ポイント:リスクの洗い出しにより危険を予知し合併症を回避する。

合併症を防止し、最適なCVCの方法をアレンジするためには、事前にリスクを評価することが大切です。それで危険を予知し、なんらかの対策を講じることで合併症を回避することを狙います。しかし現実には、「こういうリスクや情報をあらかじめ知っていたらこの事故は避けられたのに・・・」というような事故報道や症例報告がたくさんあります。リスクが洗い出せていなかったのです。

「地雷」はたしかに隠されているから地雷なんですが、幸いCVCの場合、隠されている場所は大体わかっています。なので探そうとすれば地雷は容易に発見できる場合が多いのです。ただ、患者本人や上の先生が親切に教えてくれるということはめったにないわけで、自分で情報を収集し、それらの情報ひとつひとつのリスクの程度を自分で点検・評価するしかありません。

リスクの取り扱い
どのような医療処置もリスクはつきものです。そのリスクにどう向き合うか、CVCに限らず一般的には次のようにいえるのではないでしょうか。

  • その処置で、何がリスクになるか、あらかじめ知っていなければならない
  • リスクは隠されていて誰も教えてくれないので、自分で探し出さなければならない
  • リスクの軽重を判断できなければならない(リスクの層別化)
  • 複数のリスク、リスクの組み合わせでリスクは相乗化する
  • リスクが全くないという状況はまれなので、リスクを回避する方法、リスクが現実化しない方法を知っていなければならない
  • リスクが現実化した場合にその対処方法を知らなければならない(トラブルシューティング)
  • 自分でトラブルシューティングできる知識・技術・経験も必要
  • 「想像力」「自問自答」「内面化された指導医」が必要

リスク評価項目

CVCで評価すべきリスクの項目は、

  • 体型
  • 解剖
  • 穿刺部
  • 意識・神経
  • 止血・凝固能
  • 既往・基礎疾患
  • 循環
  • 呼吸
  • 術者

に大きく分類できます。このような項目を評価するには、事前の診察を行うこと、カルテの看護記録・医師記録・血液データ・経過表・内服薬・胸部レントゲン写真などの画像を参照すること、が必要です。具体的な内容、対策の例を別表にまとめました。ただしこれはあくまでもひとつの例であり、リスクを事前に評価しようとする態度こそが大切です。なお、ニードルガイドはすべて長軸像穿刺用のものを指します。

(注)胸郭出口症候群;、腕神経叢と鎖骨下動脈、鎖骨下静脈が胸郭出口付近で頚肋、鎖骨、第一肋骨などや前斜角筋、中斜角筋、小胸筋などに圧迫・牽引されることで起きる症状(首肩こり、腕から手にかけての痛み・しびれ感・ビリビリ感、腕のだるさ)の総称。

risk assessment

凝固異常のリスク評価について

2017年のレビュー(van de Weerdt, Emma K., et al. “Central venous catheter placement in coagulopathic patients: risk factors and incidence of bleeding complications.” Transfusion 57.10 (2017): 2512-2525.)では、凝固障害があってそれを補正してもしなくても大きな出血性合併症はあまり発生しないこと、CVCを実施する上での凝固異常のデータの閾値を正確に決めるのは困難であることが示されました。なお凝固異常の定義としては、血小板数5万/㎕以下、INR1.5以上、aPTT45秒以上としていました。成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド 2019改訂版では、観血的処置・手術時に推奨される血小板数として、中心静脈カテーテル挿入では2万/μℓを目安として治療の必要性を判断するとしています。いちおう、このあたりをリスク評価の基準にするのがよいかもしれません。患者の基礎疾患・状態、術者のスキル、エコー使用の有無、穿刺挿入部位、血液内科の意見、などの変数で出血性合併症のリスクも大きく変わるので、単純な血液データだけでは評価しにくいとは思いますが、当センターのコンセンサスとしては、血小板数が2万未満ならば出血性のリスクが高いと認識します。その場合、PCを輸血後にエキスパートがCVC、PICC挿入を実施することが望ましいと考えています。もちろんエコーガイドは必須です。

出血リスクを伴う薬剤について

出血リスクを伴う薬剤は、抗血小板剤、抗凝固薬、血栓溶解剤に大別されます。

<抗血小板剤>
アセチルサリチル酸(バイアスピリン®)、オザグレルナトリウム(カタクロット®、キサンボン®)、チクロピジン(パナルジン®)、クロピドグレル(プラビックス®)、プラスグレル(エフィエント®)、シロスタゾール(プレタール®)、サルポグレラート(アンプラーク®)、コンプラビン配合錠® (外殻層にクロピドグレル、内核にアスピリン)、リマプロストアルファデクス(オパルモン®、プロレナール®)、アルプロスタジル®、ベラプロスト(ドルナー®、プロサイリン®)、イコサペント酸エチル(エパデール®)

<抗凝固薬>
ヘパリン、低分子ヘパリン(ダルテパリン®、パルナパリン®)、ダナパロイド(オルガラン®)、ワルファリン、エドキサバン(リクシアナ®)、アピキサバン(エリキュース®)、リバーロキサバン(イグザレルト®)、プラザキサ(ダビガトラン®)、アルガトロバン(ノバスタン®、スロンノン®)、フォンダパリヌクス(アリクストラ®)、ナファモスタット(フサン®)、ガベキサート(エフオーワイ®)、カモスタット(フオイパン®)

