2001年2月から2019年5月までに、わたし個人としてはCVC関連の新聞やwebニュースによる事故報道事例は57件確認しています。平均年3件です。驚くことにほとんど死亡事例です。これが多いかどうかですが、数か月ごとにCVCの事故が報道されているのはかなり頻繁に感じられます。単一の処置でこれだけ頻発している事故報道はほかにないのではないでしょうか。事故調提言1でも、あまりにCVCの事故報告が多く上がってくるので、提言第1号として急いで公表したという経緯もあると聞いています。

さらにある専門家によれば、CVC処置により「国内でおそらく年間100-1000人が機械的合併症で死亡と推測」されるとのことです。「感染性合併症、血栓性合併症を入れればおそらくその数倍が死亡」といいます。桁違いに驚愕しますが、その根拠や信ぴょう性はさておき、CVCはそれくらい公表されていない事故が多発している危険手技だということは否定できないでしょう。ただCVCの事故は、日本国内だけで毎年大型旅客機が何機も墜落しているような大災害並みだというのは、にわかには受け入れがたいですね。しかも、これが最先端の発展途上の技術による事故ではなく、何十年の歴史があり、今でも一般的・基本的な医療処置と位置付けられている処置にもかかわらず、これほどまでに重大事故がいまだに発生しているという、そのギャップが痛いです。これらの事例から、その事故要因と安全なCVC体制とはなにかを考察していきます。失敗から学ぶということです。失敗は宝の山、最良の教師です!

まず、ストックした事例の、報道日、情報源、見出し、当該病院の病床数、症例、報道内容の概要、当事者、穿刺部位、エコーの使用の有無、長針使用の有無、透析用カテーテル事例かどうか、転帰、直接原因、原因考察、そしてその事例が業務上過失致死(傷)容疑で捜査されたかどうか、を一覧にしました。

cvc  accident report v3.2

 

報道記事はもともと、医学的な真実は保証されていない限定された情報にすぎず、取り上げられる事例も重大事故に限定されています。同じ事例でも情報源によって内容にずれもみられます。そのためそこを足掛かりに分析するのは必ずしも正確ではないという限界はあります。それでも報道されたという「事実」はあり、そのなかから教訓としてくみ取れるものがあると信じます。ただし情報量が少ないため、集計と考察には部分的にわたしの推定も含んでいます。

まず、報道された当該病院の規模と事故とは関連があるかどうかです。大病院であれば事故を防止する体制がより強固であり、事故も少ないかもしれません。病床数の分布を、発生年を横軸、病床数を縦軸としてグラフ化してみました。1000床を越える巨大病院もあれば100床以下の施設もあり、ばらつきが大きいことがわかります。おおまかにいえば、大部分は中核病院、高度医療機関からの事例です。年間のCVCの総数とも関連し、事故が発生した際に公表している/していないという問題もありますので一概には言えませんが、CVCの事故は大病院でもどこでも起こりうるということはいえるでしょう。また、報道事例数は、集中した年もありますが、少なくとも経年的な減少傾向は見られません。CVCの事故対策は現在進行形です。

報道事例57件中、当事者の職種などが不明不詳だった事案が6件ありましたが、報道された範囲での当事者の内訳は下のグラフのようでした(延べ人数)。

 

当事者は大部分がスタッフ医師であり、「研修医」という記述の報道があったのはわずか2件でした。研修医に実施させている絶対数が少ないという背景はあるでしょうが、習熟度や経験数と事故発生要因とは別個の事象かもしれません。つまりベテランになればその分だけ事故のリスクが低下する、とはいえないということです。

業務上過失致死(傷)容疑で捜査されたという記述は57例中28例とほぼ半数にのぼることも衝撃的です。CVCの重大事故が発生する→業務上過失致死(傷)容疑→報道というラインにすぐ乗ってしまう可能性が高いということは、非常に恐ろしいことです。しかも当事者の実名の報道は2件ありました。即、犯罪者扱いです。そういう扱いが不当である、と主張することはできますが、主張しても何も変わらないでしょう。重大事故を起こさない、ないし、事故は発生したができるだけ防ぐ努力をしていた上での事故なので過誤ではない、といえる体制をつくるしかないのです。医療従事者がコントロールできる部分はそこだけです。

