CVCの事故報道事例とその分析”と“中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析 ー第1報ー 解説」で考察したように、

  • 動脈穿刺を防止する対策
  • 穿刺成功後のガイドワイヤー、ダイレータ、カテーテルの正常留置確認

は、CVCの安全体制で決定的に重要な事項であることが浮かび上がってきました。ここが確実に実行できていたら、CVC実施中の大事故はかなり防げるはずなのです。これらをCVC安全体制の中心課題ととらえ、また、事故調の提言もふまえて、どのようなシステムがCVCの実施に必要か検討していきます。

技術研修、認定制度

  • 穿刺挿入テクニック、手順、合併症などの知識と技術の事前研修が開催されていることが必要
  • 認定制度により術者として認定されていることが必要

適応とリスク評価の厳密化

  • CVCの必要性の評価、リスクの評価によりCVCの事故を未然に防ぐ。
  • 評価にはチェックリスト等を用いる(下記ファイルを参考)。

CVC check list

  • 術前診察を行いリスクを再評価する。

 

説明と同意

  • 所定の書式に従った説明書・同意書を作成する。患者と家族に説明し同意を得る。
  • 患者特有のリスクについて説明する。

informed consent

実施場所、患者移動

  • 待機的なCVCでは、血管造影室などX線透視装置が設置してある場所で実施する。
  • 移動中はバイタルサインを生体モニターでモニタリングする。
  • そこには、X線透視装置以外に、エコー、生体モニター、救急カート、除細動器、酸素配管が常備されていることが必要。

 

術者、スタッフ

  • 施設内で認定を受けた術者が実施する。
  • 処置に慣れた介助者と診療放射線技師を配置する。
  • 実施前にタイムアウトを行う。

CVC Implementation record

資器材

  • 生体モニターを装着して実施する。
  • セルジンガーキットを使用しスルー・ザ・カニュラキットは使用しない。
  • 短針・細径の穿刺針を基本的に使用する。これはフールプルーフとして作用する(MEMO参照)。
  • 使用資器材の特性や使い方はあらかじめ熟知しておく
  • ブラッドアクセスカテーテル挿入に対しては特別な注意を払う。

感染対策

  • 高度無菌バリアプリコーションで実施する。
  • 皮膚消毒は0.5%以上のクロルヘキシジンアルコールを推奨する。

手技

  • プレスキャンを行う
  • 原則としてエコーガイド下穿刺で実施する。
  • エコーガイド下穿刺の手法については慣れた方法でよいが、ピットフォールを含めた十分な知識と、シミュレータ研修を含めた十分な技術を備えていることが条件になる。
  • 多数回穿刺は避け、3回穿刺に失敗すれば術者を交代するか中止する。

X線透視下操作

  • ガイドワイヤー、ダイレータ、カテーテル挿入時にはX線透視により挿入過程をモニタリングする。位置が不適正であれば透視下で修正する。
  • 最後にカテーテル先端位置をレントゲン写真に撮影し確認する。

記録

  • CVCの実施記録のシステムが整備され、全数調査されている体制が必要。

CVC Implementation record

急変対応システム

  • CVC実施中・実施後に急激なバイタルサインの悪化や明らかな合併症が出現した場合に、トラブルシューティングするシステムが常時準備され稼働していることが要件になる。

以上のような体制整備で、CVCの事故はかなり防止できると考えています。これらが特別な体制化といえば、たしかに大道具としてはX線透視装置のある血管造影室での実施が必要で、小道具の中心は当然エコーということになりますが、それら以外はごく「あたりまえ」のシステムだといえないでしょうか。あたりまえのことを、馬鹿にしないで、ちゃんとやるというのが、医療安全のABC(飯塚悦功)です。これでCVCの闇を払うことができるのであれば、とてもお得でしょう!

