Cardinal Health社に“Novellus”という社内誌があり、そのNovellus 2021 Mar vol.33で、CVCで発生する可能性がある合併症についてまとめました。その冊子の特徴としてまず、CVC のトラブルが発生する場面を、A)準備段階、B)処置中、C)管理中、D)抜去時の4つのフェイズごとに検討し、そのトラブルがどのような要因から発生するのかを考察しました。例えるなら「地雷原の歩き方」です。そこらじゅうに埋め込まれた地雷を踏まないように渡っていくには、どんな怪しい様子に注目すべきか、どういう特徴や変化があったらその下に地雷が埋まっていることがわかるのか、何をしたら危ないのか、何をしなければ危ないのか、などをガイドしたつもりです。地雷が埋まっていたとしても「踏まなければどうということはない」、のですから、予防が大事です。

次に合併症の種類ごとに、原因・機序、発生した場合の所見、起こりうる臨床経過、トラブルシューティング、予防法を一覧表にしました。この表は、「CVCの合併症;リスク予知分析(PRA)について」以下で記述した合併症の解説の簡易版のようなものです。そして、ここが重要なところなのですが、このCVCの合併症の厄介なところは、ひとつのトラブルが二次的三次的なトラブルに進展すること、合併症同士が相互に複雑に関連しあっていることです。つまりひとつひとつの合併症を知っているだけでは足りないのです。これが起きたら次に何が起きる可能性があるか、まで知らないといけないのです。なのでこの冊子の最後に、それぞれの合併症が相互にどのように関連しているのか、また、どのような二次的、三次的影響を及ぼす可能性があるのかを見渡す「合併症マップ」、いわば地雷配置図を作成しました。起こりうることの予測と、またたとえ合併症が発生しても先手を打って重篤化を予防するための指針になると思います。このような関連図、マップは、現行では十分に整理されているとは言えないかもしれませんが、これまで見たことがないものであるはずです。このマップを眺めることで、リスクの高い方法や注意するべきポイントなどが浮かび上がり、偶発的なトラブルを回避する一助となってくれることを願っています。

PDFのリンクはこちらですが、見にくいので、関心がある方はできれば冊子を入手してみていただけたらと思います。Cardinal Health社の担当者に依頼すれば無料で入手可能です。聞くところによるとけっこう評判がよく、一施設30部などの単位で依頼されることもあるそうです。

内容を以下抜粋して記載します。

CVCトラブルシューティング・マニュアル

CVC(中心静脈カテーテル法)は多くの医療処置の中でも以下のような際立った特色があります。

1. 多種多彩な合併症が発生するリスクがある
2. 合併症の発生率が比較的高い
3. 合併症はしばしば重篤化し、死亡に至る場合もある
4. 一つの合併症から副次的な合併症を引き起こすことがある
5. 合併症ごとに異なる発生機序・頻度・対応策がある
6. 準備段階から抜去までのすべてのプロセスに合併症のリスクがある
7. 施行からトラブルシューティングまで専門的知識・技術が必要である一方、基本的・一般的な医療処置の位置づけで不特定多数の医師が実施している
8. 確立した標準手技がなく、術者ごとに手技のバリエーションがある
9. 多種類のカテーテルキットが市販されており、それぞれ特性や手順が異なる
10. 標準的な技術研修や合併症予防の教育機会が乏しく、標準化されていない
11. 手技の標準化や警鐘事例の広報などを主導する関連団体や学会がない
12. 施設内での責任管理部署が不明確になりやすく、質の維持や安全管理が困難となる

こうした特性から、CVCは少なくとも2008年の医療安全全国共同行動の発足以降、「危険手技」と位置付けられるようなりました。ただその「危険」とは、手技自体の危険性というよりも、上記のような統制が利かない「カオス」がもたらしたものといえるでしょう。とすれば、CVCをより安全なものにするためには、このカオスをコスモスに変える、すなわち秩序立てていけばよいことになります。それにはまず、CVCで発生しうる合併症の種類、予防法、トラブルシューティングなどの知識を整理し俯瞰することが、具体的な方策のひとつになります。そこでこの冊子ではCVCのトラブルが発生する場面を、

A)準備段階、B)処置中、C)管理中、D)抜去時

の4つの時系列上のフェイズに分け、各フェイズの手順を追いながら、その中で発生する可能性がある合併症やトラブル、いわば「地雷」を掘り起こしていきます。手順中の地雷が埋め込まれていそうな危険個所の目星をまずつけてみてください。それぞれの合併症が相互にどのように関連しているのか、また、どのような二次的、三次的影響を及ぼす可能性があるのかを見渡す「合併症マップ」、すなわち地雷配置図を作成しました。起こりうることの予測と、またたとえ合併症が発生しても先手を打って重篤化を予防するための指針になると思います。

CVCの準備から抜去まで、いたるところに埋設された地雷を除去し、たとえ踏んでもなんとか対応するために、このCVC地雷原踏破マニュアルを役立てていただければ幸いです。