また、看護師が当事者として報道された事案が5件あり注目に値します。つまり、CVCの管理中の責任が看護部にも強く問われる場合があるということを表しています。CV入れたのは医者だしそのあとのことも私ら関係ない、とは言えないのです。そこから、CVCの安全対策は医師だけが行えばよいのではなく、病院全体として取り組まなければならない課題であることが浮き彫りになってきます。

事故発生時の穿刺挿入部位は、頚部からのアプローチが半数以上を占めています。一方、穿刺時の機械的合併症のリスクが高いといわれ、最近では避けられる傾向にある鎖骨下穿刺に関連する報道事例は、意外にも頚部の半数程度にとどまっています。鎖骨下穿刺自体の総数が減っているから事故も少ないのかもしれません。このデータだけではなんともいえませんが、ただ、「鎖骨下穿刺より頚部からの穿刺のほうが簡単で安全だから」という理由で頚部からアプローチしているとしたら、大きいピットフォールになりかねないことを表しているように思います。事故調提言でもほとんど頚部からのアプローチの事故が報告されていたこともあわせて考えると、内頚静脈穿刺は実際はリスクが大きいCVCの手法であると認識するべきではないでしょうか。

つぎに、どの時間的フェイズで事故の原因となる事象が発覚したかを、①処置中、②管理中、③抜去時/抜去後、と3つに区分し分類しました。処置中に即時的に傷害が発生した場合もさることながら、管理中や抜去時/抜去後に発覚する例も少なくありません。つまり、挿入時に問題がなければ大丈夫、というわけではないということです。いつでも状態の変化は起こりうるので、その兆候を見逃してはならないこと、状態変化とCVCと関連がないかつねに疑う姿勢が大切であることを示しています。ここはピットフォールになりやすい点で、注意が必要です。CVは「抜いてからも気を抜けない」処置です。

 

看護師が当事者になった5例と抜去時/抜去後7例を除いた45件のうち、複数術者で実施していた例は12件、27%でした。単独術者より複数で実施するほうが安全・安心なのは間違いない、と思ったらそうでもないようです。術者の数よりも個人の技術力のほうが重要ということかもしれません。このあたり、院内ガイドライン策定には影響しそうです。

転帰は、大多数が死亡転帰でした。CVCが関係すると医療事故はこれだけ重症度が高くなることに改めて驚かされます。報道内容が真の原因や医学的事実とはずれている可能性があったとしても、転帰自体の事実性は変わりません。自分が、あるいは自分の家族・知り合いが患者になって、CVCが必要になったら?だれにやってもらう?どういう方法で?と考えてしまいます。自分のことになるとちょっと怖いですね。ちなみに、実際そういう状況になった医療関係者の声として、CVCの処置を受ける段になると、とてつもない恐怖を感じるそうです。「刺し直しはとても耐えられない」とか。腹膜炎になったために絶食になり、栄養はスルー・ザ・カニュラキットのCVで首から刺して、ハイカリを入れましょうと言われたカテーテルメーカーのある社員は、断固拒否し、末梢静脈栄養で乗り切ったという話も聞いたことがあります。「エコーと透視を使わないで自分にはCVは入れてほしくない」と公言された先輩もおられます。自分のこととしてCVCをとらえると、必要な安全対策や望ましい手法も見えてくるのではないでしょうか。

 

発生した合併症の内訳は下のグラフのように分類し集計しました。複数の機序がある場合は複数集計しました。「刺し間違い」「ガイドワイヤー、カテーテルの不適正留置」が重要な原因になっているようです。

