佐久総合病院では、CVCトレーニング基礎コースは2005年から開始しています。2018年度現在で、27回開催しています。受講者はおもに初期研修医ですが、他院からの希望者・視察者も受け入れたことがあります。CVC実施の手順、合併症の基礎知識、解剖学的特徴、エコーガイド下穿刺の基本などについて研修することがコンテンツです。どうしたら単なるティーチングに終わらないattractiveな研修方法になるか。そのことをずっと模索してきました。その過程で試みてきたコンテンツをご紹介します。

プリテスト

医療系の研修教育ではプリテストの事前配布と事前回答はよく行われています。その意義は、

  • 問題を解くにはテキストを参照する必要があるので、テキストの内容を予習することになり基本的知識を得られる
  • 何を目的とした研修なのか概要を知ることができ、目標や何が大切かポイントがわかる
  • 概要を知ることで準備状態が生まれ、研修に対するモチベーションが高まる
  • 研修当日の内容が全く新しいものでないために受け入れやすく理解したという自覚が生まれ、満足感がでる

などです。

実際、受講者に事後アンケートを取ってみると、

  • 「予習のきっかけとなるので、必要であると思う。」
  • 「どんな内容を知ればよいかということがわかったのでよかったです」
  • 「予習はとても大事ですね。モチベーションのためにも」
  • 「事前に少し予習をしてのぞめたのはさらに理解を深めた気がします」
  • 「事前学習でトレーニングの有用性が上がる」
  • 「事前に勉強しておくことで疑問点を明確にして臨むことができてよい」
  • 「事前に問題意識がたかまり、講義を集中してきけたのでよかったです。」
  • 「漠然と勉強するよりもまずポイントを押さえるには有益だと思う」
  • 「事前にテキストを見ないと不可能なので定着につながる」
  • 「事前学習効果は高く、間違えた問題はより印象に残る」

などなど、プリテストで意図したことが伝わっており作成者としては満足しております。これが、「テキストに目を通しておいてください」というぼんやりした指示では、実際は予習することはなく、受講生にとって退屈な研修になるでしょう。

そして実は、このプリテストという仕掛けには隠された機能があります。それは、実際に自分で問題を作成してみるとよくわかります。つまり、問題を作成する過程で、その問題に対するひとつの「正解」という現実が自施設に存在しているのだろうか、という問いが跳ね返ってくることに気づき、現状を顧みる機会になるわけです。そこにブレがあるなら、現状にいくつものバリエーションがあるなら、問題と解答というセットが成立しないので、その問題はボツということになります。これがガイドラインに記載されているような標準的なことであれば、「自施設はまだ標準手順が未確立」ということになり、問題を作るより先に、自施設の統一事項をまず固めなければならないというベクトルが発生します。「これが正解ということにしても、研修医から『ほんとにいつでもだれでもこれやってるんですか?』ってつっこまれたら、何もいえないな・・・どうするか。」

こうして、

pretestを作成する行為自体に院内の標準化やコンセンサスを促進する効果がある

ということになります。これはその組織にとって、とても意味のあることです。こうした観点から、ぜひ施設ごとに指導者がオリジナルの問題を作成していただきたいと考えます。
とはいうものの、具体的にどのようなポリシーでpretestを作成するべきでしょうか。たとえば自動車教習所の学科試験では、道路交通法という法令を根拠として問題を作成すればよいわけですが、CVCの場合はそういう法令はありませんので、別な根拠にもとづいて問題を作成する必要があります。すなわち、十分に周知されたガイドラインやいわゆるエビデンスのほか、事故事例・合併症報告からくみとった教訓、文献に記載された推奨案やコツ、事故調提言を含めたエキスパートコンセンサスなどの経験知を根拠としていくことになります。それらの根拠は確固としてはいない場合もあるかもしれませんが、なんらかの根拠がないことには正解も標準化のベクトルもありません。こうしたポイントを意識しながらの問題作成をおすすめします。

以下の問題と解説はサンプルですが、参考になればさいわいです。

pretest

アイスブレイク兼エコー実習

研修の導入としてエコーを使ったアイスブレイクを入れると、モチベーションが向上すると同時に、標準手技であるエコーガイド下穿刺に早期から慣れるという意味でも有意義です。また、受け身にならず、自発性を刺激するきっかけにもなります。以下のような指示を与えます。