A)準備段階

a. 適応の評価
1. 適応が不明確:適応が不明確な状態で事故が発生した場合、CVC処置の正当性に疑義が発生し、過誤に問われる可能性があります。CVCの適応とは、薬剤投与ルートとしては、化学療法、多量の昇圧剤の投与、刺激性・腐食性・高浸透圧性薬剤の投与、高カロリー輸液投与、末梢静脈確保困難時、蘇生時が挙げられます。これらのどれかに適合することと、ほかに代替手段がないかどうか、あわせて検討しましょう。また、適応を明確にするために、複数人の合議で適応を決定することが望ましいとされています。
2. 適応外の見落とし:明らかに腸管の使用が可能な場合(脳出血、脳梗塞後遺症、認知症、遷延性意識障害、各種神経疾患、頭頚部癌など)の栄養目的、5~7日以内に腸管栄養を開始することが可能な場合の栄養目的、ほかに方法があるにもかかわらず単に水分補給のためのラインとしての挿入、治療不能な状態にある患者、では、原則的にCVCの適応外となります。適応外であるにもかかわらずCVCを実行し事故が発生した場合、正当性を主張することは困難となります。前述の適応とともに、適応外でないことを確認しましょう。

b. リスク評価
1. 出血傾向の見落とし:抗凝固薬や抗血小板剤の投与中、出血傾向を来す臓器障害や基礎疾患(例:肝硬変、DIC)がある場合、出血性合併症のリスクが上昇すると考えられます。血液データの目安としては、血小板数5万/μℓ以上、PT-INR1.5未満、APTT45秒未満を満たさない場合です。これらを見落とした上に、❶動脈誤穿刺、❷動脈カニュレーション、❸血胸、❹後腹膜血腫、❺縦隔血腫などが生じると出血コントロールが困難となり、重篤化するか致命的となるリスクが発生します。また巨大な❻皮下血腫が生じた場合は❼神経損傷、❽気道閉塞などの合併症に進展する可能性があります。患者の状態に応じて可能であれば、CVC実施前に休薬、リバース、濃厚血小板輸血、新鮮凍結血漿輸血等を検討します。また、PICCにおける上腕の穿刺は、この場合比較的安全な穿刺部位・穿刺方法と位置付けられるため、積極的な検討が推奨されます。
2. 体型の異常の軽視:極端なるいそう(BMI<20)では穿刺が深くなりやすく❾気胸のリスクが上昇するため、PICCを積極的に検討します。肥満・浮腫(BMI>30)では穿刺の難易度が上がるため不成功のリスクが上昇します。変形・拘縮があると非標準的な解剖になり、❶動脈誤穿刺や不成功のリスクが上昇すると考えられます。不成功からさまざまな合併症に結び付きやすいので、体型の異常には十分注意し、穿刺挿入部位と穿刺法はより慎重に検討します。
3. 穿刺部の異常の軽視:感染、熱傷、汚染、皮膚の脆弱性などは❿挿入部感染のリスクとなりますので同部からの穿刺挿入は回避します。瘢痕や外傷後は、解剖学的異常や皮膚の脆弱性を伴っていることがあるので、同様にできるだけ穿刺は回避します。❿挿入部感染は⓫CRBSIに進展するリスク要因となるため上腕部がこれらのリスク要因から十分離れていればPICCを積極的に検討します。なお乳房切除術後は、リンパ浮腫などの原因となりうるので同側からのCVCは回避します。
4. 意識・精神状態の異常の軽視:従命不可、安静保持困難がある場合は、安定した処置が困難となり、不成功や誤穿刺などの合併症の原因となります。CVC自体の再検討、鎮静下での実施などを検討する必要があります。CVC自体は成功しても、その後の管理中の自己抜去のリスクが高い場合は、やはり計画の見直しが必要です。
5. 既往歴の見落とし:過去にCVCが困難だった既往があったことを見逃すと、同じ失敗を繰り返す可能性があります。過去のデータはできるだけ収集しておくことが大切です。また悪性腫瘍、妊娠中、DICなどが基礎にあると血液が過凝固状態となっている場合があり、血栓症のリスクが上昇します。穿刺部位や留置期間について慎重に検討する必要があります。大腿静脈からのアプローチは特にリスクが高くなります。アレルギー反応の既往がある場合、当該薬を使用しなくとも、アレルギー反応が生じやすいとみなして、用心しておくことが大切です。これを見落としていると、急変時の初動が遅れます。
6. 循環動態の異常の軽視:血管内脱水、低血圧、ショックがあると静脈が虚脱しており、穿刺困難や多数回穿刺から合併症を発生させるリスクとなります。可能であれば補液する、血管を拡張させる、体位を取るなどの対策を行います。なお、多数回穿刺は合併症発生のハイリスク要因です。一方、心不全があると中心静脈圧が上昇しており、穿刺時の逆流血に勢いが生じるため、❶動脈誤穿刺と誤認する可能性があることに注意しましょう。
7. 呼吸状態の異常の軽視:基礎に低酸素血症、頻呼吸・大呼吸があると、❾気胸など呼吸系の合併症が発生した場合の重篤度が高くなります。❾気胸は内頚静脈穿刺からでも発生します。挿管人工呼吸中、非挿管人工呼吸中では、❾気胸が発生した場合、陽圧換気により緊張性気胸に進展するリスクが上昇します。このような患者ではPICCを積極的に検討します。また大呼吸の場合、吸気時の胸腔内の陰圧が強くなることで穿刺針やカテーテルが大気圧に開放されると強く空気を引き込みやすく、その結果⓬空気塞栓を発生させるリスクが高くなります。
8. 人工物の植え込みの見落とし:V-Pシャント、カフ型ブラッドアクセスカテーテル(テシオカテーテル、パリンドローム)、永久ペースメーカー、人工血管など、体表面からはわかりにくい人工物を見落としていて、それらの近傍からCVCを実施した場合、人工物の感染や機能不全を引き起こすリスクが発生しますので避けます。IVCフィルターが挿入されている場合は、ガイドワイヤーがフィルターにトラップされて抜去困難またはフィルターの迷入が発生するリスクがあることに注意します。
9. 人工透析のアクセスの見落とし:内シャント、グラフト、動脈の表在化などで維持透析を行っている患者の場合、同側の上腕や鎖骨下からのCVCのアプローチは禁忌となるのは当然ですが、反対側も相対的に禁忌となります。なぜなら、将来的に反対側にシャント等を作り直す可能性があり、その際に先行して留置されていたCVカテーテルの影響で静脈に狭窄・閉塞などが生じているとアクセスが作成できなくなってしまうからです。透析患者では必然的にCVCの穿刺部位は限定されてしまいます。

