CVCの研修教育をどのように企画し開催していったらいいかは、悩ましいところです。蘇生法のようなauthorizeされた標準的な教育方法が確立していないCVCでは、丸投げするトレーニングサイトもなく、各々の施設の事情に合わせたトレーニングプログラムを独自に開発しないといけない状況です。そんなこといってもノウハウがないし・・・と、途方に暮れる担当の先生方もいるでしょう。だいたい、年代が上の方の先生はCVCは実地で身につけた手技なので、お手本になる教育方法がないわけです。というわけで、このカテゴリではわたしが2005年から佐久総合病院・佐久医療センターで行ってきた、また、他施設での出張研修の経験を土台に、CVC研修教育についてのヒントが提案できればと考えております。そのコンセプトを、

  1. 何のために
  2. 誰を対象に
  3. どのようなコース設定で
  4. 何を教えるか
  5. どのように教えるか
  6. 指導者の要件は
  7. いつ開催するか
  8. どこで開催するか
  9. 研修会の準備

といういくつかの側面に分解して検討してみます。これらは「自分がもし研修医時代にもどったら、どんなプログラムのCVC講習を受講したいか」「あのときどんな講習があったらよかったか」というような観点を基本にしています。

何のために

CVCで起きる合併症は多彩で、頻度も高く、過去に数多くの事故報道があり、その大部分が破滅的な結果となっていることから、CVCは「危険手技」と明確に位置付けられております。このような基本的・一般的医療処置で深刻な事故が多発していることは、医療に対する根本的な信頼を損ない、訴訟リスクも大きい状況です。CVCにおいてまず必要なこと、それは上手く、かっこよくやることではなく、安全に確実に実施し管理することです。研修教育もそこを根本にすえる必要があります。飯塚悦功先生の「医療における“質中心経営”の重要性」はまさにそれを端的に言い表しています。わたしの基本原則です。

一般目標としては、

  • CVCを安全確実に実施し、管理する能力を習得する

ということになり、

行動目標は、

  • 医療安全の考え方を基本として習得すること
  • CVCを安全に実施・管理するための標準化された技術・知識を身につけること
  • 多職種連携でCVCの実施体制、安全管理体制を適切にマネジメントするためのスキルを養うこと

となるでしょう。下図のようなイメージです。

医療安全という基盤の上に、知識・技術・態度の要素を伸ばしていくというのは、医療の多くの分野・領域に共通したコンセプトです。その意味でCVC研修は、CVCのトレーニングを行いつつそれに限定されず、医療全般に対する基礎トレーニングとしての役割も期待されます。つまり、研修医や若手医師に対する医療安全研修教育の土台づくり、これがCVC研修教育の目標のひとつです。

誰を対象に

CVCの安全体制構築のためには、それを主導する院長や上層部の意識向上と、現場実務者やワーキンググループのスキルアップの両輪がうまく回ること必要です。トップダウンとボトムアップがかみ合うことです。ここではCVCを実際に施行するオペレータにとっての研修教育のフォーカスします。

ただオペレータを教育するといっても、実際に誰を教育対象にするのかが問題になります。というのは、CVCの位置づけが以前とは変わってきているからです。一昔前であれば、CVCは医師ならば「誰でも」「研修医でも」できなければならない基本手技で、だれでもオペレータにならなければならないという圧がかかっていました。誰でも教育対象だったわけです。しかし現代医療では、CVC以外の静脈路や栄養投与法が発達してCVC実施件数が全体的に減っているほか、事故の報告も目立つことから、CVCは誰でもというわけにはいかなくなってきています。一般的手技というより、高いレベルの専門的処置という位置づけにシフトしてきています。

となると、CVC研修ではこれまでどおりの、研修医や若手全体を教育し底上げをしていくべきなのか、一部のエキスパート候補者を選定して集中的に教育していくべきなのか、どちらが望ましいのかという大きい分かれ道のジレンマが発生することになります。また研修医や若手だけでいいのか、特にエコーに不慣れなベテラン医師も対象とすべきかなど判断に困る多くの微妙な問題が生まれてきています。

