原因・機序

  • CVカテーテル等(Swan-Ganzカテ-テル、透析用カテーテル、血管アクセス用シースなどを含む)の穿刺挿入時に大気圧に開放された穿刺針、カニューラ、カテーテル、シースから空気が静脈に流入する。胸腔内は陰圧であり、上半身の大血管が大気圧に解放されると空気を引き込みやすい。
  • 多量の空気が急激に心腔内に流入すると、泡が形成され、その結果として“intracardiac airlock effect”が生じ右室から肺動脈への血流を阻害する。
  • 自己抜去によりカテーテルが抜去されるか切断され、空気が抜去部や切断カテーテルを通して静脈内に流入する。
  • 患者ケア中の処置で、はさみやかみそりなどでCVカテーテルが切断され、空気が切断カテーテルを通して静脈内に流入する。
  • 輸液回路の交換時、三方活栓操作時、CVカテーテル操作時に空気が静脈内に流入する。
  • カテーテル抜去後に挿入部が密閉されていないこと、座位・半坐位・立位・歩行によって胸腔内圧が低下または陰圧となることが要因で空気が静脈内に流入する。挿入部はろう孔化していると流入しやすい。
  • 吸気時に抜去すると胸腔内圧が陰圧となり空気が静脈内に引き込まれやすくなる。
  • 透析の回路交換や回収の際、空気で返血を行った場合に空気が静脈内に流入する。
  • 透析回路中の微小な気泡が静脈系に流入する。
  • 輸液ラインが外れたところから空気が静脈内に流入する。
  • 胸部外科/心臓血管外科の手術中の静脈損傷から空気が静脈内に流入する。
  • 肺生検の際に空気が静脈内に流入する。
  • 非陽圧換気・大呼吸・頻呼吸・血管内脱水・CVP低値で空気は静脈内に引き込まれやすい。
  • 特発性間質性肺炎など肺動脈圧が高い場合、左心系への空気の通過が発生する場合がある。
  • 開存卵円孔(人口の20~30%に存在)・肺内シャント(肺動静脈奇形;pulmonary arteriovenous malformation PAVM、肺動静脈ろう)・心房中隔欠損・心室中隔による右→左シャント、肺空気塞栓から右心負荷となり卵円孔が開存する機序などがあると、静脈内に流入した空気が動脈系に流入する場合がある。
  • 多量の空気流入+血管拡張剤・麻酔薬の投与による肺内血管床の空気の通過があると空気が動脈系に流入する場合がある。
  • 静脈系に流入した空気がなんらかのシャントを通じて動脈系に移動し脳動脈に塞栓した場合、脳空気塞栓を発生させる。この場合奇異性脳空気塞栓と呼ばれる。
  • 静脈系に流入した空気が内頚静脈から脳内の静脈に逆行性に流入する。45度のヘッドアップでは0.2L/minの速度で流入しうる。(逆行性脳空気塞栓)
  • Swan-Ganzカテーテルの先端バルーンの破裂により空気が流入する。
  • 開放性血管損傷・気胸を伴う肺血管損傷で空気が静脈に流入する。
  • CVカテーテル挿入時の多数回穿刺で空気が静脈に流入することがある。
  • 新生児では器械呼吸によるair leak phenomenonで空気が静脈内に流入することがある。
  • v-v ECMO稼働中に気管切開術を施行する際に、切離面の静脈からv-v ECMOの陰圧により空気が引き込まれることがある。
  • v-v ECMO稼働中に上大静脈に留置されたCVカテーテルの接続不良があると、v-v ECMOの陰圧により空気が引き込まれることがある。