c. 説明と同意
1. 書面での説明がない、同意書を取得していない:この場合、事故や合併症が発生すれば係争に発展するリスクが高くなります。可能な限り、納得のある説明をした上で同意を書面で得るようにする必要があります。特にその患者特有のリスクを説明することが大切です。患者本人だけでなく、できるだけ家族・関係者にも説明したほうが良いでしょう。ただし緊急時は事後承諾も許容されます。また本人がサインできない場合(意識障害、鎮静下、幼児など)は、関係者による代理サインも可となります。

d. 実施環境
1. 生体モニターの未装着、または故障:処置中になんらかの有害事象が発生し、⓭不整脈、ショック、酸素化不良などのバイタルサインの悪化が生じても、生体モニターの未装着や機能不全があるとその発見と対応が遅れ、重篤化するおそれがあります。CVCは必ず正常に機能する生体モニター装着下(心電図、血圧計、パルスオキシメーター)で実施しなければなりません。
2. 除細動器準備なし:処置中に発生した⓭不整脈が心室細動など致死性であった場合に、除細動器が近くになければ心拍再開が遅れ、重篤化するおそれがあります。除細動器はその場にはなくとも、必要時にすぐ使用できる至近距離に設置しておくのがよいでしょう。
3. 救急カート準備なし:急変した場合、対応が遅れ、重篤化するおそれがあります。必要時にすぐ使用できる至近距離に準備しておきましょう。CVCは「危険手技」であり、それを実施する際に緊急時への備えがなかった場合、過誤に問われる可能性があります。また、急変時には処置が可能な十分に広い場所で実施することが推奨されます(例:血管造影室、手術室)。
4. 酸素の使用不可:酸素配管がない、酸素ボンベを用意していない、酸素吸入器(コルベン)がない環境では、呼吸のトラブルが発生した場合に重篤化するおそれがあります。必ずそれらが利用できる環境下で実施しましょう。
5. FLS下操作でない:非透視下では処置中にガイドワイヤー、ダイレータ、カテーテルの適正な挿入が確認できないため、⓮カテーテル位置異常などの合併症のリスクが生じます。これが二次的に㉓血管外漏出、㉒血管損傷を引き起こし、さらに❸血胸、❻皮下血腫、⓭不整脈、⓯心タンポナーデ、⓰胸腔内輸液などに進展する可能性が発生します。これらの予防のため、できるだけ血管造影室や透視室などを利用してCVCを実施し、適正な位置に留置することが推奨されます。
6. 穿刺用エコーがない、または故障:汎用エコーでもエコーガイド下穿刺は可能ですが、操作が難しくなり手技の難易度が上がり、それが不成功や合併症の原因となります。できるだけ穿刺用エコーを利用することが勧められます。また正常な画像が映らない故障があれば、穿刺は困難となりますので、事前に確認しておきます。

e. 体位取り
1. 血管虚脱の軽視:血管が虚脱していると思いがけず後壁穿刺や深い穿刺となりやすく、❶動脈誤穿刺、❹後腹膜血腫、❺縦郭血腫、❾気胸のリスクが上昇します。輸液負荷、下肢挙上や穿刺部が下になるような体位調整などで血管拡張を図るほうがよいでしょう。また駆血ができる分、PICCの方が穿刺が容易になるケースがあり、その場合はPICCを積極的に検討します。また、骨盤高位-頭低位のTrendelenburg体位が内頚静脈穿刺、鎖骨下静脈穿刺の基本体位とされていますが、必ずしも容易ではないので、実施環境に応じて検討します。
2. 禁忌の体位の見落とし:心不全や脳圧が高い場合、頭低位は禁忌となります。状態が悪化し、CVC実施中に急変するリスクがあります。

f. 必要器材準備
1. カテーテルキットに不慣れ:カテーテルキットのメーカー、種類ごとに使用法の特性が異なり、それを事前に理解していないと手順に手間取り、あるいは再試行を余儀なくされることでリスクが上昇します。特に穿刺針の選択が重要です。エコーガイド下CVCではほとんどの穿刺部位、ほとんどの症例で長針は必要なく、34mm程度の短針で実施可能です。また、できるだけ細径の穿刺針(22G~20G)のほうが低侵襲のため推奨されます。穿刺深度に対して不必要なほどの長針を使用することは、それ自体で合併症リスクが上昇することを意味します。
2. その他の器材準備不足:使用する器材があらかじめすべてそろっているか実施前に確認します。その場になく、使用するときになって探してくるのは、タイムロスから予想外のトラブルを招くことになります。「段取り八分、仕事二分」といいますが、準備不足はミスの遠因となります。

g. プレスキャン
1. プレスキャンが不十分、または未実施:動静脈の同定、脈管の走行や分枝の状態、血管径、呼吸性変動、体表面からの静脈の深度、リンパ節腫脹・anomaly・血管閉塞・血管内血栓の有無、静脈が圧迫で虚脱することの確認(=血栓閉塞の除外)などを事前にエコーで評価することをプレスキャンといいます。ここで隠れた解剖学的なリスクを発見し、最適な穿刺部位・穿刺方法を検討します。プレスキャンを行わずに予想外の解剖学的異常を見落とすと、❶動脈誤穿刺などの合併症のリスクが上昇します。利用できれば過去のCTも参照します。肺気腫の場合は肺が過膨張となっているため、肺尖部を誤穿刺し❾気胸となるリスクが通常よりも高い場合があり、PICCを積極的に検討します。また、エコープローブで静脈を圧迫しても容易には虚脱しない場合、エコーでは見えない中枢側が血栓閉塞している可能性があり、その場合は穿刺部位を変更する方が無難です。

