2023年6月9日投稿

医療事故調からCVCに関する提言第2報提言17が今年2023年3月に公表されました。全部で44例のCVC関連死亡事故事例を分析し、前回の第1報を整理補足する改訂版となりました。それを読み込んで全く個人的な見解ですが解説しました。それにしてもこの提言17の10から11ページの見開きを見たら、44例の一覧表はすさまじい。これ全部がCVC関連死亡事例だということにめまいと吐き気を覚えます、率直に言って。内容を整理するとわかりますが、これらは事故が頻発する「魔のカーブ」があって起きている事故ではないということです。そんなに単純に、気をつけなければいけないポイントが一つだけあるといったものじゃないです。通り道全部が「魔のカーブ」といってもいいですが、それだと現実感が希薄になりますので、個人的には「地雷原」と言っています。やたらに地雷が埋まっていてそれを撤去したり避けたりしながら踏破していかなければならないのがCVCですが、ちょっとよろけたりすると踏んで爆発してしまう。そんなイメージです。どこでどんな地雷をふんでしまったのか。理解しようとがんばりました。しかし理解しがたい事例もありました。こんなにずんずん行ったら踏むに決まってるのに・・・。ですから全体的な印象は、CVCの怖さがわかってないのかな?たかがCVと、イージーに考えすぎていないかな?地雷踏むとどうなるかわかってないのかな?です。でも事故とはそういうものかもしれません。本文では個人的な考察と総括を加えてかなり言いたいことを書き連ねてしまい、大量の文字だらけのチャプターになってしまいました。というぐらい自分のデトックスが必要でした。

ともあれこの第2報はCVCに関わる医療機関、携わる医師・診療看護師にとっては絶対に押さえておかなければならない必須資料であることは間違いありません。なぜなら、もしもCVCで事故った時に、ここに書かれてある提言=予防策のことを知らなかったとしたら?過誤認定・・・かもです。おおげさかもしれませんがそれくらいのポテンシャルを持っています。なんといっても事実から積み上げた第一級資料ですから。ひとごとでは全くありません。読み込んで自施設に活かしていかなければなりません。

それから今回の第2報では特筆すべきことがあります。長針による穿刺がCVC事故のリスクを増加させるのは当たり前で、深部穿刺が大事故と密接にリンクしているのはわかりきっていることですが、前回第1報(2017年3月)では「(内頸静脈は)深く刺しすぎないことは最も留意すべき点であり、3cm以上は穿刺しないことが重要である」という謙抑的な表現、あるいは「こっちが言いたいこと、察してくれよな」にとどまっていました。けれどその、誰に向けてかわからない忖度的なところがすごく不満でした。この程度の甘い忠告で事故が減る効果がでるのだろうか?長針を使ったというだけで、これまでいったいどれくらいの人が死んだと思ってんすか?ところがそれが、今回第2報では「内頸静脈を穿刺する場合は、安全性を担保するために短い穿刺針の使用を推奨する。」「損傷を最小限に留め、患者の安全を確保するために細い穿刺針のセットを使用することが望ましい」と細径短針を強調してきました。「はっきり言わないとわからないようだから言ってやる」というメッセージであることは明白です。拍手です。私は評価機構のCVC研修会が開始された2009年から、この「絶対短針!」を発信してきましたが、やっとはっきり言ってくれたか・・・という気持ちです。

第2報でここまで具体的に表記されているなかで、長針を使って事故ったら、どういう烙印を押されるのか、怖くないですか。短針は正義!

それから、以前から事故が多いとマークされていた血液浄化用カテーテルに関する事故が約20%、5件に1件とやはり高率でした。穿刺針、ガイドワイヤー、ダイレーター、カテーテルがすべて大振りであることが要因で、その分慎重を期すということが必要ですが、やはりそれ自体が相当危険な地雷ということに、今後も変わらないでしょう。

さらに末梢静脈確保困難がCVCの実施理由であった事例が、抜去時の合併症とその他を除いた38例中11例28.9%もあったことが目を引きます。3割です。「末梢ルートが取れなかったというだけの理由で死亡した」という悲惨、それがこのレポートで3割もあるのなら、報告されていない実数全体を想像すると、年間膨大な件数に及ぶでしょう。点滴がとれなかったから。そんな理由で人生が終焉することに、人は家族は耐えられるでしょうか?それとも末梢が取れなくなったらそれも寿命のうちだと主張する?それは傲岸というものでしょう。いずれにしてもこの死亡カテゴリを消滅させるだけで、CVCの死亡事故はぐっと減ることが期待できるのです!そしてその手法はすでにこの世に存在しています。ミッドラインカテーテルです。これは末梢静脈路が確保できなくなったがCVを入れるほどでもないという、中間的な患者が対象です。こんな入院患者はどこにでもたくさんいるでしょう。その患者層全部にCVを入れていたら、それは事故の実数も増えてしまうはずです。CVはなるべく入れない、入れるとしたら本当に必要な患者に限る、入れるときは万全の体勢とエキスパートで実施する。これが理想です。となると、末梢静脈カテとCVの中間的なデバイスがあれば助かるのでは?それがミッドラインカテーテルです。この記事の段階ではミッドライン専用カテーテルは本邦では市販されておらず(海外では20年以上前から導入)、それがネックとなって普及していませんでしたが、2024年の今年!ミッドラインカテーテルは来ます。ブームになります。専用カテが市販されます(2024年1月25日 CardinalHealth アーガイルミッドラインカテーテル)。徐々にその使い勝手や情報が拡散し、その利用価値に医師看護師が度肝を抜かれます。予言です。運命です。佐久医療センター(450床)では今のところ非保険材料(VYGON arterial leadetcath®)ですが、すでに年間300件ペースでミッドラインの需要があり、私ともう一人の麻酔科医、心不全認定看護師の3人でまかなっています。この300件、もしミッドラインがなかったら?取れない末梢静脈路を取るために、患者と看護師(か医師)の文字通り血みどろのバトルが続くか、施設のシステムにCVCの負荷が増えるか、そのどちらかであったわけですが、ミッドラインの導入でそれ以外の未来が見えてきました。ミッドラインの活用を強く推し進めていくことが、CVC事故の実数を削減することに直リンクし、実は今後のCVC安全対策の一部にもなるわけです。この波に乗り遅れないように!