最終的に事故に至った直接原因は5つに分類し、その頻度をグラフ化しました。複数の機序が推定される場合は複数割り当てました。その結果、出血性ショックが最も多く分類されましたいと推定されます。重傷の交通外傷でもないのに、CVCではコントロールできない出血合併症が発生しうるというのは、しかも病院内で発生するのは、恐ろしいことです。治療しているのかなんなのかわからなくなってきます。心タンポナーデ胸腔内輸液など重篤な循環不全を来す合併症が起こるのもCVCの特徴です。「CVCでは事故は起こるもの」と昔はよくささやかれたものですが、今ではそんなことをいう人は誰もいません。CVCで事故はできるだけ防がなくてはならない、防ぐことができる。それがコンセンサスでしょう。

さらに目立つのは、透析用のブラッドアクセスカテーテルが関係する事例が推定を含め14件あり、全件数を分母とすると25%、実に1/4を占めています。その理由はおそらくブラッドアクセスカテーテルはダイレータとカテーテルが長く、太く、硬いというキットの特性があり、一般のCVカテーテルより穿刺挿入時の血管損傷リスクが高いためだと考えられます。しかも太い分、抜去時の空気塞栓のリスクも高く、そうした事例も実際に発生しています。ブラッドアクセスカテーテルの取り扱いに関係する診療科は、より一層綿密な安全対策が必要だということを示唆しています。

エコーを使用したと記述された事例はわずか2件、その一方で処置中に長針を使用したと推定される事例が26件あり、看護師が当事者になった5例と抜去時/抜去後7例を除いた45件を分母とすると、58%もあります。実際はこれよりも多いと推定します。長針はまた太い径の穿刺針であった可能性も高いです。この「太く、長い」穿刺針は当然合併症のハイリスクになるとともに、合併症が実際に発生した場合の組織傷害性が強く重傷化しやすいといえます。さらに、もしX線透視化で実施していたら防げたかもしれない事故が推定69%もありました。

このような集計から、事故が発生する場合のある傾向が見えてきます。

  • 頚部からの穿刺
  • エコーを使用せず
  • 長針・大径針で穿刺
  • 動脈穿刺となり
  • 重大な出血性合併症に至る

というパターン、それから

  • X線透視下で実施しない
  • ガイドワイヤー・カテーテルの誤留置や迷入、ガイドワイヤー類の遺残を見逃す

というパターンです。

そのほか、

  • カテーテルキットの使用方法を熟知していない
  • 出血性合併症のリスクの認識不足
  • バイタルサインの変化や患者の訴えを軽視する
  • ブラッドアクセスカテーテルで事故の深刻度が増す
  • カテーテル先端位置の確認不足
  • トラブルシューティングの失敗
  • 接続部の管理不十分
  • 抜去時の空気塞栓のリスクに対する認識不足

などの不備が浮かび上がってきます。となると、CVCでは合併症は起きるものだ、ある確率でどうしても発生してしまう、と、最大限の努力にもかかわらず発生する不可抗力のように語られるのは正確ではなく、合併症が起きやすい要素が排除しきれていないことによる、当然の帰結であるとすらいえるのではないでしょうか。

まずこれらの失敗から学んで、CVC安全体制構築にむけてどのように生かしていくか考える必要があります。それは“CVC安全体制の要件”の章で具体的で基本的なCVC実施体制づくりについて検討します。

こうした事例から見えてくること、それは、CVCの安全対策とは“救命医療”である、ということです。

以前ある施設で、CVCに関する有害事象が発生し、刑事および民事訴訟になった事例がかつてありました。当事者は警察署で事情聴取を受けることになるのですが、どういった内容の質問事項があったかを当時の関係者の方から聞きました。それは、

  1. 説明はきちんとしたのか?
  2. 術者の経験は十分か?
  3. 自施設内の年間CVC総数と合併症発生率はどのくらいか?
  4. マニュアルを遵守しているか?
  5. 安全対策はしているのか?

