原因・機序

  • ガイドワイヤーにカテーテルを通して留置する際、ガイドワイヤーの存在を失念し、ガイドワイヤーを抜去せずカテーテルを留置してしまう。セルジンガー法についての知識が不足していることが原因となる。
  • スタイレット(金属製)があらかじめ仕込まれているカテーテルキット(グローションカテーテル)で、カテーテルを切断してカテーテルの長さ調整をする際に、内部のスタイレットごと切断しそのままカテーテルを留置してしまう。
  • カテーテル自己(事故)抜去時、カテーテル抜去時、カテーテル固定時、あるいは特に外力を加えない場合でもカテーテルが切断され遺残カテーテルが静脈内に迷入する。
  • カテーテルが血管内皮細胞の増殖によりトラップされ、抜去に離断する場合がある。
  • 鎖骨下にカテーテルを長期留置中、鎖骨と第一肋骨の間でカテーテルがはさまれ(カテーテル・ピンチオフ pinch off syndrome)、擦り切れて切断されたあと血管内に迷入・遺残する。
  • 金属針で穿刺後、先端にガイドワイヤーがひっかかり、無理に引き抜くことでガイドワイヤーが切断され迷入・遺残する。
  • 埋め込み式CVポートのカテーテルとリザーバーが離断しガテーテルが迷入・遺残する。
  • カテーテルの離断の発生率は2-3%との報告がある。
  • ガイドワイヤー遺残が発生する原因としては、術者の経験不足、疲労、不注意、習熟者による監督不足などが指摘されている。

合併症が発生したことを示す所見

  • X-pやCTで遺残カテーテル・ガイドワイヤーが大静脈、右心房・右心室、肺動脈内、内頚静脈などに確認される(ただし下大静脈や下肢の静脈まで遺残物が達した場合は、胸部X-pでは発見できない場合がある)。
  • 長期間経過後に偶然撮影された画像検査で発見されることがある。
  • 心タンポナーデ、気胸、血胸などの傷害から発見される。
  • 抜去したカテーテル・ガイドワイヤーに断端があり短くなっている。
  • 断片が右心室・肺動脈に迷入した場合、間欠的な不整脈(心室頻拍など)を生じさせることがある。
  • 繰り返す咳症状
  • 圧波形が典型的なSVCの波形でない場合がある。
  • 術後のトレイにガイドワイヤーがない。
  • 輸液の自然滴下の状態が通常とは異なること。
  • 画像検査で遺残物が認められること。
  • なんらかの臨床所見(例:間欠的な胸痛)が発生し、それが遺残物と関連していることが疑われること。
  • CVポートのカテーテル離断の場合、薬剤注入時の胸部の違和感と同部の腫脹を認める場合がある。
  • カテーテル・ピンチオフが発生すると画像上はカテーテルの径の狭小化がみられ、薬剤注入や血液吸引の抵抗や不能がみられる。また、肢位・体位の変換でその抵抗が変化することがある(例:上肢や頚部の屈曲でフラッシュが容易になり、伸展で抵抗が生じる)

鑑別・検査

  • X-p、X線透視、CT、心エコー、圧ライン接続

起こりうる臨床経過

  • 血栓症、肺塞栓、心筋穿孔、胸腔内への逸脱、感染性心内膜炎、心筋梗塞、後腹膜血腫、不整脈、胆のう穿孔とそれによる胆汁性腹膜炎、椎骨動脈塞栓症とそれによる脳梗塞、胸痛と動悸、敗血症などを引き起こす場合がある。
  • 右心室・肺動脈内の遺残により、心室頻拍、心室細動を引き起こすことがある。
  • 遺残物が心臓まで達した場合、心筋を穿孔し心タンポナーデを発生させる場合がある。
  • 摘出できず重篤化した場合は死亡率が上昇する(24~38%: Richardson 1974, Fisher 1978)。
  • 冠静脈洞迷入⇒冠静脈洞血栓症⇒急激な心停止となる経過がありうる。
  • 発見までの時間に応じてさまざまな臨床症状、データ異常が起こりうる(軽微な痛み、浮腫、白血球上昇、微熱、凝固線溶系のデータ異常など)。
  • 遺残した金属製ガイドワイヤーが大腿、膝、後頚部から自然に皮膚をつきやぶって出てきた報告がある。