h. タイムアウト
1. タイムアウト注)の未実施:介助者等との情報共有不足から、禁忌の見落とし、急変時対応の遅れなどのリスクが生じます。CVCは小手術という扱いで、タイムアウトを実施することが推奨されます。
注)タイムアウト:手術前に関係者がすべて集まり、患者氏名、穿刺部位、リスク確認などの作業をすることでチーム化し、事故防止や迅速対応に役立てること。

i. 感染防御
1. MBP注)の未実施:⓫CRBSIのリスクが上昇します。⓫CRBSI はCVCの主要な合併症のひとつであり、発生すると死亡率も高くなるため、予防が重要です。MBPはCVCでは必須かつ標準的です。消毒はクロルヘキシジンアルコールが推奨されます。
注)MBP:マスク、キャップ、滅菌手袋、滅菌ガウン、体全体を覆うドレープで処置を実施すること

j. 局所麻酔
1. 局所麻酔後のショック:⓱リドカインショックの可能性を考えます。アナフィラキシーショックに準じて気道・呼吸・循環の安定化を図ります。

B) 処置中

a. 目標静脈穿刺時
1. 不必要な長針の使用:長針はそれ自体に深部まで到達してしまうリスクが内在しています。❶動脈誤穿刺、❷動脈カニュレーション、❸血胸、❹後腹膜血腫、❼神経損傷、❾気胸、⓲気管損傷など長針使用と関連している合併症は多いため、これをできるだけ使用しないこと、それだけで合併症の発生数は大きく減少させることができると考えられます。短針は34mm程度のものですが、自験例では日本人で極度の肥満・浮腫がなければ、エコーガイド下内頚静脈・腋窩静脈・大腿静脈穿刺は短針でほとんど穿刺可能です。エコーガイド下CVCでは短針の使用を標準とし、高度の肥満や長軸像穿刺用ニードルガイドの使用時などの場合に、例外的に長針を選択することを基本設定にしておくことが強く推奨されます。なお、カニューラ針の使用はエコーガイド下穿刺では操作が難しく、推奨されません。
2. エコーガイド下穿刺に習熟していない:エコーガイド下穿刺は2次元のエコー画像を見ながら、穿刺針先端を3次元的に目標静脈に誘導する技術です。2次元の画像を見て、3次元的な構造や動きがイメージできないと、「見ているようで見えていない」ために、誤穿刺や失敗の可能性が増大します。これがエコーガイド下穿刺における大きいピットフォールとなります。血管を輪切り方向に描出して穿刺する短軸像穿刺では、両手を使って穿刺針を進める操作とエコープローブを動かして針先を誘導する操作を同時進行または交互に行わなければなりませんが、その際に針先を見失わないように目標静脈まで誘導していくこと、これが短軸像穿刺の技術的な核心部です。短軸像穿刺はswing scan法とsweep scan法の2種類を区別できます。この手法では、どちらも穿刺針の持ち方・刺入点・刺入角度・プローブの動かし方に習熟していないとうまく誘導できず、いつのまにか後壁穿刺や深部穿刺になったり、目標外の穿刺になったりします。最終的には❶動脈誤穿刺、❸血胸、❹後腹膜血腫、❾気胸などの重大合併症を引き起こすおそれがあります。このような合併症を防止するためには、エコーガイド下穿刺の原理・理論を理解し、穿刺シミュレータと穿刺用エコーを使って穿刺の練習をすることが有用です。エコーがありさえすればCVCが安全に実施できるというものではありません。また実際の穿刺場面で習熟度が足りないと評価した場合は、手技を中止または上級医との交代が勧められます。浅い血管ではsweep scan法が適しているので、エコーガイド下上腕PICC法では通常、sweep scan法で穿刺します。なお、エコーガイド下穿刺にはこのほか、長軸像穿刺と斜位像穿刺を区別しますがここでは詳しく触れません。技術的にはそれぞれ一長一短があります。
3. 多数回穿刺した:多数回穿刺はそれ自体、合併症の発生率を上昇させる主要因子であり、❶動脈誤穿刺、❸血胸、❹後腹膜血腫、❾気胸などの重大合併症を引き起こす確率が高くなります。何度も穿刺しているうちに巨大な❻皮下血種が形成される確率が上昇し、それが❽気道閉塞など、短時間で致命的となる合併症につながることにもなります。もともとドレープの下になった患者の状態変化には気づきにくいことにも注意が必要です。いつの間にか気道が閉塞しかかっているということにもなりかねません。穿刺中は患者の新しい自覚症状の出現、生体モニターの変化などに注意し、急変すれば手技を中止して気道・呼吸・循環のサポートを行います。穿刺回数の制限は、一般的には穿刺に3回失敗したら交代する「スリーアウトチェンジ」ルールがよく知られています。また、経験が浅い術者の場合は交代できる上級医とともに常に実施することが推奨されます。
4. 動脈を誤穿刺した:エコーガイド下穿刺でも❶動脈誤穿刺は起こりうるトラブルです。エコーガイド下穿刺に不慣れな場合、動静脈の位置が逆転しているanomalyがある場合、長針を使用した場合、エコーでの描出不詳でターゲットがぼんやりしている場合などがそのリスクになります。誤穿刺の頻度が高い動脈は総頚動脈、椎骨動脈、鎖骨下動脈、大腿動脈、外陰部動脈などです。強い拍動性の逆流、鮮紅色の逆流血などで判別できることが多いですが、循環不全、酸素化不良状態では判然としないこともあるため、少しでもおかしいと思ったら、血液ガス分析、圧ライン接続など追加の確認処置を行います。動脈誤穿刺を確認した場合、22G~20G程度の細い穿刺針であれば抜針し圧迫することで止血できる可能性が高いですが、太い穿刺針(18G~)で深部を穿刺した場合は、重大な出血性合併症につながるリスクがあり、安易に抜針せず血管外科等と迅速に協議するほうがよいでしょう。動脈血が多量に皮下に貯留し❻皮下血腫となった場合、圧迫しても血腫の弾力で力が刺入点に伝わりにくく、そのためさらに出血が持続する悪循環となり、止血は非常に困難になります。ゆえに動脈穿刺した場合、血腫ができる前に迅速に圧迫止血することが大切です。血腫により気道が圧迫された場合は、❽気道閉塞から窒息死する可能性があります。迅速な気管挿管等による気道確保が救命のカギとなります。神経を圧迫した場合は❼神経損傷となり、永続的な後遺症をもたらす可能性があります。血腫が胸腔に穿破した場合は❸血胸となり、縦隔に貯留した場合は❺縦隔血腫となります。これらは保存的にはコントロールが困難な場合があり外科的な対応を検討します。鼡径部大腿動脈の誤穿刺から❹後腹膜血腫となった場合も、止血コントロールが困難となり、時に致命的です。そのほか、のちのち⓳仮性動脈瘤や⓴動静脈ろうなどの対応に手間取る合併症を引き起こすこともあります。こうした動脈誤穿刺由来の合併症は血管外科にコンサルトする必要性がありますが、遅れるとシューティングは困難となります。したがって予防がなにより大切です。そのためには確実なエコーガイド下穿刺の技術に習熟することが最も有効です。❶動脈誤穿刺と認識できず、ガイドワイヤーの挿入からカテーテルまで挿入してしまった場合は、❷動脈カニュレーションとなります。これも血管外科へのコンサルトが必要になります。
5. 血管外を誤穿刺した:肺の臓側胸膜より深く穿刺してしまった場合は❾気胸となります。これは内頚静脈穿刺、鎖骨下静脈穿刺、腋窩静脈穿刺のいずれでも発生します。鎖骨下領域からのアプローチでは胸管穿刺から㉑乳び胸が発生する場合があります。頚神経叢、腕神経叢、反回神経などを直接穿刺し損傷した場合、❼神経損傷となります。まれですが脊髄腔、クモ膜下腔、硬膜外腔を穿刺して⓮カテーテル位置異常となり、そこから❼神経損傷となる場合、気管を穿刺し⓲気管損傷となる場合もあります。これらの多くは長針使用による深部穿刺とも関連しています。エコーガイド下上腕PICC法では、正中神経損傷の回避に最大限の注意が必要です。この予防には、上腕部の動脈・静脈・神経の解剖とエコー画面での見え方および、エコーガイド下穿刺に習熟することが必要です。
6. 空気が流入した:静脈穿刺成功後、穿刺針の接続部を外して短時間でも大気に開放すると、⓬空気塞栓を発生させるリスクがあります。できるだけ大気圧にさらさないよう、密閉した状態で処置を行います。大呼吸の患者など空気が引き込まれるリスクが高いケースでは、上腕部からは空気が引き込まれにくいPICCを積極的に検討するのがよいでしょう。

