原因・機序

  • カテーテル先端が中心静脈以外の静脈(外頚静脈、内胸静脈、心膜横隔膜静脈、上肋間静脈、奇静脈、半奇静脈、副半奇静脈、下腹壁静脈、浅腹壁静脈、頚静脈弓、椎骨静脈、上行腰静脈など)内や、縦隔、右房、右室、動脈、胸管、胸腔、腹腔、骨盤腔、脊柱管内、硬膜外、軟部組織に留置される。
  • ガイドワイヤーの誤挿入からカテーテル位置異常になる。
  • 左上大静脈遺残(PLSVC)内に留置される(PLSVCの発生頻度は健常人で0.3〜0.5%)。
  • カテーテル留置中に先端の位置が動き、中心静脈以外に迷入する。
  • 左内頚静脈からのアプローチは、その血管走行により、迷入するリスクは相対的に高い。
  • シリコン製カテーテルはその柔らかさから目標外の静脈に迷入するリスクが高い。
  • 体幹の変形がある場合、迷入するリスクが高い。また、血管壁にカテーテルが強く押しつけられることにより血管壁が損傷しやすい。
  • PICCは長いため、非透視下ブラインドで挿入した場合、位置異常や迷入のリスクは高い。
  • PICCはカテーテル長が長いこと自体で、また上肢の運動により、心臓内に迷入することがある。
  • 血管奇形により肺動脈内に留置されることがある。
  • 頚部の過度の回転は内頚静脈穿刺の際の誤穿刺のリスクを上昇させる。
  • 下大静脈フィルターにガイドワイヤーがトラップされることがある。
  • 肺動脈カテーテルのシースの先端が静脈壁に押し付けられていると、肺動脈カテーテル挿入時に静脈を穿通する可能性がある。特に左側からの挿入でリスクが高くなる。
  • 左内頚静脈から挿入したカテーテルが、左上肺静脈-無名静脈の部分接合のanomaly(PAPVC, 0.4-0.7%)に迷入した報告がある。
  • カテーテル挿入時に結び目が生じることがある。
  • 大腿静脈アプローチからの上行腰静脈への迷入は、分岐の角度の違いにより左側の方がリスクが高い。

合併症が発生したことを示す所見

  • 胸痛、呼吸苦などの自覚症状がある。
  • X-p、CTで中心静脈内または中心静脈へ向かう経路にカテーテルが留置されていないことが確認される。または血管外に液体貯留が認められる。
  • 左内頚静脈からのアプローチでは、カテーテルが側面像で前方1/3の範囲にある場合は内胸静脈、中心1/3の範囲にある場合は心膜横隔膜静脈、後方1/3の範囲にある場合には上肋間静脈に迷入している可能性がある。
  • 吸引した液体が漿液性で中性脂肪が多い場合、胸管挿入が考えられる。右側からのアプローチでも胸管挿入の報告はある。
  • 内胸静脈または心膜横隔膜静脈への迷入は、圧ラインに接続した場合、心臓の拍動がカテーテルに伝わり、動脈波形を模倣することがある。
  • カテーテル管理中に血管壁へのおしつけ、先端の反復的な動きにより血管を穿破することがある。
  • 腸腰筋膿瘍などの感染症が発生し、その原因として上行腰静脈誤挿入が発覚する。
  • 神経学的異常が見られる場合がある。
  • 脊柱管内誤挿入、硬膜外誤挿入では麻痺など神経学的異常が発生しうる。
  • 胸腔内に血液が貯留した状態でカテーテルが胸腔内に迷入していると、カテーテルからの逆血が血性となり、血管内と誤認する可能性がある。ゆえに胸部外傷・血胸が存在している状態での同側からの鎖骨下穿刺ではカテーテル誤留置に気づきにくい場合がある。
  • 下腹壁静脈迷入⇒穿孔⇒腹直筋膿瘍となった場合には腹直筋腫脹と腹痛がみられる。
  • 内胸静脈への迷入は胸部正面単純X-pでは判別が困難なことが多い。

