支払いを提示したが、遺族側は受け取りを拒否したという。
  • ○○病院によると、1月21日に男性の首の血管に挿入したカテーテルを抜いたところ、透析室から病室へ戻る際、意識を失った。検査の結果、脳の血行障害を起こす脳空気塞栓症と診断され、市内の別の病院に搬送されたが、2月22日に死亡したという。

○○病院で腎移植の患者死亡 業務上過失致死容疑で捜査 (2012.10.24 産経新聞)

  • ○○病院で昨年11月、生体腎移植を受けた男性が手術の9日後に死亡していたことが24日、関係者への取材で分かった。体内からカテーテルを抜いた直後に容体が急変しており、警視庁○○署は業務上過失致死容疑で、医師らから事情を聴いている。
  • 遺族側代理人によると、死亡したのは関東地方に住む60代の男性。重度の腎不全のため、昨年10月29日に妹をドナーとする腎移植手術を受けたが、11月3日に医師が静脈カテーテルを抜いた直後に心肺停止状態となり、7日に死亡した。
  • 主治医は遺族に「カテーテルを抜いたことが原因になったかもしれないが、他に主因がある」などと説明。男性を火葬する直前に、遺族に「医療ミスがあったので、遺体を確認したほうがいい」と匿名の情報提供があり、遺族が同署に相談していた。
  • 同署が司法解剖した結果、死因は肺動脈に空気が詰まる「肺動脈空気塞栓(そくせん)症」だった。
  • 代理人によると、通常、カテーテルを抜く際は空気が入ることを防ぐため、患者をあおむけにする必要があるが、当時、男性はあぐらをかいた状態で処置を受けたという。同署は処置と死亡との因果関係を慎重に調べている。

カテーテルで動脈破り後遺症、男性に6000万円賠償 (2014.6.6 読売新聞西部本社)

  • ○○病院は6日、60歳代の男性入院患者の血管にカテーテルを挿入した際、動脈を破る医療事故があり、男性に重い後遺症が残ったとして、病院側が約6000万円の損害賠償金を支払うことで先月、男性の家族と和解したと発表した。
  • 発表によると、男性は同病院で2011年6月に盲腸がんの手術を受けた。翌7月14日に栄養補給のため、30歳代の男性医師が血管にカテーテルを挿入し、栄養を投与。2日後、男性は血圧低下や呼吸困難を起こし、心肺停止となった。
  • 救急蘇生した後、血管からカテーテルを抜くと、挿入で破れた動脈から出血し、低酸素脳症に陥り、高次脳機能障害が残った。