b. ガイドワイヤー挿入時
1. 挿入時に抵抗がある:穿刺はうまくいってもガイドワイヤーがスムーズに挿入できないことがしばしばあります。よくあるピットフォールは、ガイドワイヤーを穿刺針に通していく過程で、針先がわずかに押されて血管後壁に当たっているか、もしくは後壁を穿通している場合です。穿刺がうまくいった分、ガイドワイヤーは通るはずだと思い込んで無理な操作で泥沼化し、場合によっては血管外にガイドワイヤーが留置されることもあります。その結果、⓮カテーテル位置異常、⓰胸腔内輸液などに進展するおそれがあります。ガイドワイヤー挿入時に変な抵抗がある場合は、血液のスムーズな逆流を再度確認することや、エコーで針先と血管内腔の関係を再確認することがトラブル回避になります。一方、浮腫が強い患者では組織間を抵抗なくガイドワイヤーが進んでしまうこともあり、抵抗の有無だけでは確実性に劣ります。静脈内にガイドワイヤーが見え、後壁側に沿ってゆるくカーブしているエコー画像を確認すること、すなわちポストスキャンを実施するのが確実です。確実なガイドワイヤー挿入法は、ガイドワイヤー挿入時は体表面と穿刺針をしっかり固定し、針先がぶれないように注意します。ただし途中まで挿入がスムーズでも静脈の中枢側で血栓閉塞している場合は、ガイドワイヤー挿入に抵抗があって進みません。この場合は造影剤を流してみれば診断できます。閉塞が確認できれば穿刺部位を変更し再試行する以外ありません。造影CTなどがあらかじめ施行されていない限り、このような血栓閉塞を事前に察知することは困難ですが、プレスキャンで圧迫しても容易に虚脱しない静脈の場合、中枢側で血栓閉塞している可能性があります。
2. 深く入りすぎた:ガイドワイヤーが右房・右心室内まで挿入された場合、心筋を刺激し心室細動、無脈性心室頻拍などの致死的な⓭不整脈を惹起させるリスクが生じます。この場合はただちに手技を中止し除細動を実行します。生体モニター装着下では、不整脈の出現はリアルタイムで覚知できますので、早期発見のためには必須です。心筋をガイドワイヤーが穿通し、⓯心タンポナーデとなった例の報告もあります。ガイドワイヤーは20cm以上挿入しないこと、またはFLS下で右房まで到達しない深さに留めることが重要です。PICCはCVカテーテルキットよりガイドワイヤーが長い分、心室内まで到達しやすく、FLS下での操作が強く推奨されます。
3. 上大静脈以外に挿入された:何の抵抗の感触もなく、ガイドワイヤーが上大静脈以外に迷入していくのをFLSの画面で観察することは、珍しくありません。FLS下ではその場で修正できますが、非FLS下ではレントゲンで撮影後にはじめて⓮カテーテル位置異常が発覚することになります。そのとき❺縦隔血腫などが発生してもその発見が遅れることになります。あるいは、確認のレントゲンを撮影しない場合や十分に評価しない場合は⓮カテーテル位置異常が長期間放置されることになり、その結果、㉒血管損傷や㉓血管外漏出から重大な合併症を引き起こすリスクがあります。またガイドワイヤー挿入後にエコーで静脈内留置を確認する手順(ポストスキャン)を実施すれば、❶動脈誤穿刺や血管外留置はかなり確実に除外できますが先端位置までは確認できない不確実さは残り、完全には⓮カテーテル位置異常を除外することができません。FLS下操作はこうしたトラブルに対し非常に大きいアドバンテージをもたらします。
4. 針先にトラップされ抜けない:ガイドワイヤー挿入時に抵抗があるにもかかわらず無理に押し込むと、針先にガイドワイヤーがトラップされて、ガイドワイヤーが進まず、また抜けなくなる場合があります。無理に抜こうとすると針先でガイドワイヤーが切断され、㉔体内遺残となる可能性があるため、その場合は穿刺針ごとガイドワイヤーを引き抜きます。穿刺角度が大きすぎるとガイドワイヤーが末梢方向に進んでしまうことがあり、その場合もトラップされやすくなることに注意が必要です。
5. ポストスキャンを実施しなかった:ガイドワイヤーの静脈内留置をエコーで確認する手順がポストスキャンです。短軸像と長軸像の二方向で、ゆるく静脈後壁に沿ってガイドワイヤーが留置されていることを確認します。特にFLSがない環境では必須の処置です。これを実施しない場合、ガイドワイヤーが動脈内に留置されていれば❷動脈カニュレーションになり、血管外へ留置されていれば⓮カテーテル位置異常になってしまう恐れがあります。静脈穿刺に成功してもかならずしもガイドワイヤーの挿入がスムーズにはいかないことがあります。ガイドワイヤーの静脈内への正常留置の成否が、その後大きな合併症が発生するかどうかの分かれ目ということになり、ここがCVC手技の最重要ポイントです。

