原因・機序

  • 試験穿刺または本穿刺において動脈を誤穿刺する。その後カテーテルを動脈に挿入した場合は動脈カニュレーションとなる。
  • 静脈を穿刺した後、静脈の後壁穿刺となり、その背側にある動脈まで穿刺する。
  • 静脈を穿刺しガイドワイヤーが静脈内に挿入留置されたあと、ダイレーターでガイドワイヤーごと動脈まで穿通してしまう。
  • 大径の穿刺針は穿刺抵抗が強く、一気に後壁穿刺となりやすく、動脈誤穿刺のリスクが増大する。
  • 穿刺しうる動脈は、頚部からのアプローチ:総頚動脈、椎骨動脈、鎖骨下動脈、上甲状腺動脈、下甲状腺動脈、甲状頚動脈など、鎖骨下からのアプローチ:腋窩動脈、鎖骨下動脈、胸肩峰動脈とその分枝など、鼡径からのアプローチ:大腿動脈、外陰部動脈、死冠(閉鎖動脈の恥骨枝と下腹壁動脈の恥骨枝が交通し、ときとして太くなっている場合の動脈)などである。

合併症が発生したことを示す所見

  • 穿刺吸引血が動脈血の色(鮮紅色)である。
  • 逆流血が拍動性ないし勢いがある。
  • 刺入部が血腫で腫脹する。
  • 吸引血のBGA所見が動脈血である。
  • 頚部血腫が増大すると気道の閉塞症状(呼吸困難感、嗄声、頻呼吸、sO2の低下、pO2低下/pCO2上昇など)が出現することがある。
  • 輸液ライン接続時に自然滴下せず逆流する。
  • 圧ラインに接続したときの波形が動脈波形である。
  • エコー画像上、ガイドワイヤーやカテーテルが動脈内にある。
  • X線透視下で、ガイドワイヤーやカテーテルの挿入経路が動脈である。
  • X-p・CTでカテーテル先端位置が動脈内にある。
  • CTで穿刺部付近に血腫が見られ、周辺構造の偏位がある。
  • 造影CTで血管外漏出の所見がある。
  • 頻拍、血圧低下など循環動態の悪化所見が出現する。

鑑別・検査

  • 身体診察、生体モニター、X線透視、X-p、CT、エコー、BGA、圧ライン接続

起こりうる臨床経過

  • 血胸、縦隔血腫、後腹膜血腫、動脈損傷から循環血液量減少性ショックとなる場合がある。
  • 血腫、仮性動脈瘤から気道閉塞・窒息、神経損傷などを引き起こす場合がある。
  • 動静脈ろうとなる場合がある。
  • 大動脈解離に進展することがある。
  • 動脈カニュレーションを抜去した際に多量に出血し、血胸になったり巨大血腫形成から気道閉塞となることがある。
  • カテーテルが上行大動脈に侵入し、人工弁を破壊し機能不全となり、急性左心不全を来すことがある。
  • ショック・低酸素血症が基礎にある場合、動脈穿刺を示す所見が乏しいと、その認識が遅れ、重篤化する場合がある。
  • 凝固止血異常、抗凝固療法中、抗血小板剤内服中などの場合に動脈穿刺すると、止血困難となりやすい。
  • 肝硬変・尿毒症は凝固止血異常のリスク要因であるので、止血困難となりやすい。
  • 総頚動脈穿刺や大動脈内へのカニュレーションで、血栓形成から脳梗塞を引き起こす場合がある。
  • 胸郭の壁側胸膜を穿刺していなくとも、局所の血腫形成から胸腔に穿破し血胸となることがある。
  • 動脈カニュレーションに気付かず刺激性薬剤を投与した場合、末梢組織の虚血・壊死などに進展する可能性がある。
  • 椎骨動脈カニュレーションから血栓症となり脳幹梗塞に進展する場合がある。

対処・拡大防止措置

  • 穿刺針を抜去後、止血が完了するまで刺入部を圧迫する。圧迫時間は抗凝固の有無や患者の状態に応じて調節する。ただし、血腫が巨大化した場合には圧迫止血効果は減弱する。
  • 動脈カニュレーションを疑った場合、血液ガス分析、すべてのルーメンでの血液の色・逆流の状態を確認、圧ラインに接続、すぐにX-pを撮影するなどで早期に確認し、対応する。
  • 動脈カニュレーションとなった場合、すぐに抜去せず血管外科にコンサルトする。
  • 動脈損傷の程度によっては外科的血管形成術を検討する。
  • 血腫形成の有無を経時的に観察する。
  • 血種が形成された場合、増大程度を経時的に観察する。
  • 血腫が胸腔に穿破する可能性を考えて注意深く観察する。
  • 動静脈ろうを形成した場合や出血がコントロールできない場合は手術や塞栓術を考慮する。
  • 循環動態や臓器潅流に影響があれば輸液・輸血する。
  • 凝固止血異常があれば血小板輸血、FFP投与を検討する。
  • 動脈穿刺後に抗凝固薬は投与しない。
  • 重症化した場合、ICUへ移送する。
  • 血種による気道閉塞が切迫している場合は気管挿管を行う。
  • 血種による気道閉塞時は迅速に気管挿管するか緊急気管切開・穿刺を考慮する。ただし、こうした場合、気管の偏位などにより気管挿管は通常、難易度が高いため、麻酔科に協力を求める。
  • カバーステントによる血管内治療を検討する。
  • 末梢組織の傷害が生じた場合は形成外科にコンサルトする。
  • 仮性動脈瘤が形成された場合、コイル塞栓や手術治療が必要となる場合がある。