鑑別・検査

  • X-p、CT、圧ライン接続、心電図。

起こりうる臨床経過

  • 血栓形成から静脈閉塞、肺塞栓、奇異性脳梗塞などが生じることがある。
  • 血管外漏出・血管損傷により血胸、胸腔内輸液、縦隔血腫、後腹膜血腫、皮下血腫となることがある。
  • 多量に出血した場合、出血性ショックから致死的となる。
  • 胸腔内に迷入したカテーテルを抜去したことが契機で血胸となることがある。
  • 内胸静脈の迷入から血管損傷となり大量の血胸となることがある。
  • 内胸静脈の迷入により胸水貯留、胸壁膿瘍となる場合がある。
  • 上肋間静脈迷入により、静脈穿孔⇒水胸を来すことがある。
  • 細い静脈に迷入したカテーテルを抜去した際に血管を損傷し、胸腔内に出血し血胸となることがある。
  • 心膜横隔静脈迷入→血管損傷→カテーテル先端の心嚢内への迷入・出血→心タンポナーデ、という経路をとる場合がある。
  • 心臓内に迷入・留置された場合、心のう水貯留、心タンポナーデを生じることがある
  • 上行腰静脈迷入から腸腰筋膿瘍、転移性感染症を生じることがある。
  • 上行腰静脈迷入⇒静脈穿孔⇒腹直筋内への輸液の充満⇒圧上昇⇒腹直筋・筋鞘・筋膜壊死⇒腹腔穿破⇒腹水貯留、後腹膜腔内液体貯留・膿瘍となることがある(村上哲平, et al. “腹直筋壊死・腹水貯留に至った大腿静脈穿刺中心静脈カテーテル迷入の 1 例.” 日本臨床外科学会雑誌 78.7 (2017): 1640-1646.)。
  • 下腹壁静脈迷入から腹直筋膿瘍となる場合がある。
  • PLSVC(左上大静脈遺残)は冠静脈洞から右房にドレナージしていることがあり、その経路内での血栓形成は致死的となる可能性がある。
  • PLSVC内留置とそこからの輸液で胸痛、循環の破綻、心停止、心筋虚血と矛盾しない心電図変化、静脈狭窄、冠静脈洞血栓、血管潰瘍、心タンポナーデ、冠静脈洞の刺激による心停止などが起こることがある。
  • PLSVCの8%は左房に直接流入しているといわれ、この経路での血栓形成は動脈塞栓症のリスクとなる。
  • 透析用カテーテルは太いため、細い静脈に迷入した場合には血管損傷の程度が強くなりやすい。
  • 脊柱管内誤挿入では恒久的な神経学的後遺症となる場合がある。
  • Marshall’s veinへの迷入・穿孔から心タンポナーデを起こすことがある。

対処・拡大防止措置

  • 体型や体位により、誤穿刺や誤留置のリスクが変化するので、リスクが小さくなるように状況をコントロールするように努める。
  • 自覚症状、他覚所見で何らかの異常が見られた場合、この有害事象を念頭に置きサーベイする。
  • 抜去や経皮的な摘出が困難な場合外科的な対応を検討する。
  • 気道閉塞が切迫している場合は気管挿管を行う。
  • 気道閉塞時は迅速に気管挿管するか緊急気管切開・穿刺を考慮する。
  • 安全に抜去できると考えられる場合は抜去する。
  • 抜去後に状態が不安定化してもすぐに対応できるように環境を整えてから抜去する(ICUに入室させる等)。
  • 結び目が生じ抜去困難な場合は血管外科にコンサルトする。

合併症の重篤度

  • 3:死亡することはまずないが相当な治療を必要とする

予防法

  • エコーガイド下穿刺での実施とガイドワイヤー挿入後のエコーによる確認(ポストスキャン)を推奨する。それによりガイドワイヤーが迷入していることが判明すれば修正を試み、修正ができなければX線透視下操作で再試行する。
  • ルーチンにX線透視下操作で実施することを推奨する。非透視下操作で、ガイドワイヤーやカテーテルの挿入に抵抗がなかったからといって、それが静脈内に正常に挿入したことを支持する所見にはならない。
  • カテーテル挿入後、経時的にX-pでカテーテル先端位置を確認する。先端位置に変化があった場合は要注意な状態として認識し、CT等で精査する。その結果迷入が疑われれば修正ないし抜去する(清潔に修正することは実際には困難なので、抜去が望ましい)。
  • 下大静脈フィルター挿入患者では、穿刺挿入部位を慎重に考慮し、X線透視下操作を強く推奨する。大腿静脈からの挿入時は特にガイドワイヤーの扱いに注意する。
  • 新生児・乳児・小児では椎骨動脈や脊柱管までの距離が短いため、内頚静脈穿刺では深い穿刺に注意する。
  • 正確な評価が必要と思われた場合、カテーテル挿入後の単純X-pは正面と側面の2方向で撮影する。