c. ダイレータ挿入時
1. 異常な抵抗がある:ダイレータは太く、長く、硬いため、組織傷害性が大きく穿刺時には通常ある程度の抵抗が発生します。しかし、異常な抵抗があれば不適切な挿入になっていないか、慎重に評価する必要があります。異常な抵抗の原因が、皮膚の貫通時の抵抗であれば、数mmの皮切を加えることで解決します。それが除外されても抵抗が強い場合は、ガイドワイヤーの挿入角度=穿刺角度より、ダイレータの挿入角度が小さい場合が考えられます。この場合ダイレータはガイドワイヤーを巻き込みながら血管外に進みやすくなり、そのガイドワイヤーで㉒血管損傷となり重大な出血性合併症や❻皮下血腫を形成したり、ガイドワイヤーの変形により処置の継続が不能になるトラブルが生じます。ゆえにダイレータは穿刺角度と同じ角度でガイドワイヤーを曲げずに挿入する必要があります。ダイレータ―を進める間、何回かガイドワイヤーを前後に動かし、スムーズに動くこと=ダイレータで曲げられていないこと、を確認するのが正しい手技です。
2. 挿入が深すぎた:必要以上に深く挿入した場合、血管の屈曲点をダイレータで損傷し㉒血管損傷となるリスクが発生するので、挿入長は原則5cm以内とします。透析用カテーテルの場合、ダイレータ自体が長いため、特に注意が必要です。

d. カテーテル挿入時
1. 上大静脈内に留置されていない:非FLS下操作でガイドワイヤーが上大静脈以外に留置された場合、最終的に⓮カテーテル位置異常となります。これは㉒血管損傷や㉖深部静脈血栓症のリスクとなるため、修正が必要です。右房・右心室レベルまで深く留置された場合、⓭不整脈や⓯心タンポナーデを発生させるリスクが生じます。カテーテルが胸腔内に留置され輸液が開始された場合は⓰胸腔内輸液となり、貯留した量によっては重篤になります。FLS下操作ではこのようなイベントは回避できるため強く推奨されます。
2. 空気が流入した:ガイドワイヤー抜去後、カテーテルのルーメンをすぐにふさがず、大気に開放された状態になると⓬空気塞栓のリスクが生じます。サブルーメンのクランプ忘れや開放もピットフォールになります。
3. ガイドワイヤーを抜き忘れた:カテーテルの遠位端からガイドワイヤーの端をつかみながらカテーテルを挿入していかないと、カテーテルとともにガイドワイヤーが血管内に完全に留置され、㉔体内遺残となります。これは経カテーテル的に除去しますが、長期間㉔体内遺残に気づかず、心筋を穿通して⓯心タンポナーデで死亡したケースが存在します。また、遺残したデバイスの刺激で⓭不整脈が生じることがあります。スタイレットが挿入されているカテーテルキットの場合は、スタイレットも忘れずに抜き去ります。処置後のトレイにガイドワイヤーがあることを確認する、X-pでカテーテル以外の人工物を見逃さない、などのチェックが必要です。
4. 固定中にカテーテルを損傷した:カテーテル留置後、固定具を使用し皮膚とカテーテルを固定しますが、その際の針糸でカテーテルを傷つけてしまった場合、もうそのカテーテルは使用できません。再施行を余儀なくされます。

