原因・機序

  • ガイドワイヤーやカテーテル先端(肺動脈カテーテルを含む)が心嚢の領域内で上大静脈・右房壁・右心室壁・上行大動脈壁のいずれかを穿通し輸液または血液が心嚢内に貯留する。
  • 高浸透圧溶液が血管外に漏出し、輸液または血液が心嚢内に貯留する。
  • 上半身からのカテーテル留置後、キャッチボールや体操など激しい運動を繰り返すことで、血管壁、右房壁がカテーテル先端で穿通し発症する。
  • カテーテル先端が心外膜の領域内にある場合、心嚢内に液体が貯留するリスクが発生する。
  • 上大静脈付近の静脈が血栓閉塞しリンパ管の圧が高まり、乳びが心嚢内に流入する。
  • カテーテル挿入時だけでなく、留置後数日以上経過してから発生する場合もある。
  • Marshall’s veinへの迷入・穿孔から心タンポナーデを起こすことがある。

合併症が発生したことを示す所見

  • Beckの三徴(CVPの上昇、低血圧、奇脈)が見られる。ただし常に典型的に現れるわけではない。
  • 呼吸困難、胸骨裏の痛み、嘔気(迷走神経刺激)、胸痛(心嚢の伸展)、腹痛(内臓神経刺激)などの症状が出現する。
  • 低血圧、心電図異常(低電位その他)、頻脈、CVP上昇、チアノーゼ、静脈怒張、奇脈、昏迷などの所見が出現する。
  • エコーで心嚢水貯留を認める。
  • X-pで急激な心拡大を認める。
  • 輸液ラインに過負荷が発生しさらに突然それが解除される現象がみられる。
  • 心嚢水の試験穿刺で輸液の組成が確認される。
  • カテーテルから注入した造影剤が心嚢内に認められる。

鑑別・検査

  • エコー、CT、血管造影検査

起こりうる臨床経過

  • ショックから短時間で死に至る可能性がある。致死率は非常に高い。
  • ショックの治療として先端が心嚢内にあるカテーテルから多量の輸液が負荷されるとさらに状態が悪化する。
  • 心タンポナーデの状態からカテーテルを引き抜いたことで致死性不整脈を誘発することがある。

対処・拡大防止措置

  • 急激な呼吸・循環動態の悪化見られた場合は心タンポナーデを疑う。
  • エコーで迅速に診断する。
  • 対処可能な医師にすぐコンサルトする。
  • ICU管理とする。
  • 疑いがあればCVカテーテルから多量の輸液を投与しない。
  • 心嚢穿刺を行う。
  • CVラインからの心嚢液の吸引を試みる。

合併症の重篤度

  • 5:死亡する確率が多分10%以上

予防法

  • X線透視下でカテーテル先端が心嚢にかからない位置(気管分岐部かそれよりやや上)に留置する。
  • X線透視下操作が推奨され、カテーテル先端の位置決めの際は、先端が最も右房側に近くなる呼気位のときに気管分岐部に位置するように留置する。
  • カテーテル先端位置を確認するまでは輸液ラインと接続しない。
  • カテーテル先端が血管壁に押し付けられていないことを確認する。
  • カテーテル先端位置に変化がないか経時的にX-pで確認する。
  • カテーテル留置中は上肢の激しい運動、頻繁な運動は禁止する。
  • カテーテル先端が壁当たりしやすい上半身の左側からの穿刺はできるだけ避ける。
  • カテーテルが移動しないように皮膚との固定をしっかり行い、挿入長が変化していないか毎日観察する。

院内準備体制

  • エコーによる心タンポナーデの診断ができること。
  • 心嚢穿刺ができる医師が常在していること。
  • 院内急変対応システムが常時稼働していること。
  • ICU部門があること。

参考資料

  • カテーテル先端の右房内留置は、カテーテルキットの添付文書に禁忌として記載されている。

 

  • 電気生理学的検査中に発生した心タンポナーデ

 

  • 左鎖骨下から挿入したカテーテルが穿破して発生した心タンポナーデ。カテーテルから注入した造影剤が心のう内に漏出している。

 

  • 左側からのカテーテル挿入は血管走行の特性により、カテーテル先端がSVCに壁当たりしやすく、上肢の運動や呼吸・心臓の拍動などで先端が血管壁に繰り返しの刺激を与えることになり、潰瘍形成から穿孔が生じ、心タンポナーデや血胸・胸腔内輸液が発生するリスクが右側からの挿入より高い。

 

<Marshall’s vein>

  • 左心房斜静脈【さしんぼうしゃじょうみゃく】 :Marshall’s veinマーシャルの静脈ともよばれる。左心房斜静脈は左心耳と左肺静脈との間を斜めに走る細い静脈で、その延長上、左肺動脈基部の直下に鋭く張り出す心膜のヒダ(左大静脈ヒダ)とともに左上大静脈ないし静脈洞左角の痕跡を示す。冠状脈洞に注ぐ静脈の1つで、直接心臓にに注ぐ小静脈群であるテベシウス静脈とは異なる。マーシャル静脈は元来は左の上大静脈に相当するものであるが、右の上大静脈が発生の経過とともに大いに発達するのに反して左ではこのような微弱な姿にとどまっている。
  • Marshall’s veinへの迷入・穿孔から心タンポナーデを起こすことがある。