2022年3月2日投稿

2005年から院内と院外とをあわせて、また学会のランチョン/イブニングセミナーなどを含めて、約150件のCVC研修講師を務めさせていただきました。CVCの安全対策and/or技術指導で、講演だけの場合もありますが多くはハンズオン・トレーニングとの組み合わせです。参加者は研修医から専攻医くらいの初心者対象の場合もあれば、卒後10年目以上の指導者対象の場合もあります。平日終業後に1.5~2.0時間程度の講習か、土曜午後2.5~3.5時間のやや長丁場の講習もあります。ハンズオントレーニングではシミュレータ、穿刺キット、エコーなどの器材やその準備スタッフが必要なので、多くは日本コヴィディエン株式会社(今後Cardinal Health Japanに社名が統合されるようです)の方々のバックアップで行ってきました。

そんななか、日本コヴィディエン株式会社主催で「CVCエキスパートセミナー ~CVC指導者のための技術支援プログラム~」と題した名古屋地域の指導者向けセミナーに毎年招聘されまして、今年は1/22に開催し6回目となりました(昨年は中止)。土曜の午後3.5時間をCVCのことだけ考えて議論しトレーニングするという、なんとも濃厚な企画です。

自施設でCVCのクオリティを保つ責任を背負った先生方ばかりでとても真剣です。で、毎回似たような話題で議論になります。「このようなトラブルがあったが今後どうしたらいいかわからない」「研修医をどのように教育したらいいか」「そちらではどのような研修を行っているのか」「ベテラン層をどのように再教育したらいいか悩んでいる」「エコーガイドでやっている人のやり方が危なっかしいがどう介入すべきか」などなど。どこでもだいたい同じようなCVCにまつわる悩みが聞けます。正直、こうした質問には一定の正解があるわけではないので、こちらはとても歯切れが悪くなります。自施設の経験などを話すくらいしかありません。ただ同じような悩みをかかえているんだな、という共感が参加者にひろがるという効果はあるようです。単一施設での開催でなくいろいろな施設から集まって来られるので、「うちだけじゃないんだ、みんな同じような環境で困ってるんだ」という問題の共感や共有はこのセミナーのひとつの効用かもしれません。

このようなセミナーを継続的に企画されてきているCOVIDIENさんの企画力や熱意にはとても感服します。ただでさえ時間に追われている先生方の土曜の午後の数時間をいただくお誘いをするのは、とても勇気がいることでしょう。その分こちらも気合が入ってしまいますが、ときどき入りすぎて滑るのが反省です。

CVCという難しい問題解決において、現場医師の孤軍奮闘だけではどうしても限定的ですが、メーカーさんが企画し一緒になってCVCの安全手技やキットの適正使用の全国的な底上げをしていこうという姿勢は稀有のものと思います。売ったら売りっぱなし、あとはどんな事故が起きてもそっちの責任。自動車メーカーならそんな自己責任の一点張りで、ほかには車検通して任意保険に入れぐらいしか言わないと思いますが、医療はそうではないでしょう。beforeもafterも大事です。このセミナーでは医療機器メーカーのひとつのあるべき形をいつも見せてくれます。

医療事故は、特にCVCは多いと言われますが、それを未然に防ぐには、メーカーも現場もあるいはもっと上の方、たとえば厚労省とか事故調とか、を巻き込んで、「安全文化」を醸成していかなければならないと強く思います。思い付きにすぎませんが、安全基準の設定(デバイス、実施環境、研修教育、記録と統計など)とそれを満たせば医療加算をつけるとか、機能評価の項目として明記するとか、そんなのが実効性があるのではないかとも思います。

現代医療のダークサイド、CVC問題はまだまだ全然終わりません。われわれの施設においても未解決問題は残っています。ただ、誤解を恐れずに言えばわれわれにとってはかなりの部分、問題は終わっています。医療安全管理部門のSTEP委員も長年務め、会議にも出席していますが、CVC関連のエラー、インシデントはほっとんど上がってきません。CVCを安全に確実に実施する体制、環境、教育は、ほぼ実現し、完成形に近いはずだと自己評価しています。もちろん慢心は禁物ですが。同じことがどの施設でもできるというものではないでしょうが、ただの理想ではなく、少なくとも実例があることを、今後もCVCエキスパートセミナーでは示していきたいと思います。

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