原因・機序

①腕神経叢傷害:内頚静脈穿刺または鎖骨下穿刺の際に、腕神経叢を直接穿刺することで発生する。または頚部の血腫・仮性動脈瘤・動静脈ろうによる圧迫による。椎骨静脈に迷入したカテーテルから投与した薬剤による傷害、局所麻酔薬の多量使用、PICC挿入による損傷なども原因となる。

②横隔神経傷害:神経の直接穿刺、カテーテル先端・血腫・血管外漏出・炎症が生じた静脈による圧迫。内頚静脈穿刺・鎖骨下静脈穿刺のどちらのアプローチでも発生しうる。血栓閉塞や化学療法による血管外漏出が遠因となることがある。

③反回神経傷害:内頸静脈穿刺失敗からの神経の直接穿刺または血腫・仮性動脈瘤による圧迫。局所麻酔剤の浸潤。

④ホルネル症候群:頚部交感神経幹の穿刺針による直接傷害または血腫による圧迫。内頚静脈穿刺から後壁穿刺した場合に発生する可能性がある。

合併症が発生したことを示す所見

①腕神経叢傷害:上肢の運動・知覚障害、上肢の灼熱感・電撃痛

②横隔神経傷害:胸部X-pで患側横隔膜の挙上、縦隔の拡大が見られる。呼吸苦、吃逆、低酸素血症、肩の痛みが生じることがある。

③反回神経傷害:嗄声、発声障害、咽頭痛などの症状が生じる。気管支鏡で声帯の麻痺が見られる。

④ホルネル症候群:同側眼瞼下垂・縮瞳、顔面無汗症、頚部血腫による腫脹

※全身麻酔下で合併症が発生した場合、これらの症状は現れないため、発見が遅れる。

鑑別・検査

  • 神経学的診察、筋電図
  • 声帯観察
  • MRI

起こりうる臨床経過

  • 神経症状が遷延するか不可逆的に後遺する。
  • ホルネル症候群の発生率:2%
  • 回復までに要する期間は6~12か月以上

対処・拡大防止措置

  • 神経内科的診察と治療。
  • 仮性動脈瘤形成時は外科的処置を検討する。
  • 横隔神経障害で呼吸状態が悪化すれば適切に呼吸サポートを行う。
  • 両側反回神経麻痺は気道狭窄となり致命的になるので、反対側頚部の穿刺は避ける。
  • カテーテル抜去
  • 全身麻酔からの覚醒後に神経学的異常がないか確認する。

合併症の重篤度

  • 3:死亡することはまずないが相当な治療を必要とする
  • 発生率は1.6%以上

予防法

  • 深く穿刺しない。
  • 太い穿刺針は使用しない。
  • 多数回穿刺を避ける。多数回穿刺する前に術者を交代する。
  • 動脈穿刺を避ける。
  • 解剖学的知識を再確認する。(腕神経叢:第5~8頚神経と第1胸神経との前枝によって構成され、神経幹は鎖骨上窩で比較的浅在し、神経束は鎖骨の下方で腋窩にあり、腋窩動脈を囲む。横隔神経:第4頚神経から起り鎖骨下静脈中部の裏側を通り、右横隔神経はSCVの右側を走行している。反回神経:右側では右鎖骨下動脈を前から後方に向かってくぐり下咽頭に分布する。頚部交感神経幹:内頚動脈・総頚動脈の後側、迷走神経のすぐ内側に沿って頚椎横突起の前をまっすぐに下行する。)
  • 過度に頚部を回転させない。
  • エコーガイド下穿刺での実施を推奨。内頚静脈穿刺では後壁穿刺を回避する。

院内準備体制

  • 神経内科、整形外科へのコンサルテーションが早期にできる体制があること。

参考資料

Gozubuyuk, Ezgi, et al. “Brachial plexus injury associated with subclavian vein cannulation: A case report.” A&A Practice 9.7 (2017): 207-211.

 

内頚静脈穿刺において、頚部を45°反対側に回旋させた状態で穿刺し、後壁穿刺となった場合、頚部交感神経幹の損傷からHorner症候群が発生するリスクがある。この症例ではエコーガイド下短軸像穿刺で実施したが後壁穿刺となり、同側眼瞼下垂/縮瞳のHorner症候群の症状が12か月後でも残存した。エコーガイド下短軸像穿刺では、後壁穿刺は極力回避する技術が求められる。Yamamoto, Masayoshi, et al. “Horner Syndrome Caused by Central Venous Port Placement via the Internal Jugular Vein: A Case Report.” Interventional Radiology 5.1 (2020): 14-18.