原因・機序

  • 頚部、鎖骨下、鎖骨上から穿刺した際に動脈穿刺となり、巨大血種が形成されることで気道を圧迫し換気不能になる。
  • 動脈カニュレーションとなった後にカテーテルをそのまま抜去し、血種が形成される。特に透析用カテーテルなど大口径のカテーテルでは血種形成のリスクが増大する。
  • 総頚動脈、椎骨動脈、鎖骨下動脈の動脈誤穿刺後に巨大仮性動脈瘤が形成され、気道が圧迫されることがある。
  • 血小板数減少や出血傾向が基礎にあるか、抗凝固療法中、抗血小板剤投与中であると、出血のリスクが増大する。
  • 頚部に加え、縦隔で出血し巨大血種が形成された場合も気道閉塞となりうる。
  • 動脈誤穿刺後の圧迫止血が不十分で、時間がたってから血種が増大する場合がある。
  • 動脈誤穿刺後に圧迫止血が成功した場合でも、数日後から抗凝固療法を開始ないし再開した際に再出血し血種が増大する場合がある。
  • 出血性合併症の二次的な帰結
  • ヘパリン、ワルファリン等、抗凝固療法中では出血リスクが高まる。
  • 血種による内頚静脈とリンパ流の閉塞により、咽頭・喉頭の浮腫が生じ、それによって気道が閉塞するという説もある。

合併症が発生したことを示す所見

  • 頚部が腫脹してくる。ただし、咽頭・喉頭浮腫による気道閉塞の場合、外観では腫脹がみられないか過小評価することがある。
  • 喘鳴、気道狭窄音が聴取される。
  • 肺野の呼吸音が減弱する。
  • 呼吸苦の自覚症状が現れる。
  • 胸郭の挙上が減弱し、奇異性呼吸(シーソー呼吸)が現れる。
  • チアノーゼが現れる。
  • sO2が低下する。

鑑別・検査

  • 単純レントゲン写真や頚胸部CTで気管の偏位がみられる。
  • 頚胸部CTや頚部エコーでは巨大血種や仮性動脈瘤が認められる。
  • 血液ガス検査では低酸素血症と高炭酸ガス血症の窒息パターンがみられる。
  • 血管造影で血管外漏出を認める。
  • 仮性動脈瘤では血管雑音を聴取することがある。

起こりうる臨床経過

  • 窒息から低酸素脳症となる場合がある。
  • 窒息・低酸素血症から死亡する場合がある。
  • 血種による神経圧迫症状(反回神経麻痺、嗄声)などが現れることがある。

対処・拡大防止措置

  • 動脈誤穿刺した場合は10分以上圧迫止血する。
  • 窒息する前に気管挿管し気道を確保する。ただし、舌根、咽頭、声門などが浮腫状または偏位していた場合は、気管挿管は非常に困難になる。
  • 気道確保が困難であれば、緊急気管切開、輪状甲状間膜切開、ミニトラック挿入などの緊急気道確保処置を行う。
  • 仮性動脈瘤形成時は外科的切除、カバードステント、仮性動脈瘤内へのトロンビン注入、塞栓術などを検討する。
  • 仮性動脈瘤は経時的に増大する傾向があるので、できるだけ早期に診断し早期に対応することが重要である。

合併症の重篤度

  • 5:死亡する確率が多分10%以上

予防法

  • 出血傾向のリスクをあらかじめ評価し、リスクが高い場合は穿刺挿入部位などを再検討する。
  • エコーガイド下穿刺で実施し、動脈穿刺を避ける。
  • 可能な限り短針を使用し、深部の動脈誤穿刺を回避する。
  • 太い穿刺針は侵襲度が高いため使用を避ける。
  • 動脈カニュレーションを防止するため、ガイドワイヤーの静脈内留置をエコーを使用したポストスキャン、またはX線透視で確認する。