合併症が発生したことを示す所見

  • 空気の流入する笛声音が聞こえることがある。
  • 呼吸困難、頻呼吸、持続する咳、胸痛、胸部圧迫感、恐怖感、破滅の予感、前胸部のcrunching sensation(じゃりじゃりするような感覚)を自覚する場合がある。
  • 胸部の聴診でmill wheel murmur(水車が回るような音)、washboard type of sound(洗濯板で洗濯をするような音)、wheeze、grinding(摩擦音)、churning(撹拌音)を聴取することがある。
  • 脳空気塞栓症の場合を含め、チアノーゼ、低酸素血症、sO2低下、頻呼吸、けいれん、意識障害、失神、片麻痺、もうろう状態、脱力、失語、興奮、動揺、昏迷、昏睡、頭痛、蒼白、共同偏視、不整脈、肺高血圧、徐脈、頻脈、心不全、血圧低下、ショック、心停止などが発生する場合がある。
  • 胸部X-p、胸部CTで肺動脈または心臓内に空気を認める。
  • X線透視下で空気が血管内を移動する像が見られることがある。
  • エコーで心臓内の空気が描出される。
  • 脳梗塞同様の神経学的異常が出現し、頭部CTで血管内に空気が認められることがある(奇異性脳塞栓、逆行性脳空気塞栓)。
  • 奇異性空気塞栓の場合、頭部CT/頭部MRIで脳梗塞の所見が現れる。

鑑別・検査

  • バイタルサインの変化(sO2低下、血圧低下、不整脈)
  • 聴診(mill wheel murmur、washboard type of sound)
  • 胸部X-p、頭部CT、胸部CT、経胸壁心エコー/経食道エコー(心腔内の空気は白く雪が舞うように見える)
  • 心電図(冠動脈疾患の否定、ST変化、S1Q3T3パターン、右心負荷所見)
  • 血液ガス分析(低酸素血症と低炭酸ガス血症の併存)
  • 採血(心原性酵素の非上昇の確認)
  • 突然のEtCO2低下が肺(空気)塞栓の最も早い所見となる場合がある。

起こりうる臨床経過

  • 空気が大量であれば肺循環が空気で塞栓されて障害されるため急性呼吸循環不全を来たし致死的となる。
  • 血管内の流入が成人で100(200)~300ml(または3-5ml/kg)だと致死量。
  • 14Gのカテーテルにわずか5mmHgの圧力勾配があると1秒間に100mlの空気が引き込まれ致死的(PL Marino.稲田英一 監訳 ICUブック. メディカルサイエンスインターナショナル; 第4版 p28)
  • 15Fr(外径5mm)のpeel-awayシースを使ってカフ型透析用カテーテルを挿入する際、0.5秒で300ccの吸気が循環系に流入する可能性がある。
  • 2~3mlの脳循環への注入で致死的となる。
  • 冠動脈への0.5mlの注入で心室細動が発生する可能性がある。
  • 静脈塞栓でショック又は心停止が起こるのは5ml/kg以上。20mlの流入でなんらかの障害が発生する可能性がある。
  • 脳空気塞栓となった場合、一過性ないし恒久的な神経学的異常を来す。
  • 空気による塞栓、血管攣縮、血小板の活性化による血栓形成などにより、血流障害が発生しうる。
  • 肺の血管床末梢に空気が塞栓することより血管攣縮が起き、肺高血圧から好中球の活性化や血管透過性の亢進などの過程を経て、気道抵抗の上昇、肺コンプライアンスの悪化、酸素化の悪化、呼吸不全へと至る可能性がある。
  • CVCによる空気塞栓の発生率は0.1~2%
  • 急性期死亡率は21.7%、完全回復率は40.6%、生存者の約半数は何らかの神経学的異常を伴う。
  • 脳空気塞栓の死亡率は23%

対処・拡大防止措置

  • 頭低位+左側臥位(Durant’s maneuver)とし空気を右室心尖部に集め肺動脈への流入を防止する。
  • 留置したCVカテーテルやバーマン・カテーテルから空気の吸引を試みる。
  • 100%酸素吸入を行うことで窒素の吸収促進を図る。
  • 全身状態・意識状態を評価し可能であれば高圧酸素療法(HBO)を実施する。
  • 輸液を負荷し循環動態の安定化を図る。
  • 上半身から挿入されていたCVラインが事故抜去された場合、すぐにベッドを平らにする。左側臥位や頭低位も検討する。
  • 空気塞栓が発覚した場合、循環器内科にコンサルトする。
  • 心停止した場合は蘇生処置を行う。胸骨圧迫により気泡が粉砕され肺動脈末梢に移動することで循環が改善する場合がある。
  • 重症化した場合、気管挿管・人工呼吸器管理やPCPS(V-A ECMO)導入を検討する。
  • ICUでの全身管理を検討する。