ということだったようですが、こうした質問に当事者と病院関係者はひとつも答えられなかったということです。そうした基礎的な資料や院内ルールが明文化していなかったからです。とはいってもその当時、CVCの安全対策は全国平均的に希薄で、全数調査も行っていないのが普通でした。こういう質問をされても、どこの病院も答えられなかったでしょう。しかし、これらの質問は事故の状況を調べる際にはだいたい「当たり前」の常識的な質問でもあります。昔は仕方がなかったとしても、これからなにか事故があった場合に、最低限こうした質問に答えられる体制が作られている必要があります。それに答えられなければ、適切な体制下でCVCは実施されていなかった、したがって過誤が存在している、と決めつけられかねないのです。係争という面では、非常に不利な立場に置かれてしまいます。また逆に言えば、最低でもこれらを説明できる体制を作り、CVC実施状況を全数調査しておくことが、CVCを実施する上での適切な施設基準だともいえます。

ちなみに1は、口頭での説明だけでは不十分で、CVCのおいても統一化され明文化された同意書・説明書をしっかり運用することを求めているということです。2はこれを証明する資料が必要になるということですが、実際の症例以外では研修教育受講歴、認定制度があればその記録の一部にあてることはできるでしょう。3は個人としては答えられず、病院として全数調査を行い、集計作業を行っているかどうかを問題にしています。4は逸脱行為がなかったかどうかの問題ですが、基準、すなわちマニュアルやガイドラインがなければ逸脱かどうかも判断できないので、文書化し整備しておく必要があります。5は具体的にどのような対策がなされているかが説明できなければならないことを表しています。そうした取り組みを行う責任部署が確立していることが望まれます。

MEMO

医療における”質中心経営”の重要性 東京大学名誉教授 飯塚悦功氏

品質専門家が感じた医療界の不思議

──品質の専門家である飯塚先生が医療分野の質・安全に携わるようになった当初、不思議な世界だと感じられたとのことですが。
飯塚  はい、感じました。1つは品質概念の希薄さです。普通の工業製品の場合、良いものをつくると儲かります。その設計・製造工程を合理的にするとコスト削減ができるので品質の良いものは安い。しかも顧客ニーズに合っているから売れる。そういう観点で言えば、お客様が何を望んでいるかをきちんと考えて行うことは良いことなのです。ところが、病院には素晴らしい先生がたくさんいますが、患者が何を本当に望んでいるのか、何のために何の仕事をしているかについて、きちんと考えているのだろうかと感じました。
2つ目は、あまりにも個人技に頼りすぎていることです。赤ひげとかナイチンゲールという素晴らしい人に頼ってばかりでは非常に危険です。品質管理では、誰でもとまでは言いませんが、8割ぐらいの人が適用可能な方法論をつくって、それを組織的に動かし、質の良いものをつくる。医療でもシステムやプロセスをもっと重視するとよくなると思いました。
3つ目は、普遍化技術の軽視ということで、「技術普遍化技術」を確立することが必要だと思いました。これは私の造語です。最初の技術は目的を達成するための再現可能な方法論。普遍化は誰でもできることで、ある程度教育を受けて技能を持っている意欲のある人なら自然体でできる。最後の技術が方法論。つまり、どうすればよいかわかっていることを自然体で実施するための方法論です。
私たちは、普通の工業製品1万個を安定してつくるため、人を教育・訓練し、工程をつくって実施しても、ほとんど良品であるという状況をつくるのは極めて難しいことを知っています。医療界では、ブラックジャックやゴッドハンドに憧れてさまざまな研究をしたり、技術を磨き、素晴らしい医者になりたいと思う先生も多数いらっしゃるようですが、私にすれば初期の胃がんを完璧に手術する技術、1万例やっても間違いなくできる技術こそが重要だと思うのです。ところが、なかなかそれを重要だと思わない。私はABCと言っていますが、「(A:あ)当たり前のことを、(B:ば)馬鹿にしないで、(C:ち)ちゃんとやる」 ことが医療安全のためにも不可欠であると思います。
4つ目は同情で、改善・改革へのインセンティブの少ない世界だということです。工業製品の場合は、質の良いものを合理的につくって売れば儲かる。さらに儲かった利益を投資すれば、ますます良いものができる。ところが、病院の場合はそういう投資をしても、その見返りがすぐに来ない。インセンティブがない中で、よくやっていらっしゃると思います。(平成25年4月27日)

(出典:TKC全国会 医業・会計システム研究会