e. 確認時
1. 胸部X-pですぐに確認しなかった:カテーテル先端位置の確認と合併症チェックのため、処置後には必ず胸部X-pを撮影し確認します。これを怠ると、❷動脈カニュレーション、❾気胸、⓮カテーテル位置異常、㉔体内遺残などが見逃される可能性があります。なお、カテーテル先端位置は呼気位で気管分岐部になるように調整すると心外膜の外側に先端が位置することになるので、⓯心タンポナーデ予防には有効です。
2. 上大静脈の壁に先端が強く押し付けられている:左内頚静脈・左鎖骨下静脈経由でのカテーテル挿入は、血管走行の特性からカテーテル先端が上大静脈の壁に強く押し付けられやすいリスクがあります。放置しておくとカテーテルが穿通するなどの㉒血管損傷や輸液組成によっては㉓血管外漏出を来し、⓯心タンポナーデ、⓰胸腔内輸液などの重篤な合併症の原因となりますので修正または再施行が必要です。

C) 管理中

a. カテーテルのトラブル
1. 自己(事故)抜去した:不穏せん妄で自己抜去するケース、輸液ラインの牽引による事故抜去などが起こりえます。事故抜去に長時間気づかない場合、抜去部からの㉕失血、抜去部から血管内に空気が引き込まれる⓬空気塞栓、カテーテルが離断し体内に迷入する㉔体内遺残などの合併症が発生する可能性があります。リスクが高い患者では輸液ラインの計画を根本的に再検討するか、十分な予防対策、細かい患者ケアなどが必要です。
2. 血管壁を損傷した:カテーテル先端による長期的な機械的刺激や高浸透圧溶液の接触により、㉒血管損傷となる場合があります。カテーテル先端が大きく動くような動作(体操、キャッチボールなど)を日常的に行わないように、患者に注意しておくことが予防になります。また、血管壁自体には穿通がなくとも高浸透圧性の薬剤が血管壁を浸透して㉓血管外漏出となる場合があります。心嚢内で漏出した場合は⓯心タンポナーデ、胸腔側に漏出した場合は⓰胸腔内輸液になります。カテーテルが穿通しなくともこのような輸液の漏出が起こりうることを理解し、不可解な液体貯留が発生した場合はこれを疑って迅速に各種画像検査で検索することが重要です。診断したらそのときの状態、漏出部位に応じた対策を検討します。
3. カテーテル挿入経路に沿って浮腫・腫脹・疼痛がある:カテーテルによる㉖深部静脈血栓症の疑いがあります。CT、エコーで検索します。深部静脈血栓症が生じた場合、カテーテルは抜去し抗凝固療法を行うのが基本です。肺塞栓となった場合はその重症度に応じて対応します。PICCでは㉖深部静脈血栓症のリスクが比較的高いといわれ、注意深い管理と観察が必要です。
4. 固定具が外れた:カテーテルが抜けにくいように皮膚と固定する固定具の縫合糸が外れてしまった場合は、カテーテルがそれよりも深く入り込んで感染の原因とならないよう、また、完全に抜けてしまわないように再度固定しなおします。カテーテルによってはサイドルーメンとメインルーメンの孔がかなり離れているものがあり、数cm抜けてしまうとサイドルーメンだけ血管外に抜けてしまう可能性があります。このときカテーテル出口はすべて血管内だと誤って評価すると、㉓血管外漏出となるリスクがあるので、慎重に評価します。
5. 亀裂がある、漏出している:カテーテルに亀裂や離断が確認された場合、はっきりとは確認できないが輸液が漏出している場合は、カテーテルの破損と考え、入れ替えを検討します。なお、耐圧性能がないカテーテルに造影剤等を急速注入すると破損するリスクがありますので禁忌です。
6. 輸液が滴下しない、注入できない:カテーテルや輸液ラインのキンクがあればそれを解除し、なければカテーテルの閉塞と考え、入れ替えを検討します。その他考えられることは、高度肥満患者では体表面から静脈までの距離が長く、組織がルーズなので、体表面の固定が外れていなくとも皮下組織にカテーテルが徐々にとぐろを巻くように血管外に逸脱してしまい滴下できなくなることがあります。疑った場合は単純X-pでカテーテルの先端位置を確認しましょう。なお閉塞予防は1日1回のヘパリンフラッシュとロックで行うのが通例ですが、24時間連続の輸液滴下のほうが予防効果は確実です。

b. 輸液ラインのトラブル
1. 接続部の外れ・離断・開放が生じた:長時間気づかれないと、⓬空気塞栓や㉕失血の原因となります。開放式の三方活栓はこれらのリスク要因となりますので閉鎖式が推奨されます。側管からの頻回な輸液や注入、頻回な採血を行うと、接続部にゆるみが生じるリスクとなるため、日常的にゆるみの点検を行うことが重要です。