対処・拡大防止措置

  • 循環器内科または放射線科にコンサルトする。
  • snare catheterで除去する。
  • kinkやcoilingで血管内のガイドワイヤーが抜けないときは、心カテ用のガイディングカテを短く切ったものを通して直線化して抜去することも有効(Tayebi, Pouya. “Endovascular Removal of Entrapped Central Venous Catheter Guide Wire.” Vascular Specialist International 36.1 (2020): 45.)
  • 外科的除去を検討する。

合併症の重篤度

  • 4:死亡する確率は多分10%以下だが死亡する例がある

予防法

  • ガイドワイヤーは20cm以上挿入せず、カテーテル挿入時に血管内に押し込まれないようにする。
  • カテーテルを留置する際は必ずガイドワイヤーの端を常につかんでおく。
  • スタイレットが挿入されているタイプのカテーテルは、扱いを熟知する。
  • ガイドワイヤー操作中、抵抗があれば無理に引き抜かず、穿刺針ごと抜去する。
  • カテーテル挿入後、廃棄物の中にガイドワイヤーが含まれていることをチェックする。
  • カテーテルの固定は慎重に行う。
  • 自己抜去の防止措置に努める。
  • 胸部レントゲン写真でpinch-off sign(カテーテル径が鎖骨と第一肋骨ではさまれ狭小化している像)をみたらカテーテルを抜去する。
  • pinch-off を避けるため鎖骨下穿刺では刺入点を内側に寄せすぎない。
  • エコーガイド下_鎖骨下穿刺では、カテーテルは鎖骨と第一肋骨の間にははさまれないため、予防策として有効である可能性がある。
  • カテーテルを抜去した際、破損・破断がないか先端部と長さの確認をする。
  • どの部位からのアプローチでも、カテーテル挿入後は必ずX-pで確認する。

院内準備体制

  • 循環器内科ないし放射線科医により血管造影室でsnare catheter(catching wire)を使用した処置ができること。
  • 血管内遺残物の除去法に習熟している診療科がある。ない場合は迅速にコンサルトできる外部診療科をあらかじめピックアップしておく。
  • 各カテーテルキットの留置法・特性につき十分理解した術者のみが実施するようにする。
  • 挿入法の院内教育(シミュレータ教育、スーパーバイズ)を徹底する。
  • この合併症がありうることを周知する。

参考資料

  • 肺動脈内の遺残カテーテル

肺動脈内の遺残カテーテルをcatching wire(snare catheter)で補足したところ

 

  • 右内頚静脈の遺残カテーテル

 

  • Catching wireで取り出した遺残カテーテル

 

  • カテーテル遺残 ポート離断

 

  • 遺残カテーテルの抜去

 

  • ガイドワイヤー遺残(A. Mohammed et al. “Never Event” Should Never Happen: Retained Guidewire Embolization During Central Venous Catheterization.   Am J Repir Crit Care Med2018;197:A3508

  • 右大腿静脈アプローチのCVCから、8か月後に右膝付近から出現したガイドワイヤーの例(Choudhary, Ram Singh, et al. “A Case of Retained Guidewire Spontaneous Emerging from Skin Near Right Knee 8 Months after Central Venous Catheterization.” Asian Journal of Case Reports in Surgery (2020): 10-15.)

 

  • 右大腿静脈アプローチのCVCから、2年後に右膝付近から出現したガイドワイヤーの例(Arnous, Nidal, Souvonik Adhya, and Biwar Marof. “A case of retained catheter guidewire discovered two years after central venous catheterization.” The American journal of case reports 20 (2019): 1427.)

  • 左鎖骨下ルートからのCVC実施中に紛失したガイドワイヤーが、6か月後に後頚部から自然に突き出してきた。分離したガイドワイヤーは大伏在静脈内にも認めた。(Guo, Hangyuan. “Complication of central venous catheterization.” New England Journal of Medicine 356.2 (2007): e2.)

 

皮下用ポート及びカテーテルの断裂に関連した医療事故

医療事故情報収集等事業 第 21 回報告書 (2010年 1 月~ 3 月)http://www.med-safe.jp/pdf/report_2010_1_T003.pdf

 

  • pinch-off signの例(Cho, Jin-Beom, et al. “Pinch-off syndrome.” Journal of the Korean Surgical Society 85.3 (2013): 139-144.)