  • グループのメンバー同士で各々の内頚静脈をエコーで観察する。
  • 最適なエコーのセッティングに調整する。
  • プローブ走査は左手(非利き手)で行い、体表と小指を体表に固定して走査する。
  • 臥位または座位で観察し、血管径、虚脱、呼吸性変動、体表からの深さ、血管内の血栓、静脈弁、動脈との位置関係などに注意する。
  • 呼吸、息止め(Valsalva手技)、プローブの圧迫、首の角度、プローブを当てる角度、プローブの動かし方、体位(下肢拳上)などでどのように内頚静脈の見え方がどう変わるか、観察する。
  • 短軸像と長軸像、2Dとカラードプラでの見え方を観察する。
  • 内頚静脈の周辺構造(動静脈の分枝、リンパ節)、組織の見え方を確認する。特に椎骨動脈を意識する。
  • ランドマーク法の刺入点とエコーガイド下での刺入点の違いを認識する。
  • 解剖学的個体差を認識する。

自分の内頚静脈などを観察したことのある参加者は通常いないので、新鮮な関心を呼び起こします。つかみとしては最適です。

実施手順の解説

CVCを安全確実に実施するためには、手順ひとつひとつに対してその意味を熟知することが必要です。手順の流れに沿って研修を進めていくと効率的です。このサイトでは「CVCの手順と体制」のカテゴリに当たります。
手順の解説中に、実際に発生した有害事象のエピソード、報道事例、他院での事例などを適宜挿入すると、強い現実味を持って印象に残ります。

また、ところどころ、アクティブラーニングの認知タスクを挿入してみましょう。

<アクティブラーニングの例>

3-1.適応

Debate:特にテーマ/トピックが2つの異なる意見に分かれる、または深いPros/Consの考察を可能にする場合、正式なディベートは有効な学習機会を与える。

例:
質問:Swan-Ganzカテーテル(肺動脈カテーテル)の穿刺挿入法もCVCの一種としてトレーニングし安全対策をかけるべきである。賛成ですか、反対ですか?(二手に分かれて討論する)

【背景】
医療事故調では、透析用カテーテルの穿刺挿入はCVCと位置付けました(提言7:留置したカテーテルから十分な逆血を確認することができない場合は、そのカテーテルは原則使用しない。特に透析用留置カテーテルの場合は、致死的合併症となる可能性が高いため、カテーテルの位置確認を確実に行う必要がある)。ということは、CVCの実施プロセスに類似した処置は、CVCの一種として考えるのが妥当ではないか、という疑問が生まれてきます。つまり、内頚静脈鎖骨下静脈(腋窩静脈)大腿静脈を穿刺し、なんからのカテーテルを挿入する処置は同種だとみなすことができるかもしれないのです。そのように一括してとらえるべきか、あるいは限定したほうがよいか、というテーマで議論することで、どちらの陣営で考えても、この「CVCやその類似処置の穿刺挿入の安全性確実性」について考察を深めることになるでしょう。そこが狙いです。

 

3-2.適応

Targetted questioning :先に回答者を指名し、その後質問を与える。先に質問を与え、その後自発的回答を待つだけの場合は、受講者は質問への回答を深く考えようとしなくなるが、本方法なら指名された受講者は自身の知識と理解の極限まで深く考えるようになる。

例:
①先に回答者を指名しておく。
②次に症例を提示する。
【症例】
超高齢者、SMA血栓症で血栓除去術の緊急手術後、多臓器不全から持ち直したが腎機能は廃絶し消化管機能が低下している。無尿と下痢が続いている。人工呼吸器と昇圧剤からは離脱している。尿路感染も併発し抗生剤の投与が継続している。全身の浮腫、皮膚の脆弱性がひどい。テレビで相撲を鑑賞できる意識レベル。家族はしっかりしている。ただし末梢静脈ラインが確立しにくくなっている

③質問する。
静脈ラインはどうすべきでしょうか。
合議でCVCの適応を決定したら、リスクの回避→有害事象の予防につながるでしょうか。など。

 

3-3.説明と同意

Role playing:「あなたがこういう状況にあったらどうするか」という単純なものから「複数人が異なる役割を演じながら模擬交渉を行う」ような複雑なものまでできる。概念や理論の理解が深まる。

例:CVCの実施説明場面

  • 普段使用しているCVCの説明用紙・タブレットを使用する。
  • 患者プロフィールを設定する。
  • 医師役、患者役、患者の家族役、遠い親戚役、看護師役などを設定する。
  • 医師役はリスクについて十分に説明する。
  • 患者は簡単には納得しない。細かいところをつっこんで医師役に負荷を与える。
  • ひととおり終了すれば指導者やグループメンバーでデブリーフィングを行う。
  • 患者プロフィール、配役を替えて同様に行う。