CVCのガイドライン

これまで公表されたCVCガイドラインやテキストでは、CVCの実施体制についてどのように記載されているでしょうか。以下、目につくガイドラインの抜粋をあげました。

安全な中心静脈カテーテル挿入・管理のためのプラクティカルガイド 2017 (2017 年 6 月改訂 公益社団法人 日本麻酔科学会 安全委員会)

http://www.anesth.or.jp/guide/pdf/JSA_CV_practical_guide_2017.pdf

  • 中心静脈カテーテルの安全な挿入と管理のためには、標準化された教育、シミュレーション、教育指導体制が必要である。特に、 Real-time approach は、シミュレータで十分にトレーニングしてから、臨床での穿刺に臨む。
  • 中心静脈カテーテル挿入の手技的な上達のために、超音波ガイド下穿刺を積極的に適用すべきである。
  • ランドマーク法の前にPrescanを行った場合、超音波によって標的静脈の位置を確認していることから、分類上は超音波ガイド法となる。よって、本稿では、全ての中心静脈穿刺において超音波ガイド法を推奨する。
  • 最近、超音波ガイド下鎖骨下静脈穿刺(正確には、鎖骨尾側腋窩静脈穿刺) の有用性のエビデンスが蓄積されてきた。しかし、現時点では熟練者による穿刺でのみ高い成功率・低い合併症発生率を示せている。このため、初心者による安易な穿刺は慎まなければならない。

静脈経腸栄養ガイドライン-第3版-(日本静脈経腸栄養学会 編集)

https://www.jspen.jp/wp-content/uploads/2014/04/201404QR_guideline.pdf

  • 感染防止のためには、鎖骨下静脈穿刺を第一選択とする。
  • 穿刺時の安全性の面からは、PICC(peripherally inserted central catheter:末梢挿入式 中心静脈カテーテル)の使用が推奨される。
  • 穿刺回数を減らして機械的合併症を減らすためには、エコーガイド下穿刺法が有用である。
  • CVC 挿入に伴う合併症について熟知しておく。
  • CVC 挿入時には急変対応ができる体制をとる。

中心静脈カテーテル挿入(CVC)に関する指針(改定第3版)2020年(公益財団法人 日本医療機能評価機構 認定病院患者安全推進協議会 CVC検討会委員)

https://www.psp-jq.jcqhc.or.jp/download/7016?wpdmdl=7016&refresh=5f070e7e05c5a1594297982

  • 病院長は中心静脈カテーテル挿入に関する指導者として病院内にインストラクター(複数可)を任命する。インストラクターは、中心静脈カテーテル挿入に関する十分な経験があり、合併症を早期に診断し治療する能力がある医師とする。
  • 病院は、中心静脈カテーテル挿入に関する合併症(気胸、血胸、感染など)の頻度を把握する必要がある。
  • 穿刺を容易にする目的で超音波装置あるいは透視装置を用いる場合がある。他に考慮するものに心電図モニター、酸素配管などがある。

 

Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections, 2011
血管内カテーテル関連感染防止 CDCガイドライン2011

https://www.cdc.gov/hai/pdfs/bsi-guidelines-2011.pdf

http://hica.jp/cdcguideline/bsi-guidelines-2011jp.PDF

  • 感染性の合併症を減らす中心静脈留置の推奨部位と機械的な合併症(例えば気胸、鎮骨下動脈穿刺、鎖骨下静脈裂傷、鎖骨下静脈狭窄、血胸症、血栓症空気塞栓症とカテー テルの誤留置)の起こる危険性に対してのリスクとベネフィットを比較検討してください。
  • 成人患者での中心静脈アクセスは大腿静脈の使用を避けてください。
  • 成人患者では非トンネル化CVカテーテル留置で感染のリスクを最小にするために、内頚静脈や大腿静脈ではなく鎖骨下静脈を使用してください。
  • 中心静脈カテーテル留置に超音波が利用できるならば、血管内留置試技回数や機械的 合併症を減らすために、超音波ガイドを使用してください。超音波ガイダンスは、その技術を完全に訓練されたものによってのみ使用すべきです。
  • CVカテーテル、PICCの挿入またはガイドワイヤーを使用した交換時に、キャップ、マ スク、滅菌ガウン、滅菌手袋、大きな滅菌フルボディドレープの使用を含む高度滅菌バリ アプレコーションを使用してください。

