2021年12月18日投稿

m3.comに、先日、「PICCとミッドライン、短期留置ではどちらが安全?」のタイトルで海外ジャーナルの紹介がありました(Swaminathan L, et al. Safety and Outcomes of Midline Catheters vs Peripherally Inserted Central Catheters for Patients With Short-term Indications: A Multicenter Study. JAMA Intern Med. 2021 Nov 29. Online ahead of print.)。おぅ?と思い、わたしは食いつきました。佐久医療センター ミッドラインカテーテル ワーキング・チームで、ここ2-3年アグレッシブに取り組んできたこのミッドラインにフォーカスしていた論文だったからです。過去にも似たテーマの論文もありましたがこれは規模が大きい。説得力がある。非常に興味深い。しかしそれから何日か経ちましたがm3には誰もコメントを投稿していませんでした。PICCとミッドラインを比べたといっても、大体ミッドラインが何なのかがあまり知られていないのが実情でしょうから、興味の持ちようもないのでしょう。

ミッドラインカテーテル法は、少なくとも佐久医療センターでは近年大きいインパクトをもたらしている(に違いない)、非常に有用な静脈路確保の方法です。この手法の意義・位置づけ・調査結果は、長くなるのでおいおい紹介していきたいのですが、まずはこのジャーナルです。要約の日本語訳しか読んでませんが、概要は以下のようです。

静脈路確保が困難か30日以下の抗菌薬治療を適応としたPICC(5758例)とミッドラインカテーテル(5105例)のコホート研究で比較。PICC群の方がミッドラインカテーテル群より重大合併症発生リスクが高く(OR 1.99、95%CI 1.61-2.47)、カテーテル閉塞の率が高く(ミッドライン2.1% vs. PICC 7.0%、P<0.001)、血流感染発生率が高かった(ミッドライン0.4% vs.PICC 1.6%、P<0.001)。

やっぱりそうか。そうだろう。一流誌だからといって鵜呑みにするなというのはここ2年くらいのわれわれの学びではありますが、これは予想していた結果で、この研究にことさら眉に唾をつける必要はないと思いました。

「末梢ルートがとれない」入院患者さんは、コンスタントに発生しているのはご承知の通りです。そうなると頻繁に、ひどいときは毎日数回ずつの痛み刺激を与えてなんとかルートを確保するか、CVカテまたはPICCを入れるか、ということになってました。ルートがとれないというだけで、患者さんは非常につらい療養を強いられるか、なくてもいいリスクを背負わされるかどちらかだったわけで、高品質な医療とはいえないな、と前から感じていました。医療者側にとっては、取れないルートを必死に、時に1時間以上もかけて、何度も穿刺試行して、患者を痛めつけるストレスと時間的コスト、このようなuglyな医療景色が解消されます。ミッドラインカテーテルは患者支援だけではなく、だいたい半分は医療者支援なのです。もちろん、PICCも良い手法ではありますが、やはり中心静脈路の一種で、カテーテルも長いので、その分のリスクはあります。

患者の快適さとリスクの低減の一挙両得となる方法はないだろうか。ミッドラインカテーテル法は?というところから試行錯誤で始めたのが2018年4月ころ。それ以降実績を重ねて、かなりよい結果が出ています。なので、この重大合併症と閉塞と血流感染がPICCよりも少ないという今回のレポートを受けて、ますます自信を持ったところです(つづく)。

なお、佐久医療センターで実施しているミッドラインカテーテル法の概要は、こちらに解説してあります。