「どんな説明をしたら患者さんが納得してくれるかという医師のトレーニングが、これまではあまりなされていない」「何をもって医師としての能力があるかは、インフォームド・コンセントが正確に実施できるかどうかだ」(医療訴訟と専門情報 高瀬浩造 他編 判例タイムズ社 2004)。たしかに家族と医療者側とで話がこじれる場合、よく話し方がいいとか悪いといういわれかたを耳にします。患者の状態や予後に影響を与えることはありませんが、話し方次第で納得されたり、感情的になったり、満足感が生まれたり、係争になったりすることは十分あり得ることです。相手を丸め込む話術ということではなく、それくらいコミュニケーションスキルは医療の質と関連するということです。ただ、その話し方の系統的なトレーニングは医学生時代を含めほとんどなく、研修医は上級医の説明の仕方を見よう見まねで学習しているというのが現状でしょう。そのような地盤からトラブルが頻出するのも当然と言えば当然と思います。
患者と患者家族に、CVCの処置の目的や必要性そのものを納得してもらうこと、仮に合併症が発生しても最大限予防しようとしたが予防しきれなかったことを納得してもらうことを術者としては説明する責任があります。また、説明と同意は安全なCVC処置を実施するうえで重要な要素でもあるので、説明と同意のトレーニングをコンテンツに含めるのは意味があるでしょう。そのトレーニング方法としてロールプレイングが簡便で有効だと思われます。「患者の立場に立つ」というのは研修医にとって新鮮な体験となり、患者が何を知りたいかが、実感できるようになり、実際の説明の仕方に反映されることを期待します。

 

3-4.実施体制
Active review sessions:全小グループが同じ課題に取り組み、各グループの回答を全体で共有し、相違点について全体で議論する。

例:
「モニタリングと緊急資機材の準備がなく、CVCで事故・合併症が発生したら、どうしますか?」

  • 合併症発生の具体的な状況を設定する
  • グループごとに討議する
  • どのように対応したらよいか、机上シミュレーションを行う
  • きちんと対応できるか、どのような展開が想定されるか討論する
  • 患者・家族にどう説明するか想像する
  • 自分や自分の家族が患者だったら、と想像してみる
  • グループの回答を発表し、全員で共有する。自分たちが気づいていないことに注意を向ける。

 

3-5.必要物品

Note comparison:ペアでノートを見せ合わせる。自分のノートを補うとともに、また相手のノートにおいて足りない点や誤っている点を指摘し、意見の不一致があれば議論させる。

例:

「名称当てクイズ」

  • CVCで使用する必要物品についてグループ内でお互いに質問し合う。
  • 名称、使用方法、特性、類似したほかの器具・薬品など質問する。
  • ゲーム感覚になり積極的になる。
  • 指導者が適宜、口頭試問する。
  • カテーテルの器材は一人一セット持ち帰り、名称、使い方、特性を覚えるよう指示する。

一般的に医療処置では名称や使い方がわからないと事故につながりやすいと言えます。また、上級医になってからこうした基本的な事柄を知らなかったというと格好がつかないので、初期研修医のうちにこうした実習を行っておきましょう。

 

3-6.穿刺

Follow-up targets:1人目の受講者が質問に解答する前に、2人目の受講者を指名しておき、1人目の受講者の後で、同回答に対する反応・意見を求める方法

例:
「質問:エコーガイド下穿刺は、合併症や穿刺回数を低減させるといわれている。しかし、それでも動脈誤穿刺の報告が絶えない。その要因は何だと思いますか?」

背景:「超音波ガイド法は、比較的安全であるとされているが、にもかかわらず、事故が起きたことは重大なこと(宮田哲郎氏)」という発言に見られるように、エコーガイド下穿刺の有用性が現場で生かし切れていない現状があります。その要因をどうとらえるか、1人目の回答に2人目の指名者は最大限の注意を払わなければ反応できません。結果として、2人目だけでなくその場の受講者全員が「自分だったらどう答えるか」と深く考えながら1人目の回答を聞くように促すことができます。単純に質問するよりも深い考察と理解につながり、また他者の考えが刺激になるでしょう。

脈管解剖図作成実習

CVCを実施する上で、ランドマーク法はもちろんのことエコーガイド下穿刺でも解剖学的な知識や注意点の習得は基本的に重要です。しかしあまり正確な知識は備えていないのが通常です。解剖学の図譜を見てもあまり実感もわかず記憶できないので、脈管の解剖図を作成する実習を行うと印象に残るでしょう。これは実際やってみると結構難しく、特に動静脈の位置関係はあまり記憶されていないようです。