<血栓溶解薬>
アルテプラーゼ(アクチバシン®、グルトパ®)、モンテプラーゼ(クリアクター®)、チソキナーゼ、パミテプラーゼ、ウロキナーゼ(アボキナーゼ®)

投与薬剤の種類・量・投与期間・リバースの可否、実施体制、術者の習熟度、患者の状態などにより出血リスクの程度は左右されますので、リスクがあるということが即禁忌になるわけではありません。状況に応じてリスクを評価し、CVCの計画をその時その場で最適化するということが最善です。個人的な指標としては、血栓溶解療法中はCVCは実施するべきではないと考えています。また、抗凝固療法中ではPLT,PT-INR,APTTをシビアに評価するが必ずしも休薬やリバースは必要としないと考えています。

 

リスクのある埋め込み人工物の例

V-Pシャント:水頭症治療のために行われる脳脊髄液を腹腔に流すカテーテルを造設する処置。脳室-頚部-鎖骨の上-胸壁-腹腔という経路で留置される。この経路付近に細菌感染のソースを作成することは、大きい感染リスクとなる。そのため、下図の場合、右内頚静脈穿刺と右鎖骨下穿刺によるカテーテル留置などは禁忌となる。V-Aシャントの場合も経路を見極める必要がある。

(出典:千葉大学医学部脳神経外科

 

カフ型ブラッドアクセスカテーテル:下の例では左内頚静脈を穿刺し、皮下トンネルで左胸壁にパリンドローム プレシジョンのカテーテルを出している。左内頚静脈穿刺と左鎖骨下穿刺は大きい感染リスクとなるため禁忌となる。

 

永久ペースメーカー:左鎖骨下に埋め込まれていることが多い。通常、本体は体表から触知し、皮膚に手術痕があるが、肥満浮腫、固定が外れた場合など触知しにくい場合もあるので、胸部レントゲンの確認は重要。下図の場合、左鎖骨下穿刺は禁忌。ただしその他の部位からの挿入でも、ガイドワイヤーやカテーテルがペースメーカーのリードと絡んでリードが抜けたりしないように、十分注意する必要がある。原則的にX線透視下でCVCは実施しなければならない。

 

人工血管:ステントグラフト治療に伴い、下図のように人工血管を用いて右鎖骨下動脈-左鎖骨下動脈へのバイパス術を行う場合がある。こうした場合、両側鎖骨下穿刺は禁忌。

(出典:佐賀大学医学部 胸部・心臓血管外科

下大静脈フィルター:内頚静脈穿刺からガイドワイヤーを50cm挿入後、IVCフィルターに絡んで抜けなくなり、IVCフィルターが上大静脈内に引きずり出されてしまった例(Nanda, Sudip, and Laurie Strockoz-Scaff. “A Complication of Central Venous Catheterization.” New England Journal of Medicine 356.21 (2007): e22.)。IVCフィルターが留置されている場合にCVCが禁忌であるとは言えないが、このような重大な事故のリスクがあるため、慎重な評価と慎重な実施体制が必須である。

 

CVCの適応とリスク評価:チェックリスト

適応とあわせたリスク評価のチェックリストを作成しましたので、こちらもご参照ください。
該当するリスク項目が複数または多数あった場合は、ハイリスク症例として第三者に意見を求めるなど、十分に慎重な対応を取ることで、安全を確保しましょう。

CVC check list

 

リスクを冒し、超絶テクニックで治療していくというのは医療ドラマの世界では定番です。しかし、実際の医療現場で本気でそれを実行しようとすれば、時に奇跡的なことが起きるかもしれませんがその反面、事故が頻発することは間違いないでしょう。注意深くリスクを回避して、ドラマチックでもないがトラブルもない、あたりまえの医療をあたりまえに淡々とこなしていくことが最高のパフォーマンスであり最も洗練された医療技術だと、個人的には考えます。それはまた患者と家族が望んでいる医療の在り方でもあるにちがいありません。

=MEMO=

レーシングドライバーは言うまでもなく、レーシングカーを使ってサーキットを誰よりも速く走ろうとしている人々のことだ。では、誰よりも速く走るために彼らは何をしているのか。じつはここに大きな誤解がある。
一般に、サーキットで速く走るためには、まず恐怖感を押し殺してブレーキをあまり踏まず、アクセルを踏み続け素早くステアリングを回さなければならない、と思われがちだ。レーシングドライバーに「怖いもの知らず」で「死と隣り合わせで走る」などという形容がついて回るのは、こうした勝手な思い込みのせいである。
しかし、本当にサーキットを速く走ろうとしたら、ブレーキを遅らせすぎてはいけないし、アクセルは踏みすぎてもいけない。ステアリングに至っては急操作は禁物だ。ましてや恐怖心を無理矢理抑え込んで走っても、けっして良いことは起こらない。
サーキットを速く走るには、けっして「無理」をせず、道具であるレーシングカーから合理的に最大限の性能を引き出すことが必要だ。
無理をしてもレーシングカーは速くは走らない。レーシングカーは、その性能以上の速さを発揮することはないのである。(大串信)(出典:Number Web )