ポイント:CVC実施中のモニタリング装着と緊急資機材準備は努力目標ではなく、必須項目である。血管造影室はCVC実施環境として推奨される。

CVCの処置中に発生する機械的合併症は重篤化しやすく、時に致命的になるのはよく知られています。こうした「危険手技」を実施する際には、事前に十分な安全対策が敷かれていることが前提であり医療的常識といえます。この安全対策は一般的には、予防、早期発見、迅速対応の3段階で構成されます。

安全対策の3段階

予防とは、安全指針や回避すべきことが、マニュアルや手順書としてあらかじめ明文化されていることが、第一に挙げられます。マニュアルは各施設の実情に合わせて作成することになりますが、実際かなりの労力を必要とします。マニュアル通りに全員がすべて実施してくれるとも限りません。ただ合併症が発生し係争事案になった場合には、これが存在していたという事実は少なくとも最低限の予防対策を講じていたと説明することができます。逆にこれがないと「過誤」認定される恐れもあるわけです。マニュアルがエクスキューズになってしまうことは不本意ですが、最低限の安全対策と考えるべきでしょう。

また、未熟な術者のみで実施しないようにするということ、つまり、事前教育も予防対策に含まれます。こうした教育プログラムを構築し開催することにも多大なパワーが必要になります。CVC医療安全は病院をあげてのプロジェクトでないと維持も発展も望めません。

早期発見とは、もしも合併症が発生した際にはそれが迅速に発見され認識できることを指します。予防に失敗したとしても早期発見できれば手遅れになる前に対応するチャンスが生まれます。それを可能にするため、CVCの場合、生体モニターによる経時的な心電図波形、血圧、SpO2のモニタリングは必須です。

モニター装着下では不整脈、呼吸不全、ショックなどが発生すれば早期に認識できます。ガイドワイヤーの刺激による致死的不整脈の波形変化、気胸による低酸素、血胸による循環不全などが早期に発見できることになります。下図は、CVC実施中にモニタリングしていたからこそ早期発見し迅速対応できた心室細動症例です。モニターをつけていなかったらと思うとゾッとしませんか。

これが、「もしかしてなにか合併症が発生したかもしれない」という事態になってから、モニターをどこかから運んでくるのでは対応が遅れる可能性が高くなります。またそもそも異常には気付けない可能性が高くなります。対応が遅れれば当然重篤な結果になる確率は高くなりますし、それでもし最終的に係争になった場合には、安全な実施環境ではなかったと認定されることは間違いなく、大変不利な材料となることが予想されます。合併症を発生させたことが過誤かどうかという争点よりも、「安全体制に不備があった」と事実認定するほうがよほど簡単で決定的な過誤の証拠になりうるでしょう。こういう理由でモニター装着下のCVC実施は予定・緊急を問わず、絶対に必要な体制だというこがわかります。それにCVC実施中はドレープで顔や体幹が隠れてしまうため、モニターなしでは患者の状態変化がわかりにくいので、顔色で異常を発見するのも難しいからという理由もあるでしょう。

こうしたモニタリングは、術者一人だけで監視するのではなく、介助の看護師、複数術者など、複数の目で監視することも大切です。患者安全のためにはこうしたシステムを構築してCVCを実施する必要があります。

合併症発生を早期発見できたのならば、次に迅速対応できるかどうかが問題になります。ここで対応が遅れると早期発見した甲斐がなく、重篤化する可能性が高くなります。なので、緊急資機材がその場になかったとしても、必要時にすぐに使用できる状況にあるかどうかが重要です。具体的には、酸素配管がきていること、または最低でも酸素ボンベのある実施環境であること、救急カートと除細動器は必要時にすぐに使用できるように至近距離に配置してあることが要件になります。

また迅速対応できる人員がつねに配備されているか、すなわち院内急変対応システムが常にスタンバイ状態であることも条件に挙がります。

これら予防・早期発見・迅速対応の3段階のどこかで有害事象の進行がとどまれば、死亡や重篤化などの事態に至らずにすむことが期待できます。こうした安全体制が準備できるのは、血管造影室、透視室、手術室、集中治療室、広めの処置室などのユニットだろうと思いますので、そうした場所でCVCを実施するように院内コンセンサスを形成する戦略が必要になってきます。