<脈管解剖図作成実習の手順>

  1. 上半身のシミュレータの画像をおおよそ実物大(A3)に印刷した紙を用意する。
  2. 右総頸動脈、右腋窩動脈、右鎖骨下動脈、腕頭動脈を赤の色鉛筆で、図示するよう指示する。
  3. 右内頸静脈、右腋窩静脈、右鎖骨下静脈、右腕頭静脈、左腕頭静脈を青の色鉛筆で図示するよう指示する。
  4. 解答例を配布する。シミュレータ付属の透明パッド(模型)を見せてもよい。

机上シミュレーション実習

CVCの挿入準備から抜去まで、安全確実に実行できればそれに越したことはありません。しかし、大小さまざまなトラブルが発生しがちであることも事実です。そのとき「トラブルシューティング」できるかどうかで患者の予後が決定的に変わってくる可能性があります。そのため、トラブルシューティングのトレーニングも重要なコンテンツです。そのトレーニング方法としては机上シミュレーションがあります。

トラブルシューティング:机上シミュレーションのすすめ方

  1. CVCの準備から抜去までの間のどこかの場面を設定する
  2. その場面で何らかのトラブルが発生したことを示す「患者の訴え」や「バイタルサイン」「データの異常」「画像の異常」「手技の停滞」などを提示する。症例報告例や報道事例などをヒントにする。
  3. そのときどのようなトラブルが発生したか受講者に診断・評価してもらい、どのようにトラブルシューティングしたらいいかのプランを挙げてもらう
  4. その事例に対して全員で討議する

[例1]

頻呼吸の患者に対してダブルルーメンCVカテーテルを右内頚静脈から挿入した直後、患者が呼吸苦を訴えだし、SpO2 が97%から94%に低下し、血圧が低下傾向になった。よく見るとダブルルーメンの側管の接続部が解放状態になっていた。何を考え、どう切り抜けるか?

⇒(アセスメント)空気塞栓

⇒(トラブルシューティング)頭低位左下側臥位で空気を右室心尖部に集める、CVカテーテルでその空気を抜く、呼吸管理する、etc.

[例2]

大腸がん術後の患者に対して、一般病棟のベッド上でスタッフ医師2名によって、静脈栄養目的で右内頚静脈からCVカテーテルが挿入された。挿入には手間取ったが確認のレントゲン写真ではカテーテルは適切な位置に留置されていた。夜間、患者は胸背部痛の症状があったが経過観察していた。翌朝、患者は意識不明となり心肺停止となった。

⇒(アセスメント)何の検査を行うか、どのように評価するか

⇒(トラブルシューティング)緊急対応はどのように行うか、また、予防措置は何か考えられるか

エコーガイド下穿刺実習

穿刺の仕方のトレーニング方法としては、45°での刺入を基本としているので、その45°の感覚を養うために、掃除用のメラミンスポンジ(「激落ちくん」など)に10mm感覚で印を付けた物を用意し、まず穿刺だけの練習をします。穿刺してみて穿刺点と同じ距離のところに先端が出てくれば45°で穿刺が成功をしたことになります。

エコーガイド下穿刺では、エコー画像を見ながらプローブ操作と穿刺操作を両手を使って行うという、やや複雑なプロセスが要求されます。ここで大切なことは、どこからどのように穿刺し、プローブを動かせばどのように見えて、どう穿刺が成功するのかというイメージを作ってから実行することです。きちんと計画を立ててから穿刺する、というふうにも言い換えられます。そこで短軸像穿刺でポイントとなる、刺入点の取り方、穿刺角度の決め方を、定規と分度器を使ってトレーニングします。具体的にはエコーガイド下穿刺>描出・穿刺テクニック>短軸像swing scan法短軸像sweep scan法のトレーニング方法を参照してください。

アンケート

研修終了時に受講者にアンケート書いてもらうこともコンテンツに入れましょう。項目は、

  • プリテストの有用性
  • テキストのわかりやすさ
  • 講義全体の難易度
  • 講師の説明のしかた
  • エコーガイド下穿刺の難易度

などが考えられます。この結果はもちろん受講者からのフィードバックとして指導者側の質向上に役立ちますが、受講者のデブリーフィングにもなり、受講した研修を想起して総括することで記銘力が向上する効果も期待できます。ひとつのコンテンツとして位置付けることをおすすめします。

CVCトレーニング 基礎コースの習得目標

CVCの単独実施が許可されるまでに、各段階の要求レベルが明示されていることが必要であるとされています。CVCトレーニング 基礎コースの習得目標は、

  1. CVCの準備、実施手順、管理方法が理解されている
  2. CVCの実施中に使用する物品の名称、使用方法が理解されている
  3. CVCを実施するうえでの最適条件や禁忌が理解されている
  4. エコーガイド下穿刺の基本が習得されている

などになるでしょう。