出典:西村画廊

わたし個人の意見としては、CVCは医療技術としてはまだまだ多くの診療科で必要とされているので、基本的な知識や管理方法、禁忌などはすべての医師が全く知らないということがないように、初期研修医から基礎的な教育をすることは前提としたほうがよいと思います。そのうえで、少数のエキスパート候補者を選定して、より深く知識と技術を教育し、専任化していくことが、安全性と質の担保という面では有利になると考えます。このシステムでは、CVCを実施できる少数のエキスパートと、そのエキスパートにCVCを依頼し、自分では一切実施しない医師の2つの層に分かれることになります。エキスパートは他科の依頼に基づいてCVCを実施します。いわゆる「頼まれCV」です。この頼まれCVで事故が起きた場合の責任の所在が議論される場合があります。責任を取らされるならCVなんかやりたくない、ということでしょうか。とはいっても、医療機関ではすべての科がそれぞれ「お互い様」「持ちつ持たれつ」でコンサルトしあって患者の管理を分担し責任を持っているのが実情ですから、こうしたシステムの構築は特異なものではありません。入院中の自分の患者が吐血したら消化器内科に止血を依頼するというのと、なんら変わりありません。

そうすると初期研修医全員を対象とした広く浅い「基礎コース」と、スタッフ医師、エキスパート候補者対象の狭く深い「上級コース」を別々に、また段階的に設定することが必要になってきます。

どのようなコース設定で

この「基礎コース」「上級コース」は技術レベルではシミュレータ教育になりますが、それだけでは不十分で、オペレータとして独り立ちするには実際の患者でトレーニングする「応用コース」がさらに必要になります。このように、off the jobトレーニングからon the jobトレーニングへ、またはシミュレーショントレーニングから実地研修へと3段階で進めることがひとつのモデルになるでしょう。

シミュレーショントレーニングから実地トレーニングへと段階的に進める教育方法は、すでに長年の歴史がある、大規模で、社会生活に浸透し、その有用性が実証されたシステムが日本には存在しています。それは自動車教習所です。

自動車教習所では知識レベルの講習に加え、技術トレーニングとしては教官がスーパーバイズしながら教習所内のシミュレーションコース、それから路上講習へと段階的にトレーニングを進めていきます。それで自動車運転という非常に複雑でリスクを伴う技術操作のスキルを、一定年齢以上の国民の大部分に、ほとんど確実に習得させることができるという素晴らしい実績を伴う教育システムを実現しています。CVC研修教育でもこのコンセプトが基本的に通用するように思います。これを見習わない手はありません。むしろつねづね、CVCより自動車運転のほうが複雑で危険だと思っているのですが。

そのたとえでいえば、基礎コースは主に学科教習、上級コースは場内走行による技能教習、仮免試験を経て路上教習である応用コースに進む、ということになります。この自動車教習所方式を念頭に置くと、イメージがわきやすくコンテンツを組み立てやすいように思われます。ちなみに教習規則によれば、「普通自動車免許を取得するまでに必要な教習最短時限数は、技能教習34時限(AT限定は31時限)、学科教習26時限である」ということです。どんなに早くても2週間(合宿免許)、通常は数か月かかります。自動車教習という「一般的手技」でさえこのレベルの教育期間が必要なので、人命に直結するリスクの高いCVCの教育にも、本来相当の教育期間が必要になるのは当然です。なお、上級コースは、応用コース終了後の独り立ちした医師のブラッシュアップの機会としても設定することができます。

出典:市川中央自動車教習所

「エコーガイド下穿刺は難しい」という感想をしばしば耳にしますが、気持ち的に「ちょっと練習すれば、ちょっとコツを教えてもらえば、できるはず」という初期設定になっていると、たしかに難しく感じてしまうのかもしれません。が、もともとそれなりのトレーニング期間が必要と考えればそうでもないということに気づくでしょう。少なくとも自動車免許の取得よりは容易であることは保証します。

何を教えるか

CVCトレーニング基礎コースのコンテンツは、おもに知識レベルと技術レベルに大別できます。

知識レベルは、

  • CVCの準備段階、実施方法、管理方法の一連の標準的なプロセス
  • 穿刺挿入に関する解剖的知識
  • CVCで発生する合併症に関係する知識(種類、予防方法、対応方法、ピットフォールなど)