合併症の重篤度

  • 5:死亡する確率が多分10%以上

予防法

  • 咳を頻回にする、血管が虚脱傾向である、大呼吸、頻呼吸、心不全で長時間安静臥位になれない、せん妄・不穏でドレシングを自己抜去しやすい、など、空気塞栓のhigh-risk患者を認識し、CVカテーテルの穿刺挿入時/抜去時は特に注意する。
  • 肺高血圧、特発性間質性肺炎、肝硬変など肺動脈圧の高い患者をハイリスク群として識別し特に注意する。
  • CVC実施中および維持管理中のすべての過程で、針やカテーテルは大気圧になるべく開放しない。
  • CVカテーテルの穿刺挿入でスルー・ザ・カニュラ法などの太い穿刺針は多量に空気が流入するリスクとなるので避ける。
  • 輸液ラインの接続部、三方活栓などのゆるみや大気への開放がないか、つねにチェックする。
  • 接続部のプラグがゆるみやすい器材でないかどうか、検証する。
  • カテーテル抜去時は臥位またはTrendelenburg体位で、息止めをさせて抜去する。座位やヘッドアップした状態では絶対に抜去しない。息止めが困難な場合は呼気時に抜去する。抜去後しばらく圧迫し(約5分)、刺入部に通気性のないドレッシング材を少なくとも24時間(最大72時間まで)使用して穿刺部をカバーする。18.抜去参照
  • 抜去時の息止めが強すぎると、もしも空気が流入した場合、ハイリスク群では右心系の圧が上昇し左心系に空気が流入するリスクがあることに注意する。
  • 息止めをさせて抜去した場合、苦しくなって急に大きく吸うと強い陰圧がかかり、むしろ空気が引き込まれやすくなることに注意する。
  • 座位で抜去後ガーゼ保護だけですぐに歩かせる、という抜去の方法は絶対に行わない。
  • 圧迫止血後約30分から2時間は安静を保つ。
  • カテーテルの長期留置で刺入部はろう孔化しやすいため抜去時は特に注意する。

院内準備体制

  • HBO(高圧酸素療法)が利用できることが望ましい。設備がなければ、HBOの設備が設置されている近隣施設をあらかじめ把握しておく。
  • 院内急変対応システムが常時稼働していること。
  • ICU部門があること。

参考資料

  • 空気塞栓:重傷外傷時に鎖骨下穿刺でCVライン確保を試みたあとに撮影されたCTで、右心室内に多量のairが確認された。
  • 出典: New England Journal of Medicine 350(19):e17 · June 2004

  • 奇異性脳空気塞栓:頭部CTで脳血管内に散在している空気の像と右大脳半球の広範囲な虚血の所見が認められる。Han SSKim SSHong HPLee SYLee SJLee BKMassive paradoxical air embolism in brain occurring after central venous catheterization: a case reportJ Korean Med Sci 2010251536‐ 8.

 

  • 医療安全情報では注意喚起がなされている。

med-safe_130 air embolism

 

med-safe_113 air embolism

 

座位による中心静脈カテーテルの処置に関連した事例

医療事故情報収集等事業 第 43 回報告書 (2015年 7 月~ 9 月)