院内準備体制

  • X線透視下でCVカテーテルが留置できる体制があること。
  • 重篤な合併症が発生した場合に外科的な対応が検討できること。

参考資料

  • 左上肢から挿入したPICC先端のUターン

 

  • 右内頚静脈からのCVC、先端のUターン

 

  • 左上大静脈遺残( PLSVC; persistent left superior vena cava) 内留置

 

 

 

  • S-Gカテーテルの位置異常;左内頚静脈→左上大静脈遺残( PLSVC; persistent left superior vena cava) →環状静脈洞→右室→右房→上大静脈内留置

 

  • 左内頚静脈から左上大静脈遺残( PLSVC; persistent left superior vena cava)への留置

 

  • 左大腿静脈からのアプローチでは解剖学的に左上行腰静脈へ迷入しやすい(森田ら. 日本腹部救急医学会雑誌. Vol.28(3), 2008)

 

 

  • 右総腸骨静脈→左総腸骨静脈への迷入

 

  • テシオカテーテルの縦隔内迷入、血胸

 

  • 右内胸静脈への迷入:右内胸静脈は胸部レントゲン写真正面画像では上大静脈の経路に重なるので迷入は発見しにくい。

 

  • 堀亮太, et al. “術後胸痛の原因が中心静脈カテーテルの内胸静脈迷入であった一例.” 静脈経腸栄養 28.4 (2013): 987-991.

 

  • 右内頚静脈→左腕頭静脈への迷入

 

  • 左心膜横隔静脈への迷入

 

  • 胸腔内留置

 

  • 脊髄腔誤挿入

 

  • 下大静脈フィルターのガイドワイヤー、カテーテルトラップ

 

  • 右鎖骨下静脈内に形成されたカテーテルの結び目

 

<Marshall’s vein>

  • 左心房斜静脈【さしんぼうしゃじょうみゃく】:Marshall’s vein マーシャルの静脈ともよばれる。左心房斜静脈は左心耳と左肺静脈との間を斜めに走る細い静脈で、その延長上、左肺動脈基部の直下に鋭く張り出す心膜のヒダ(左大静脈ヒダ)とともに左上大静脈ないし静脈洞左角の痕跡を示す。冠状脈洞に注ぐ静脈の1つで、直接心臓にに注ぐ小静脈群であるテベシウス静脈とは異なる。マーシャル静脈は元来は左の上大静脈に相当するものであるが、右の上大静脈が発生の経過と友に大いに発達するのに反して左ではこのような微弱な姿にとどまっている。

 

  • 下腹壁静脈迷入から腹直筋膿瘍となった症例(大野ら. 日臨外会誌. 77(3), 687-691, 2016)。腹部正面単純X線検査では迷入を見抜くのは難しい。

 

  • 山本由香. “内頚静脈穿刺により重篤な合併症を来した症例-ガイドワイヤーのくも膜下迷入と結節形成.” 日本小児麻酔学会誌 7 (2001): 203-205.

 

  • 左内頚静脈ルートから胸管誤留置の例(Katrancioglu, Nurkay. “Unusual mechanical complications of central venous catheterization.” Saudi medical journal 40.3 (2019): 287.)

 

  • 右内頚静脈ルートから右胸管誤留置の例(Chandiraseharan, Vignesh Kumar, and A. R. Malathy. “An unusual complication of central venous catheterization.” CHRISMED Journal of Health and Research 2.3 (2015): 276.)カテーテルからは高中性脂肪の液体=リンパ液が吸引された。

 

  • エコーガイド下に非カフ型透析用カテーテルを留置したが鎖骨下動脈を貫いて縦隔に迷入し、縦隔血腫となった例。ガイドワイヤーの挿入には抵抗がなかった。(Mando, R., et al. “An Uncommon Complication of a Common Procedure: A Case Describing a Fatal Mediastinal Hematoma Following Central Venous Catheter Placement.” B43. PLEURAL DISEASE CASE REPORTS I. American Thoracic Society, 2019. A3230-A3230.)