技術レベルは、

  • エコーガイド下穿刺の基本技術

という内容が適当と考えています。

上級コースのコンテンツは、技術レベルの比重が高くなります。内容は主に、

  • エコーガイド下穿刺とそのバリエーションの習得

になります。

応用コースでは

  • 指導者がCVC実施プロセス全体のスーパーバイズ、アドバイス、フィードバックを行う実地修練

と考えます。

具体的なコンテンツは各論で検討します。

ちなみにランドマーク法を教えるかどうかというところでは意見が分かれるようです。教えたほうがいいという側の意見は、エコーガイドは画面に集中しすぎて手元がおろそかになり、穿刺が非常に危ないことが多いので、まず穿刺や解剖の基本を教えてからのほうがよい、というものです。それはエコーガイド下穿刺のピットフォールを突いたもっともな意見ではあります。一方、ランドマーク法はもう教えなくてよいとする立場では、ランドマーク法はエコーガイド法と比較し安全性確実性が低いことは確定した事実であることと、救急領域など特定の科以外ではもう実施しなくなっておりシミュレータで教育しても人体でトレーニングする機会がなく、結局のところ実践機会がないから、というものです。さまざまな考えがありますが、ランドマーク法は省略し、エコーガイド下穿刺のピットフォールをしっかり教育することで、実際の状況に即したコンテンツにする方が効率的だと、個人的には考えます。

どのように教えるか

「球がこうスッと来るだろ、そこをグゥーッと構えて腰をガッとする、あとはバァッといってガーンと打つんだ」

というのがほんとかどうか、長嶋茂雄のバッティング指導法だったそうです。

出典:SANSPO.COM

「静脈がこうパッと見えるだろ、そこをグゥーッと(プローブを)倒して針をガッと刺す、あとはバァッと進めてガーンと突き刺すんだ」といって済むなら楽だろうなと思わないこともないですが、現代ではわかりやすく効率的・効果的な教育プログラムを作成するのが、教育担当者の必須スキルのような位置づけになっており、どう教えるかは重大なテーマです。

学習者の理解度は「RIMEモデル」と呼ばれる4段階で表現されることがあります。

 

このモデルは実際の医師の成長過程をよく表現できているように思えます。ただ、研修や訓練を受けさえすれば、無意識に、自然にこのような段階に勝手に上がっていくわけではないでしょう。学習者がEの段階に到達し教える立場になった時には、どのような知識やスキルをもって教えるかという視点を、最初の段階から意識して学習を進めていくことで達成されるはずです。全くの受け身の受講態度ではなく「自分が指導者になった時にどう教えるか」を意識させるほうが、教育効果が上がるに違いありません。

CVCのことを単純に上からたたきこまれるだけの研修会では、モチベーションが上がらず理解も深まらないのはある意味当然です。CVCという危険手技で、下手するとひとが死ぬというシビアな状況であっても、研修会自体に面白みや新しい発見、引き込まれるような魅力といったエッセンスが研修教育には必要です。イヤな記憶よりも楽しかった記憶は保持されやすいはずだからです。楽しさ、面白さをどう演出するか、そこが重要です。

その点で、ティーチングとコーチングの違いについてまず意識することが大切です。ティーチングは指導者から学習者への一方向のコミュニケーションに終始します。これだけだとあまり面白くありません。

コーチングは傾聴、承認、質問、伝達、タイプ分けなどのコミュニケーションスキルを使って双方向のコミュニケーションを取りながら、学習者が自分で学ぶ態度をつくることを意図します。学習者が積極的に発言することが大切です。それによって満足感や承認欲求が満たされ、楽しい経験としてCVC研修会が記憶されます。

さらに発展させてアクティブラーニングの考え方を導入していきましょう。

アクティブラーニングでは学習の考えを一歩進めて、「学習者はこれら活動に従事する過程で、受領した情報、それまでに自身が構築した知識体系との関連、自身によるそれらの理解度や応用力などについて、一歩下がって幅広い視野で振り返る機会を得る。つまり、メタ認知活動を行うこととなる(メタ認知:自身の認知に関する認知、自身の思考に関する思考を行うこと)。〔高田和生、日内会誌 104:2498~2508, 2015〕」つまり、深い気づきを得るようにリードしていくということでしょう。そのために認知タスクと呼ばれる仕掛け、技法がさまざまに考案されており、「認知タスク次第で、学習者が到達するレベルが左右される(前掲)」といいます。これをどのようにCVC研修教育に組み込むことができるか、各論でいくつか検討してみました。いずれにしても、こうした双方向のコミュニケーションを伴い、タスクをこなしながら進む研修は、なんとなく面白そうだと思いませんか。

これは簡単に言えば、研修という押し付け・義務・苦業を「ゲーム化」し、いつの間にか課題を達成させていくテクニックです。人間は、作業にはすぐ飽きますが、ゲームにはのめりこみやすいのです。だから、作業をゲーム化することができれば、課題を達成しやすくなるのです。さらに継続性や発展性も生まれてくるでしょう。