輸液カテーテル管理の実践基準 (日本VADコンソーシアム 編 南山堂 2016年)

  • 医療従事者は輸液治療を行うにあたり、リスクの高い患者や疾患を明確にし予防措置を講じることで、安全性の改善や予防可能な有害事象の減少を図る。
  • 中心静脈留置アクセスデバイス(PICC,CVC,CVポート,トンネル型CVC)を挿入する際には、原則としてセルジンガー法を用いる。

ICUブック 第4版 Paul L.Marino  監訳 稲田英一 メディカル・サイエンス・インターナショナル 2014

  • 覚醒している患者は頸静脈に留置されたカテーテルによる不快感と頸部の可動性の制限をしばしば訴えるので、意識がある患者に対しては、ほかの中心静脈アクセス部位を考慮すべきだろう。
  • PICCを留置した患者の2~11%に上腕部の腫脹を伴う閉塞性血栓症を発症したと報告されており、静脈血栓症の病歴がある患者および癌患者で最も発生率が高い。PICCに起因する敗血症は1件/1000カテーテル挿入日の割合で発生しており、これは中心静脈カテーテルに起因する感染症の発生率とほぼ同じである。

Guideline:Clinical practice guidelines for the management of central venous catheter for critically ill patients

Zhang Z et al. J Emerg Crit Care Med 2018;2:53.

http://jeccm.amegroups.com/article/view/4357/4969

  • 鎖骨下静脈または大腿静脈の挿入のためのリアルタイム超音波ガイドの使用を提案し(2B)、内頸静脈に対してこれを推奨する(1A)。
  • 我々はCVC挿入のために鎖骨下部位を使用することを提案する(2C)。

International evidence-based recommendations on ultrasound-guided vascular access.

Lamperti M et al. Intensive Care Med. 2012 Jul;38(7):1105-17.

  • インプレーン/長軸像穿刺によるリアルタイム超音波ニードルガイダンスは、針の配置の確率を最適化する。
  • ニードルガイドは初心者にとっては成功率を向上させるために使うことができる。
  • エコー機器には記録や教育のための画像保存機能を有しているべきである。
  • エコーガイドによる血管アクセスは臨床的な利益、最終的なコストの低減、カテーテル関連血流感染低減、血栓化した部位からの刺入回避、試行回数低減、挿入の失敗の回避、機械的合併症低減のために使用されるべきである。

Practice Guidelines for Central Venous Access: A Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Central Venous Access

Stephen M. Rupp et al. Anesthesiology 3 2012, Vol.116, 539-573.

http://anesthesiology.pubs.asahq.org/article.aspx?articleid=2443415

  • 観察研究は、血管拡張またはカテーテル留置の前にガイドワイヤーの静脈内挿入を確認するために超音波を使用できることを示している。
  • 文献は、ガイドワイヤーの静脈内留置を確認する有効な方法としてX線透視下操作について議論するには不十分であるが、タスクフォースはX線透視は利用できると信じている。
  • 観察研究ではX線透視と胸部レントゲン写真はカテーテル先端位置の確認に有用であることを示している。
  • タスクフォースは血液の色と拍動性の逆流がないことをもって静脈であると判断するのは信頼性に欠けると信じている。
  • リアルタイムエコーガイドは鎖骨下または大腿静脈を選択した際に利用できるかもしれない。

Guidelines: Association of Anaesthetists of Great Britain and Ireland Safe vascular access 2016

Bodenham et al. Anaesthesia 2016; 71: 573-585.

https://www.aagbi.org/sites/default/files/Safe%20vascular%20access%202016.pdf

  1. 病院は、効果的でタイムリーかつ安全な血管アクセスを患者に確実に提供するための体制を確立すべきである。
  2. すべての病院は、血管内カテーテルの挿入から除去への明確な文書を含む、特定の方針を持たなければならない。
  3. 臨床医は、血管アクセスの提供、訓練、監督において積極的でなければならない。
  4. 超音波は、内頸静脈中心静脈カテーテル挿入のために日常的に使用されるべきである。作業部会は、他のすべての中心静脈アクセス部位での超音波の使用を推奨するが、現時点では証拠が限られていることを認識している。
  5. 中心静脈カテーテル挿入のためのランドマーク法は、超音波が利用できない、または使用できない稀な場合に有用である。
  6. 動脈または末梢静脈カテーテル挿入が困難であると判明した場合、超音波の使用を早期に検討すべきである。