血管造影室まで患者を移動させることの負担が大きいという声もしばしば耳にしますが、そもそも入院患者は手術、CT検査、生理検査、リハなどで院内を移動することが当たり前なので、CVCのために患者を移動させることが患者や看護スタッフにとっての特別な負担とはいえません。わずかな負担と比べ、得られるセーフティネットの方がはるかに大きいといえます。だいたい、モニターと緊急資機材がない病室や処置室にそれらをわざわざ持ってきてセッティングし、そこへ患者を入れて処置をするのと、あらかじめすべての資機材がそろっているところに患者を移動して処置をするのとでは、どちらが労力が大きいか、また合理的かは、はっきりしています。

CVC実施場所を限定化すると、介助につく手術室看護師などの負担は増えますが、急変しない限り、患者のモニタリングと記録以外にそれほど仕事が多いわけではありません。一方、病棟看護師は処置介助から解放され、患者送迎だけの負担になるので、仕事の効率化に寄与します。あえてデメリットを挙げるとすれば、病棟看護師のCVCの介助の経験が極端に減少ないし消失することです。しかしこれは各部署での役割分担と考えれば、病院や職員個人にとって大きなデメリットとはいえず、むしろこうした集約化は効率的で安全な医療体制となるはずです。

CVラインセンター

こうした体制整備を最大に推進して、専用処置室と専任職員を配置した、CVC実施に特化したユニットであるCVラインセンターを設置している施設もあります。通常、X線透視装置のあるユニットに設置されます。

出典:東京医科大学病院 CVラインセンター

このような専用ユニットではモニタリングや資機材の問題は簡単にクリアでき、安全性を大きく向上させることができます。一般の中小規模病院ではCVラインセンターを確立させるのは医療資源の問題で困難ですが、工夫次第で同等レベルの実施環境を構築することはできるでしょう。
わたしの所属施設である佐久総合病院・佐久医療センター(450床)では、CVラインセンターとしては開設していませんが、血管造影室の検査時間枠内で、CVC、PICC挿入、CVポート埋め込みができるように院内のコンセンサスを作り、体制を整えています。

専任ではありませんが手術室看護師2名、放射線検査技師1名がつき、生体モニター、除細動器、酸素配管、救急カート、穿刺用エコーが常備され、X線透視装置が使用できます。CVCの最適な実施環境といえます。あえて難点をいえば、実施時間は他の予定検査・緊急検査を優先せざるをえないという若干の不便さがあることですが、たいていCVCは待機的に実施しているので、大きな問題ではありません。患者の移動にリスクを伴う救急患者などのCVライン確保はERやICUで実施します。多くの施設が工夫次第でこのレベルのCVC実施環境を作ることはできると思います。

患者が入室した後、生体モニターのセンサーの装着とモニター画面の確認後、X線透視が使用できる環境では透視装置のセッティングを行います。穿刺成功後にガイドワイヤーを挿入する過程でX線透視をすぐに出しますが、そのときになってCアームやベッドの調整を開始すると、手元が不安定になりトラブルの元になります。エコーの置き場所の位置決めもしなければならないので、プレスキャンをする段階ではCアームとベッドの位置を確定させておくのがよいでしょう。

最適なCVC実施環境:まとめ

それぞれの医療機関の実情に応じて、理想と現実に乖離が生じやすいことは承知で、最適なCVC実施環境をまとめます。

  1. X線透視装置のある血管造影室で実施する
  2. 穿刺用エコーを利用する
  3. 血圧計、パルスオキシメーター、心電図、呼吸回数をモニタリングできる生体モニターを利用する
  4. 除細動器が必要時にすぐ使用できる
  5. 救急カートが必要時にすぐ使用できる
  6. 酸素配管または酸素ボンベがあり、酸素が必要時にすぐ使用できる
  7. 院内急変対応システムが常にスタンバイ状態である
  8. 介助の看護師など、複数の監視者が存在している
  9. CVC実施マニュアルがいつでも参照できる

「CV穿刺は危険度の高い処置だ。実施症例を絞り、何が起きても対応できるように万全な体制を整えてから行うべきだ」
独協医科大学救急医学准教授 松島久雄

出典:NIKKEI MEDICAL 2015.09 p052