CVCトレーニング上級コースではエコーガイド下穿刺のテクニックを中心とした内容を解説しています。エコーガイド下穿刺を適用するにあたっては、1.描出・穿刺テクニック、2.穿刺部位、3.デバイスの3つのカテゴリーと、その中にあるバリエーションを想起して症例ごとに検討し、組み合わせて選択することが基本となります。つまり、エコーガイド下穿刺のトレーニングとは、この3種の知識・技術を習得すればよいということになります。

描出・穿刺テクニックを樹形図で表現すると下図のようになります。

 

 

基礎コースでは実際エコーガイド下穿刺までは十分にトレーニングしきれません。基礎コースではエコーガイド下穿刺の基本にとどめ、上級コースでは穿刺部位ごとの特徴とリスク、プレスキャンの方法、静的手法であるQuick look法穿刺Marking法穿刺短軸像穿刺に加え長軸像穿刺斜位像穿刺ニードルガイドの使用法など、実践的なエキスパート養成講座を目指した内容としています。具体的にはこのサイトのエコーガイド下穿刺のカテゴリの内容を解説し実習します。

エコーガイド下穿刺はエコー操作技術の占める比重が高いので、研修教育のポイントはエコーの扱い、プローブの把持の仕方、走査の仕方などです。それをシミュレータや人体を用いて実際のやり方をデモンストレーションしながら十分な実習時間をとるようします。その際、成功体験を積むというよりも、どのような操作が失敗しやすく危険かなど、失敗体験を持たせることが重要です。シミュレータではいくらでも失敗でき事故にはならないからです。シミュレータ実習の段階でどこまでやったら事故になるか、という体験知を持つということです。また、穿刺場面だけでなく、機材の準備の仕方、ガイドワイヤー・ダイレータ・カテーテルの取り扱いなども、あわせて再確認する方が良いでしょう。実地に際してCVCの処置全体が円滑に進行するようにトレーニングします。受講者がお互いに自分の手技をスマートフォンなどの動画で撮影し、あとでセルフレビューするといった方法も有用かもしれません。

シミュレータ実習は血管だけを模したシミュレータ(京都科学 リアルベッセル)でも実施できますが、これは常にプローブを水平面に当てて穿刺することになり、実際の人体の穿刺とはかなり状況が異なります。つまり非常に穿刺しやすい容易な穿刺条件の機材です。最初に基本的な穿刺実習をする際には有用かもしれませんが、これで習熟したとしても複雑な体表面の凹凸を持つ人体でもうまく穿刺できるようになるわけではありません。

 

 

CVCの穿刺点は、実際の人体では非常に複雑な形状、傾斜のある部位からであり、エコープローブは通常、かなり傾けて走査し、術者も不安定な体勢で穿刺することになりやすいので、それをシミュレートするならより人体の形状に近づけたシミュレータ(京都科学 CVC穿刺挿入シミュレータ Ⅱ)を使用する方が、よりトレーニングになります。

 

 

穿刺シミュレータは、体内を模してはいますが一般的に内部は非常に簡略化されています。血管と周辺組織のコントラストはよくついていますが、周辺組織は非常に均一にできています。構造は血管の本幹のみで、エコー画像上もシンプルに描出されるので、初心者がリアルタイムエコーガイドで穿刺を行っても穿刺針先端と周辺組織のコントラストが大きく成功しやすくなっています。

 

 

一方、実際の人体の血管周囲は非常に複雑で不均一であり、hyper-echoicな組織、hypo-echoicな組織が混在しており、穿刺針先端の輝度に近い紛らわしいノイズが多くなっています。また動静脈の分枝が目標静脈の前面に複雑に絡み合うことも珍しくありません。個人差も大きく、描出が良好な個人と見えにくい個人がいます。ですからシミュレータで習熟し自信をつけ、人体でもシミュレータと同じように穿刺できるだろうと思っていざ穿刺してみるとどうなるでしょうか。そのあまりの違いに非常に戸惑い、その結果うまく穿刺できずにショックを受けるケースがよくみられます。そして「シミュレータではあんなにうまく刺せたのにおかしい。やっぱりエコーガイド下穿刺は難しい。もうやりたくない」とへこんでしまいます。このトラウマは、エコーガイド下穿刺の普及が妨げられる遠因となりかねません。

 

 

シミュレータ実習は非常に有用ですが、ともすればこのような弊害を発生させる場合もあることに注意が必要です。シミュレータ実習は、人体を実際に穿刺する前のトレーニングのワンステップであり、そこがトレーニングの最終目標点ではありません。ここまではエコーガイド下穿刺の基本的知識と技術を確立し、同時にシミュレータの限界も認識するようにしましょう。このあとは実際の人体で指導医のスーパーバイズの元で、穿刺トレーニングが必要です。それは臨床コースとして別個にプログラム化するほうがよいでしょう。

シミュレータ実習自体は、講習会の機会だけでなく、シミュレータ、穿刺機材、超音波があればちょっとしたスペースでも自主トレーニングが可能です。

 

 

この上級コースで、エコーガイド下穿刺を実際症例で適用するにあたって、1.描出・穿刺テクニック、2.穿刺部位、3.デバイスの要素をどのように最適化していったらいいか机上シミュレーションという形で討論することも有用です。

例1

適応:大腸がん術後縫合不全で再手術後の高カロリー輸液目的

リスク:るいそう、血管内脱水

 

プレスキャン:腋窩静脈は若干虚脱気味で呼吸性変動も大きい。体表面から胸腔までの距離は短い。

全身状態:意識状態は良好でリハビリもできる。血管造影室にはベッド移動できる。

今後の見通し:経腸栄養が開始できるまでかなりの時間が見込まれ、高カロリー輸液の期間が長くなることが予想される。

こうした条件下ではどのようにアプローチしたらよいでしょうか。

上半身からのアプローチはできそうなので鼡径や大腿からのアプローチはまず除外されます。長期化することが予想されるので感染予防の観点からは、また患者さんの快適度の点からは頚部よりも鎖骨下穿刺が適しています。ただし、るいそうや脱水などのリスクがあり気胸リスクが高い状態です。それでも鎖骨下穿刺を検討するならば、体位は若干穿刺側が下になるように斜めにして血管の拡張を図り、長軸像穿刺用ニードルガイドを使用し長軸像穿刺とするのが後壁穿刺を予防するうえで適しているでしょう。栄養目的単独ならばカテーテルはシングルルーメンでよいでしょう。長針を使用する必要があるために穿刺成功後の針先のブレに注意します。腋窩静脈が穿刺に不適なほどに虚脱し拡張しないならば無理にトライするべきではありません。

上腕PICCも選択肢になります。脱水がありますが上腕の尺側皮静脈が駆血をしたときに十分な血管径があればよいでしょう。短針使用_短軸像sweep scan法で実施します。尺側皮静脈が細すぎた場合、反対側の尺側皮静脈か上腕静脈からアプローチできないか検討します。ただし、脱水で腋窩静脈が選択できないような場合はいずれの上腕PICCも困難と予想されます。

これらのアプローチが困難で内頚静脈に十分な径があれば、短針使用_短軸像_内頚静脈穿刺でもよいでしょう。

唯一絶対の正解というものは存在しませんので、そのケースに応じて、穿刺法、穿刺部位、使用デバイスを最適化するという意識をつねに持つということが重要です。実際に経験したいろいろな例をあげて検討してみてください。