c. 感染兆候
1. 全身の感染兆候がある:発熱、炎症反応上昇、血液培養陽性などの所見が出現した場合、⓫CRBSIを疑います。⓫CRBSIを疑った場合、カテーテルを抜去し先端を培養検査に提出し抗菌薬治療を検討するのが基本となります。
2. 挿入部の感染兆候がある:❿挿入部感染は挿入部の発赤、腫脹、硬結、排膿、疼痛、熱感などの所見が現れます。こうした場合、挿入部の感染を疑い、カテーテル抜去が基本となります。放置しておくと⓫CRBSIに進展するリスクが生じます。
3. 血液培養からカンジダが検出された:真菌による⓫CRBSIと考え対応します。真菌の⓫CRBSIは特に真菌性眼内炎に進展しやすく、またそれに気づきにくいので、長時間放置された場合は失明する可能性があります。特に鎮静管理中では患者から視力の異常の訴えがないために、発見が遅れがちになるピットフォールがあります。眼科の診察と治療、フォローアップは必須です。

d. 状態変化
1. 新しい自覚症状が出現した:CVカテーテルが挿入されている患者で、胸痛・背部痛・呼吸困難感など新しい自覚症状が出現した場合は、それがCVカテーテルに由来するなんらかの合併症と関連していないか、慎重に評価します。特に❸血胸、❽気道閉塞、❾気胸、⓬空気塞栓、⓯心タンポナーデ、⓰胸腔内輸液、など短時間で重篤化しやすい合併症の検索が重要です。
2. 新しいバイタルサインの異常が出現した:CVCの処置後しばらくしてから明らかになる合併症も珍しくありません。それを早期に発見し迅速対応するには、生体モニターの装着が重要です。❸血胸、❹後腹膜血腫、❺縦隔血腫、❽気道閉塞、❾気胸、⓭不整脈、⓯心タンポナーデ、⓰胸腔内輸液、㉑乳び胸、など多くの合併症の早期発見に生体モニターは役立ちます。

D) 抜去時

a. カテーテルのトラブル
1. カテーテルが離断した:固定具の縫合糸を抜糸する際、抜糸剪でカテーテルを離断してしまうと体内に迷入し、㉔体内遺残となります。固定具の抜糸は慎重に行う必要があります。

b. 抜去部のトラブル
1. 空気が流入した:抜去時のトラブルで最大限注意が必要なことは、⓬空気塞栓を発生させないことです。カテーテルの抜去部は静脈と連続しており、吸気時に胸腔内圧が陰圧になった時にその陰圧が静脈に伝わり、解放された抜去部から静脈内に空気を吸い込んでしまうのが空気塞栓の機序です。抜去部がろう孔化している場合は抜去部が閉鎖されにくく、特に空気を引き込みやすくなります。これを予防するには安静仰臥位で抜去後、すぐに圧迫し通気性のないドレシングを貼付してしばらく安静にすることです。座位・半座位での抜去は陰圧が余計にかかり、さらに空気を引き込みやすくなるため禁忌です。抜去後のガーゼ貼付のみも空気が流入しやすいため禁忌です。また、ごく短時間で大量の空気が引き込まれる可能性があることに注意が必要です。もしも多量に空気が引き込まれた場合は、重症肺空気塞栓となり肺循環が阻害されることで、一気に心停止する可能性があります。肺動脈に空気が移動しないように、一時的には左側臥位+頭低位(Durant’s maneuver)で空気を心尖部に集める手技が有効です。PICCでは上腕部まで胸腔の陰圧が伝わりにくいので、抜去時の⓬空気塞栓のリスクは非常に小さいですが、慎重を期しCVカテーテルと同様に抜去します。
2. 多量に外出血した:静脈圧が高い患者の場合は、抜去部から出血する可能性があります。ドレシング後も出血が持続し長時間気づかなければ㉕失血となって、出血性ショック(循環血液量減少性ショック)に進展する可能性があります。出血傾向がある場合はこれが増強・加速されるリスクがあります。

<まとめ>
CVCの全プロセスにわたって、多くの地雷が埋設されていることがおわかりいただけたかと思います。同時に、この地雷を回避し、仮に踏んだとしても被害を最小限に抑えるには非常に多くのチェックポイントがあるということも見えてきたと思います。そして、特に被害が大きくなる地雷の位置があって、それは動脈誤穿刺、カテーテル位置異常、深部穿刺であることが透けて見えたと思います。これらはエコーガイド下穿刺、FLS下操作、細径短針使用の、比較的シンプルな方法で非常に効果的に回避できます。それで筆者はこの3つを「安全CVバンドル」と呼んで広く実践することを提唱しています。この3つで完璧とまではいえませんが、相当楽にCVC地雷原を歩けることは保証します。トラブルを未然に防ぐこと、それが究極のトラブルシューティングです。

略語:CVC(central venous catheterization; 中心静脈カテーテル法)、PICC(peripheral inserted central catheter; 末梢留置型中心静脈カテーテル)、FLS(fluoroscopy; X線透視)、MBP(maximal sterile barrier precautions; 高度無菌感染防御)、CRBSI(catheter related blood stream infection; カテーテル関連血流感染)、HBO(Hyperbaric oxygen therapy; 高圧酸素療法)、ECMO(extracorporeal membrane oxygenation; 体外式膜型人工肺)、PLSVC(persistent left superior vena cava; 左上大静脈遺残)

参考文献:
• 医療事故の再発防止に向けた提言 第1号 「中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―」 一般社団法人 日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)
• 中心静脈カテーテル挿入(CVC)に関する指針(改定第3版)2020年(公益財団法人 日本医療機能評価機構 認定病院患者安全推進協議会 CVC検討会)
• SMACプラス 添付文書 日本コヴィディエン株式会社
• 中心静脈カテーテル法マスターコース(www.echo-cvc.com)
• 安全な中心静脈カテーテル挿入・管理のためのプラクティカルガイド 2017(2017 年 6 月改訂 公益社団法人 日本麻酔科学会 安全委員会)