Guidance on the use of ultrasound locating devices for placing central venous catheters

National Institute for Clinical Excellence (NICE) Technology appraisal guidance [TA49] Published date: 04 October 2002

https://www.nice.org.uk/guidance/ta49

  • 2次元(2-D)イメージング超音波ガイダンスの使用は、CVC挿入が選択的または緊急事態のいずれかで必要とされるほとんどの臨床的状況において考慮されるべきである。
  • 2次元(2-D)イメージング超音波ガイダンスを使用してCVCを留置することに関与するすべての者が、適性を達成するための適切な訓練を行うことが推奨される。

中心静脈カテーテル穿刺挿入手技に関する安全指針の策定と順守 目標3b. 危険手技の安全な実施 How to guide 医療安全全国共同行動企画委員会

https://kyodokodo.jp/index_b.html

推奨する対策

  1. TPNとCVC留置適応の厳格化(1)適応病態(2)適応外病態(3)リスク評価チェックリストの使用とその対応
  2. 安全な穿刺手技等の標準化(1)感染防御策の徹底(2)セルジンガーキットの使用(3)モニター機器・緊急資機材の準備(4)多数回穿刺の回避(5)透視化操作(6)超音波装置の使用
  3. 安全手技の教育体制の構築
  4. 医療安全管理者が中心となり、主に看護部でCVC挿入実施調査票を記録する。

MEMO

フール・プルーフ (fool proof) とは、工業製品や生産設備、ソフトウェアなどで、利用者が誤った操作をしても危険に晒されることがないよう、設計の段階で安全対策を施しておくこと。

  • 正しい向きにしか入らない電池ボックス
  • ドアを閉めなければ加熱できない電子レンジ
  • ギアがパーキングに入っていないとエンジンが始動しない自動車
  • 医療用ガスの接続部が同じピン数だとつながらない
  • 輸液ラインのコネクターに輸液用シリンジをつなごうとしてもサイズが違うためつながらない
  • 誤って深く刺しても胸腔には到達しない長さの穿刺針

などがフールプルーフ設計の例である。

(出典:レジデント・メディカル

フェイル・セーフ(fail safe)は、なんらかの装置、システムにおいて、誤操作、誤動作による障害が発生した場合、常に安全側に制御すること。またはそうなるような設計手法で信頼性設計のひとつ。

  • 石油ストーブが転倒すると自動的に消火するよう設計されている
  • 加圧水型原子炉の制御棒の電源が切れると制御棒が自身の重さで炉内に落下して自動的に炉を停止させる
  • 鉄道車両は、(空気圧で動作する)ブレーキに故障があった場合、非常ブレーキがかかる
  • 自動車のスライドドアに身体が挟まれそうになったらドアが停止する
  • 自然災害が発生して病院が停電になっても自家発電によって電気の供給が無くならないようにする
  • 医療機器を誤った使用法で操作しようとした場合に自動的に機能を停止する

などがフェイルセーフ設計の例である。

(出典:レジデント・メディカル

特集◎医療訴訟の落とし穴《インタビュー》 ガイドラインを引用する訴訟が急増しています

仁邦法律事務所所長 桑原博道氏  NIKKEI MEDICAL 2017.08より

ガイドラインを扱った医療訴訟:

  • 1994年以前:ほとんどなし
  • 1995年からの10年間:約40件
  • 2005年からの10年間:160件以上

ガイドライン不遵守の過失認定:

  • 66件中35件

ガイドライン遵守の過失認定:

  • 92件中2件のみ

→ガイドラインを遵守している限りにおいては、被告の医療機関側として裁判官を説得できる材料になる