合併症の重篤度

  • 4:死亡する確率は多分10%以下だが死亡する例がある。
  • 動脈穿刺の発生率は4.2~9.3%
  • 血腫の発生率はすべての穿刺部位で4.7%以上。

予防法

  • 穿刺部付近の動脈の走行や分枝の解剖学的知識を深める。
  • 傷害程度軽減のため大径の穿刺針の使用は避け、穿刺針は皮下では横に動かさない。
  • 深部の動脈誤穿刺を防止するため、基本的に短針での穿刺を選択し、高度肥満など例外的な場合に限り、長針の使用を検討する。
  • 凝固異常、肝硬変、腎不全、抗凝固療法中、抗血小板剤内服中の患者では慎重にCVCの適応を検討する。
  • エコーガイド下穿刺・X線透視下での実施を推奨する。
  • 肥満などでランドマークが不明瞭な患者でのランドマーク法穿刺は慎重に検討する。
  • ダイレーター挿入時、ガイドワイヤーが折れて血管を損傷していないかどうか、頻繁にガイドワイヤーをスライドさせて確認する。

院内準備体制

  • 血液製剤投与が迅速に可能であること。
  • 血管外科的対応が可能であること。
  • ICU部門があること。
  • 緊急気管挿管ができること。
  • 止血が適切にできること。
  • 院内急変対応システムが常時稼働していること。
  • 動静脈の解剖に精通していること。

参考資料

<動脈性出血の圧迫止血に関するpitfall;模式図>

①血管(ホース)に穴が開いて、持続的な出血をしている場合、まず圧迫で止血を試みることになる。

②血管壁に開いた穴を直接圧迫するならば、指先一本でも止血はできる。しかし経皮的な穿刺手技ではこうした止血方法はできない。

③体表面から間接的に出血点を圧迫することになるが、出血直後で、圧迫の圧が十分高ければ止血できる。通常、このように圧迫止血する。

④しかし、間接的な圧迫止血を開始するまでに長時間経過すると、その分だけ血腫(水風船)が出血点付近の皮下に形成される。

⑤そこから間接的な圧迫をしても、圧は血腫を介して出血点に伝わるので、圧迫効果は減弱する。

⑥圧迫効果が減弱しているのでじわじわと出血してくる→血腫が増大する→圧迫効果がさらに減弱する、という悪循環に陥る。凝固異常が併存していれば、この過程がさらに加速する。

⑦ついに、圧迫をいくら強めても出血が止まらないといったコントロール不能状態になり、血腫が他の器官を圧迫する(→気道閉塞、神経損傷)。多量の出血で出血性ショックとなったり、胸腔に穿破することもある。

⑧動脈誤穿刺しても「押さえれば大丈夫」という考えが先行していると、このようにコントロール不能の出血性合併症に進展する可能性がある。一度血腫が形成されてしまうと圧迫止血が困難になり破滅的な結果になる可能性を認識しておくことと、動脈穿刺したとしても、どんな小さい血腫も作らないで止血するつもりでいることが重要。

 

  • ダイレーターによる血管損傷、動脈カニュレーションのモデルの一例:ダイレータの挿入角度や挿入するときの勢いが強ければ、静脈後壁から動脈まで穿通し、ガイドワイヤーが動脈内に留置される可能性があるという。

 

  • 頚部血種、気道閉塞:出血傾向のある患者に対して透析用カテーテルを右内頚静脈に挿入しようとして動脈誤穿刺し頚部に巨大血腫が形成された。血腫による気道偏位・気道圧迫から気道緊急となり気管挿管で気道確保に成功。数日後後遺症なく抜管。

 

  • ランドマーク法で右鎖骨下穿刺し、動脈穿刺に気付かず、カテーテルまで挿入した動脈カニュレーションの例。
  • 輸液ラインに接続後、点滴を高く上げないと滴下せず、胸部X-p上、カテーテル先端は下行大動脈内にあったことが判明。

 

  • 徐脈性不整脈の患者に対して一時ペーシングリードを挿入するためにランドマーク法で5Frシースを右内頚静脈に挿入しようとしたが動脈穿刺し、シースまで挿入してしまった例。結果的に椎骨動脈カニュレーションとなった。
  • 右内頚静脈にシースを入れ直しペーシングは正常に作動した。
  • 正面像では椎骨動脈カニュレーションは判別が困難であった。

 

 

  • 頚部の動脈は複雑に分枝が走行しており、総頚動脈以外にも重大な出血性合併症を来しうる動脈がいくつもあるため内頚静脈の後壁穿刺は動脈穿刺となるリスクが高い。

 

出典:PP Zachariah, VN Unni, G Kurian, RR Nair, A Mathew Thyrocervical artery – jugular fistula following internal jugular venous catheterization  Indian Journal of Nephrology 2014;24(3):178-180

  • 動脈誤穿刺により出血性合併症を来すことが多いが、血管壁の損傷から仮性動脈瘤を形成することがある。それによる神経の圧迫から神経損傷となる可能性、破裂すれば短時間で致死的になる可能性がある。

出典:Upendra Divakar Bhalerao et .al. Carotid artery aneurysm following inadvertent puncture during central venous catheterisation Indian Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 30(3):237-240 -September 2014

 

  • 胸肩峰動脈誤穿刺による巨大血種の例

出典:B Bourgonjon et al. Thoracoacromial artery perforation in subclavian vein catheteriza-tion: a rare complication. Acta Anæsth. Belg., 2017, 68,43-47

 

  • リアルタイムエコーガイド下で左内頚静脈穿刺を実施したところ、左内頚静脈を貫通し左総頚動脈にカテーテルが誤留置された例(Henry, Tan Chor Lip, et al. “Unexpected complication of arteriovenous fistula of the left common carotid to internal jugular vein following central venous catheterization.” Chinese Journal of Traumatology 23.1 (2020): 29-31.)。動静脈ろうとなり外科的修復を要した。