指導者の要件は

CVCの指導者になるには、どのような特性を備えていればよいでしょうか。もちろん完全な指導者は存在しませんが、理想としてのコンピテンシー(成果を生む望ましい行動特性)を挙げるなら、

  • 現在も日常的に術者としてCVCを施行していること
  • CVCの実績、経験と知識が豊富で、技術が優れていること
  • 術者として同僚から信頼があること
  • 自己流のCVCに固執しないこと
  • イノベーションの意欲があること
  • CVCに関するリテラシー(与えられた材料から必要な情報を引き出し、活用する能力)があること
  • 院内各部門と調整し協力をあおぐコミュニケーションスキルがあること
  • エコーとX線透視の技術と知識に明るいこと
  • CVCの安全対策をすすめていくことに熱意を持っていること
  • CVCの教育に携わっていること
  • 医師患者関係を良好に保つことができること
  • 医療安全の意識が高いこと

などになるでしょう。これはわたし自身の目標でもあります。ただし実際には、研修教育に携わりながら指導者も徐々にコンピテンシーを磨いていくことになるはずなので、必ずしもその時点で理想的な指導者である必要はないでしょう。ある程度実績のある「過去」があり、「現在」やる気があって、「将来」にわたって継続していく意思があるかどうか、ということが最低限の要件になると思います。いずれにしても各医療機関には、CVCの実施だけでなく研修教育をこなすCVCの実務者・けん引役が必要になります。誰かに「白羽の矢」を立てる必要があります。その選びかたがポイントになるでしょう。

いつ開催するか

初期研修医を対象とした基礎コースを設定する場合、入職時から2年目の終わりまでの2年間のどこでCVCトレーニングを実施したらよいかという問題に、明確なコンセンサスはないようです。1年目の早い時期だと、医療安全的な知識が早期に得られる一方、まだ実際にCVCの現場に接していないためにピンと来ないのではないかという意見があり、また、あまり後の方だと、すでにローテーション先で実地指導を受けた経験のある研修医が発生し、研修教育が後手に回る懸念があります。

佐久総合病院グループでは2005年からCVCトレーニングを必須研修として実施してきていますが、当初の考えとして、「1年目と2年目の境の時期がちょうどいいのでは」という、あまり根拠のないプランで始まり、現在もだいたい初期研修1年目の1~3月ころに実施しています。それが妥当かどうかはわかりません。最近では、「半年が経過したくらい」に早めるべきという意見が出されています。最低限、2年目に上がる前のどこかで実施できればよいのではないかと思います。

なお、当施設では研修教育が業務の一環であるという位置づけから、開催日は平日昼間としています。この時間帯は研修医は研修教育に集中できるようにすべての業務からはフリーとなります。

エキスパート用上級コースの開催時期は随時でよいでしょう。

臨床コースでは、エキスパートとして実務を担っていくことを前提として、CVCの実施例が発生した際にその都度トレーニングしていくという形になります。

どこで開催するか

研修の場所としての要件は、

  • 受講生を3~5人のグループに分け、それぞれのグループの机にシミュレータとCVCの器材、周辺に超音波を置いて研修できるスペースがあること
  • シミュレータの穿刺トレーニングに水を使用するので水回りが近くにあること
  • パソコンとプロジェクターが使用できること
  • インターネット環境があること

になります。専用の「シミュレーション学習室」「シミュレーションセンター」などがあれば最適ですが、広めの会議室も利用できるでしょう。他施設と共同で大きい会場で開催することもひとつの方法です。こうした企画は地域連携にも役立ちます。

研修会の準備

事務的なマネジメントの面では、研修の開催において物品の調達と研修場所の設営は不可欠です。このサポートには事務方が必要です。物品ではエコー、シミュレータ、CVカテーテルキットや周辺物品が受講者の人数に比例して必要になります。とくにエコーとシミュレータは自施設に十分な備品がない場合、メーカーから借用して開催することを考えなければなりません。その場合有償となる可能性がありますが、教育にはコストがかかると割り切るしかありません。こうしたコストを支払う仕組みや院内ルールなども事務方主導で整備していただくのがよいと思います。

研修当日もエコー、シミュレータの準備(給水の手間が大きいです)、電源確保、プロジェクターとPCの設定、机と椅子の配置などなど、いろいろ大変です。できるだけ仕事を分担できる体制の構築が望まれます。