報道事例

首の静脈の管、抜き取る際誤って空気注入し死亡  2013.7.10 読売新聞

〇〇病院で今年1月、透析治療を受けていた静岡市の無職男性(当時83歳)の首の静脈に挿入された管(カテーテル)を抜き取る際、誤って静脈に空気を注入させる医療事故が起きていたことがわかった。男性は約1か月後、脳空気塞栓(そくせん)症で死亡。同院は遺族に医療ミスを認め、慰謝料など計約2000万円を支払う意向を示しているが、事故を公表していない。遺族は同院に損害賠償を求める訴訟を起こすとともに、県警に業務上過失致死容疑で刑事告訴する方針だ。同院が遺族に提出した資料によると、今年1月21日、急性腎不全を患い同院に入院していた男性の透析治療を終わらせるため、首の静脈に挿入されたカテーテルを抜いた。男性は約10分後、病室へ戻る途中に意識を失い、検査の結果、脳空気塞栓症と診断された。男性は市内の別の病院に搬送され、治療を受けたが意識は戻らず、2月22日に死亡した。搬送先の病院が作成した死亡診断書では、死因は「透析用カテーテルを抜いた時に発症した脳空気塞栓症」だった。遺族の代理人の青山雅幸弁護士によると、遺族は3-4月頃、〇〇病院側から「カテーテルを抜いた際の事故と考えている」と説明され、謝罪された。そのうえで、慰謝料や葬儀代を含む計約2000万円の賠償金を提示され、「今回の事故は和解でお願いしたい」と求められたという。同院医療安全管理室は9日、読売新聞の取材に対し、男性が院内で脳空気塞栓症を発症し、死亡した事実は認めたが、「個別の患者に関するコメントは差し控えたい」とした。同室によると、同院では医療事故の公表基準が明文化されておらず、公表するか否かは「調査結果を踏まえ、院長が判断する」という。今回の事案については「総合的に判断した結果、公表しなかった」と説明した。一方、男性の長男は「別の病院へ搬送する対応も遅かった。医療事故を慰謝料で片付けようとしている。『県警に事故を届け出る』と伝えても公表せず、誠実な対応ではない」と話している。

 

〇〇病院で腎移植の患者死亡 業務上過失致死容疑で捜査 2012.10.24 産経新聞

〇〇病院で昨年11月、生体腎移植を受けた男性が手術の9日後に死亡していたことが24日、関係者への取材で分かった。体内からカテーテルを抜いた直後に容体が急変しており、警視庁〇〇署は業務上過失致死容疑で、医師らから事情を聴いている。遺族側代理人によると、死亡したのは〇〇地方に住む60代の男性。重度の腎不全のため、昨年10月29日に妹をドナーとする腎移植手術を受けたが、11月3日に医師が静脈カテーテルを抜いた直後に心肺停止状態となり、7日に死亡した。主治医は遺族に「カテーテルを抜いたことが原因になったかもしれないが、他に主因がある」などと説明。男性を火葬する直前に、遺族に「医療ミスがあったので、遺体を確認したほうがいい」と匿名の情報提供があり、遺族が同署に相談していた。同署が司法解剖した結果、死因は肺動脈に空気が詰まる「肺動脈空気塞栓(そくせん)症」だった。代理人によると、通常、カテーテルを抜く際は空気が入ることを防ぐため、患者をあおむけにする必要があるが、当時、男性はあぐらをかいた状態で処置を受けたという。同署は処置と死亡との因果関係を慎重に調べている。日本移植学会は同病院に対し、調査委員会の設立と調査終了までの移植手術の中止を勧告した。同病院は産経新聞の取材に「調査委員会の結論が出るまで何も話せない」としている。

 

カテーテルから空気入り男性死亡 〇〇の病院 2010.3.19 毎日新聞

〇〇センターは19日、入院していた80代の男性が、カテーテルから体内に空気が入り込む医療ミスで死亡したと発表した。カテーテルの連結部が緩み、心臓などに空気が混入し窒息死した可能性が高いという。センターから異状死として届け出を受けた県警〇〇署は業務上過失致死容疑で調べている。センターによると、男性は2日、下部胆管がんの手術を受け、首から静脈に約10センチの深さでカテーテルを挿入された。看護師が6日夕、カテーテルの連結部が緩み、輸液が漏れているのに気づいて締め直したが、約10分後に容体が急変し呼吸が停止。12日に死亡した。心臓に空気が入っていたことがCT検査で判明したという。看護師は輸液漏れに気付く15~30分前にも確認していたが、異常はなかった。××院長は記者会見で管理ミスを認め、「患者が動くなどし連結部が緩むことはあるが、空気が入り込んで患者が亡くなるケースは聞いたことがない。男性と遺族に深くおわびしたい」と話した。