院内準備態勢

  • 急変対応できる環境下でCVCを実施すること。
  • 院内救急体制が常時稼働していること。

参考資料

  • 頚部血種、気道閉塞:出血傾向のある患者に対して透析用カテーテルを右内頚静脈に挿入しようとして動脈誤穿刺し頚部に巨大血腫が形成された。血腫による気道偏位・気道圧迫から気道緊急となり気管挿管で気道確保に成功。数日後後遺症なく抜管。

 

報道事例

医療ミス:〇〇病院で 13年、血管疾患の男性死亡 2015.1.20 毎日新聞社

〇〇病院は19日、2013年に血管疾患で入院していた60代の男性の頸(けい)動脈に誤ってカテーテルを差し込むなどし、男性が死亡する医療事故があったと発表した。同病院内で記者会見した××病院長や△△副院長らによると、事故は同年8月下旬、男性に幹細胞移植をするため血液から必要な成分(幹細胞)だけを採取していた際に発生。カテーテルを誤って差し込んで頸動脈を傷つけた上、血液凝固を防ぐ薬剤(ヘパリン)を過剰に使ったため出血が止まらず、首に縦約20センチ、横10センチの血腫ができた気道閉塞(へいそく)が死因となった。処置は5年目の血液内科医と2年目の研修医が担当。頸動脈を2回傷つけたのを確認したため5分ほど圧迫して止血し、ヘパリンを投与して処置を続けた。その後、看護師が首がやや膨らみ出血の可能性があることに気付いたが、そのまま放置した。男性は約9時間後に呼吸困難になり、間もなく心拍が停止。緊急蘇生チームの気管切開手術で心臓が動き出したが、意識不明のまま11日後の9月上旬に多臓器不全で死亡した。××病院長は「気道閉塞に対して迅速な対応ができなかったことが、この結果を招いた」と謝罪した。事故については、病院から届け出を受けた〇〇署が業務上過失致死容疑で捜査し、「死因とミスに因果関係はない」として捜査を終了している。

 

<医療ミス>カテーテル挿入で動脈損傷 〇〇病院 2004.2.3 毎日新聞 

〇〇病院で先月、関東地方の60歳代の女性入院患者に、検査目的で鎖骨下の静脈に針を入れようとして、誤って動脈を傷つけたため内出血。女性が一時心停止になっていたことが2日、分かった。気道確保で女性の心拍は再開、現在の容体は安定しているという。病院は家族に謝罪し、第三者を交えた事故調査委員会で詳しい原因を調べる方針。同病院によると、事故があったのは1月31日。内科の医師が、検査用のカテーテル(細管)を挿入するため、鎖骨の下の静脈に針を刺そうとしたところ、動脈を傷つけて出血。血腫で気道が圧迫され窒息状態になった。同病院は「鎖骨下は動脈と静脈が交互に走っている場所。微妙な角度のズレで血管を傷つけてしまった可能性がある」と話している。

 

29歳の内科医を書類送検 医療ミスで患者死亡させる 2003.10.3 共同通信

〇〇署は3日、誤って動脈にカテーテルを挿入して患者を窒息死させたとして、業務上過失致死の疑いで、現在〇〇病院に勤務する男性内科医(29)を書類送検した。調べでは、医師は〇〇病院で勤務当時の5月8日午後5時40分ごろ、血栓が固まる病気で入院中の女性患者―当時(64)-を治療する際、動脈と静脈を間違えてカテーテルを挿入。動脈から出血した血液が気道を圧迫し、女性を約3時間後に窒息死させた疑い。

 

透析ミス?出血で男性患者死亡 2001.2.26 読売新聞

〇〇病院で1月、じん不全を起こした〇〇市内の80歳代の男性患者に透析を施す際に、泌尿器科の医師がカテーテル(管状の医療器具)を挿入して誤って動脈を傷つけ、患者が急死していたことが26日分かった。〇〇署は業務上過失致死の疑いもあると見て捜査している。病院スタッフはそ生処置を行ったが、男性が高齢のため動脈硬化が進み効果がなかったという。病院側は、動脈からの出血で気道が圧迫されたことが直接の死因としている。